――お互い日曜日に長い期間放送されている番組ですが、時間帯はどのように意識して制作しているんですか?

有田:夜が明けたら会社に行かなきゃいけない日曜の深夜に、なんでこんな重たいもの放送するんだ…と言われたりもするんですが、1970年に始まって来年50周年なんですよ。50年間変わらず、日曜の深夜に放送し続けてきたんです。誤解を恐れずに言うと、ゴールデンやプライムの番組に比べれば、視聴率のプレッシャーは若干弱いかなと思いますが、我々は何をやらなければいけないのかということは、結構青臭く考えたいなと思ってやってますね。

――視聴率に対する指標の1つとして、『NNNドキュメント』は、ギャラクシー賞で毎月のように月間賞を獲っていますよね。

有田:もちろんサラリーマンですから、誰が見ても分かる結果というのは出さなきゃいけないとは思うのですが、テレビのつくり手としては賞を獲ることが目的ではないので、そこを間違えてはいけないだろうなと常に思っていますけどね。

――『ザ・ノンフィクション』も、同じ時間帯で24年という長寿ですね。

張江:『ザ・ノンフィクション』は、サラリーマンのお父さんが日曜の昼下がりにビールを飲みながら観るというスタイルを意識してスタートしたんです。第1回の放送は、その年にメジャーリーグに挑戦した野茂英雄投手を取り上げました。今やネット上では「関東一暗い番組」なんて言われてますが(笑)、不思議と日曜午後2時という時間帯がハマってるんですよね。

――『NNNドキュメント』はニュース番組を作る報道局、『ザ・ノンフィクション』は情報番組を作る情報制作局の制作ですが、作り方に大きく違いはあるのでしょうか?

張江:それはないと思いますね。細かい違いはいろいろあると思いますが、ドキュメンタリーに演出なんてものはないわけですから、“今伝えなきゃいけないことは何か”という精神は同じだと思います。それが、自衛隊を取り上げるときに『NNNドキュメント』が国防の変化を追うのに対して、うちは女性自衛官を追った『拝啓 父上母上様~紅一点・航空自衛官物語』(08年6月放送)や、『涙…涙の女子寮物語 新人海上自衛官の青春』(14年4月放送)を作るということなんですよ。

有田:そうですね。ただ、私も自衛隊を取材したのを2本作ったんですけど、ヘリ空母で中国の艦船を監視する役を女性の自衛官が担っていたので、マッチョなイメージがある自衛隊の中で女性がどうやって活躍しているのかというのを伝えようということで、女性自衛官のカットは意識して入れました。

■系列局・制作会社から注目される番組

――それぞれの番組で私が印象深かったものについても伺いたいのですが、『NNNドキュメント』は「袴田事件」の死刑囚・袴田巖さんが、自分に死刑判決出した元裁判官と50年ぶりに対面した『我、生還す-神となった死刑囚 袴田巖の52年-』(中京テレビ制作、18年10月放送)は、放送前の番組紹介記事もすごい反響でした。

有田:あれは担当ディレクターの方と長い時間議論しました。取材テープがたくさんある中、55分の放送枠(拡大版)で袴田さんの人生から僕たちは視聴者に何を伝えるべきなのか。制作は中京テレビさんなので、あまり日本テレビが偉そうなことを言っちゃいけないんですけど、『Nドキュ』を預かる私としては貴重な素材なので、最終的にどういう形に編集して放送するかというのを固めていく作業をしていきましたね。

――『NNNドキュメント』は、系列局の制作番組が半分以上を占めるということですが、各局のモチベーションはいかがですか?

有田:よく「『NNNドキュメント』は甲子園だ」とおっしゃっていただくんです。つまり、自分の県を代表して全国に番組を出して見てもらうという意識。その番組を担当するのは大変やりがいがありますし、その甲子園を維持していかなければいけないなと思いますね。

――『ザ・ノンフィクション』は、先ほど有田さんも挙げられましたが、『人殺しの息子と呼ばれて…』(17年10月15・22日放送)がものすごい反響でしたよね。

張江:そうですね。1対1のインタビューでほとんど動かない映像を2週にわたって放送するという内容で、本当に成立するのか、周りは不安がっていましたが、打合せも何もしない僕と息子との一発勝負だったんです。あの事件が発覚した当時は報道規制もいろいろあったんですが、今回はもう一度きちんと検証して全てを赤裸々にしてみようじゃないかという思いを込めてやりました。

――あれだけ反響があると、制作会社さんからの注目も集まったのではないでしょうか?

張江:ありがたいことに『ザ・ノンフィクション』で作りたいと言ってくれる制作会社さんが増えたんですよ。だから僕も「一緒に作りましょう」と言った以上、毎日毎日、ディレクターさんと映像を観て議論をしたり、ナレーションを書いたりしています。

●張江泰之
1967年生まれ、北海道出身。中央大学卒業後、90年にNHK入局。『クローズアップ現代』『NHKスペシャル』などを担当し、05年にフジテレビジョン入社。『とくダネ!』やゴールデン帯の特番などを担当し、15年から『ザ・ノンフィクション』チーフプロデューサー。18年から情報制作局情報企画開発センター専任局次長。

●有田泰紀
1968年生まれ、広島県出身。早稲田大学卒業後、91年に日本テレビ放送網入社。報道局社会部で記者を務め、『きょうの出来事』『NEWS ZERO』などの番組を担当し、15年から『NNNドキュメント』プロデューサー、18年からチーフプロデューサー。