2019年4月30日に幕を下ろす「平成」。マイナビニュースでは、「平成」の中で生み出されたエンタメの軌跡を様々なテーマからたどる。この連載は、「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志が、平成元年から31年までのドラマを1年ごとに厳選し、オススメ作品をピックアップしていく。第14回は「平成14年(2002年)」(※以下はドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください)。

平成14年(2002)、最大の話題は、何と言ってもサッカーワールドカップ。地元開催の日本代表が、初勝ち点、初勝利、初決勝トーナメント進出の快進撃で日本中が盛り上がった。テレビ視聴率は日本vsロシアの66.1%を筆頭に、ブラジルvsドイツの決勝戦も65.6%を記録。日本戦に限らず地上波で放送されたほとんどの試合で30%を超えるフィーバーぶりだった。

主な番組では、『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)、『大改造!!劇的ビフォーアフター』(テレビ朝日系)、『トリビアの泉 ~素晴らしきムダ知識~』(フジテレビ系)、『もしもツアーズ』(フジ系)、『銭形金太郎』(テレ朝系)がスタート。

一方、『ウンナンのホントコ!』(TBS系)、『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』(日テレ系)、『ASAYAN』(テレビ東京系)、『力の限りゴーゴゴー!!』(フジ系)、『ジャングルTV ~タモリの法則~』(TBS系)、『THE夜もヒッパレ』(日テレ系)、『ワンダフル』(TBS系)などが終了した。

ドラマのTOP3には、『相棒』『ごくせん』『木更津キャッツアイ』などシリーズ化された人気作ではなく、あえて“隠れた名作”を選んでみた。

■家族で見られる新機軸のファンタジー

3位『サトラレ』(テレ朝系、鶴田真由・オダギリジョー主演)

オダギリジョー

オダギリジョー

「生まれながらにして、思ったことが周囲の人々に伝わってしまう」という架空の症状・サトラレの設定が、ファンタジーとリアルの絶妙なバランスを生み出していた。「いかにも漫画原作の荒唐無稽な設定」という見方もあったが、他作品にはないドラマ性を生み出していたのも事実。また、一部で「本人だけ気づいていない」という設定が、「映画『トゥルーマン・ショー』に似ている」という声もあったが、独自の症状を加えた当作のほうがエンタメ性で上回る。

「サトラレには自覚がなく、それを知ると苦痛に耐えられないため、本人以外の人々は気づかないフリをしている」「国を救うほど規格外の天才のため、サトラレ対策委員会』という組織が本人と周囲の人々を監視している」などのディテールも万全で、見る人に「もし自分の周りにサトラレがいたら」と感じさせていた。

前年に公開された安藤政信主演の映画版も好評だったが、連ドラ版は強みである連続性にフィーチャー。サトラレの外科医・里見健一(オダギリジョー)の成長や、彼と病理医・星野法子(鶴田真由)が徐々に距離を縮めていく様子を丁寧に描いていた。

最大のハイライトは、健一が母・弘子(風吹ジュン)を手術するシーン。サトラレのため外科医なのに手術させてもらえない息子を救うべく命を差し出す母。手術がはじまると、健一の必死な思いが病院中に響き渡り、同僚も患者たちも成功を祈っていたが、すでに手の施しようがない状態だった。健一は屋上で泣き崩れ、その悲しみは病院中の人々に伝わり……というハートフルな展開に視聴者も涙。さらに最終話では、「健一がサトラレであることを知ってしまう」という映画版にはない大ピンチも描いた。

原作漫画の主人公は外科医の里見ではないことが、「サトラレの症状が最も向いていない職業の人物を主人公に据えることでドラマ性を高めよう という制作サイドの意図がうかがえる。近年の連ドラにおけるファンタジーは、どこかで見たようなタイムスリップや入れ替わりが多いだけに、当作のような大胆な設定の作品が見たいところだ。主題歌はGLAY「逢いたい気持ち」。

■月9の歴史に残る温かなグルメ作

2位『ランチの女王』(フジ系、竹内結子主演)

  • 竹内結子

    竹内結子

  • 妻夫木聡

    妻夫木聡

スイーツとイケメンを美しい映像で描いた『アンティーク ~西洋骨董洋菓子店~』から約半年。月9の次なる一手は、洋食とイケメンをハートフルに描く『ランチの女王』だった。

当初は「夜のドラマになぜランチ?」「夕食が終わったばかりの21時に料理のドラマ?」という懸念があったものの、オムライス、ハンバーグ、ハヤシライス、クリームコロッケ……シズル感たっぷりの料理がそれらを払拭。幸せそうに食べるヒロインの笑顔が不安を吹き飛ばし、何度も再放送されるヒット作となった。

江口洋介、妻夫木聡、山下智久、堤真一が演じた洋食店の鍋島四兄弟に加えて、山田孝之、森田剛、瑛太まで出演したイケメンコレクションが女性視聴者の心をガッチリつかんでいたのは間違いない。ただ、底抜けに明るいヒロイン・麦田なつみを演じた竹内結子と、天然ながら一途な塩見トマトを演じた伊東美咲の2人もまた男性視聴者をガッチリつかんでいた。いずれもその後の飛躍を見れば、若手俳優の登竜門という意味合いの大きさもわかるだろう。

「不幸な生い立ちから自分の居場所を探すヒロインと家族の絆を描く」という物語は1970年代から続く定番であり目新しさはないが、「ランチは働く人々の応援歌」というコンセプトや、最後までラブストーリーに頼らない姿勢など、プロデュースのバランス感覚が光った。

シンプルな舞台設定と物語、多彩なキャラクター、フレッシュな若手俳優、手間を惜しまない愛情たっぷりの料理。どれも表現の規制やコンプライアンス対策に悩まされる現在の連ドラシーンにもハマるのではないか。

主題歌は、スリー・ドッグ・ナイト「ジョイ・トゥ・ザ・ワールド」。同曲が物語のテンションを上げ、井上陽水の挿入歌「森花処女林」がシックなムードに誘っていた。