次々に新しい料理や食材などが登場するとあって、『食のトレンド』は刻一刻と移り変わっていく。しかし、クライアントや職場の同僚と「あれ食べた?」という話になることはよくある。そんなときに「……聞いたこともない」というのは、かなりマズい。この連載では、ビジネスマンが知っておけば一目おかれる『グルメの新常識』を毎回紹介していく。第63回は「フードロス削減グルメ」。

  • 捨てられてしまう食材を絶品グルメで救済!(写真はイメージ)

「フードロス削減グルメ」って何?

フードロス(食品ロス)とは、本来食べられるものなのに廃棄されてしまう食料のこと。農林水産省・環境省の発表(平成30年度推計)によれば、日本国内の食品廃棄物は年間約2531万トンで、このうちフードロスは約600万トン。日本だけでなく、世界中で膨大な量のフードロスが問題になっている。

近年ではサスティナブル(持続可能)な社会を目指す観点から、「フードロスをなくそう」という機運が高まっている。さらに2020年以降は、世界的なコロナ禍により、飲食店の休業や観光客減少が深刻化したことで「出荷量が減り、売上が落ち込んでいる生産者を助けよう」「せっかく育てた食材が無駄になってしまうのを防ごう」という意味合いも加わった。今までフードロスに関心のなかった消費者にも広がりつつあり、食品メーカーや飲食店もフードロス削減を達成する商品やメニューの開発を進めている。形の悪い規格外野菜や余剰在庫など、廃棄されるはずの食材を活用したグルメに注目が集まっているのだ。

「フードロス削減グルメ」はどこで食べられる?

飲食店のメニューや、メーカーが独自に開発した食品などで「フードロス削減グルメ」が食べられる。たとえば、東京・銀座にあるイタリアンレストラン「アルマーニ / リストランテ」は、今年3月からコースメニュー「LOSS FOOD MENU」(10000円、サービス料別)の提供をスタート。形が不揃いだったり小さな傷がついたりして規格外となった野菜や、コロナ禍により出荷先を失った食材などを使用した料理でコースを構成している。

  • アルマーニ / リストランテ「LOSS FOOD MENU」の中の一皿。まるで宝石のように美しいアミューズ(左)には、皮が変色してしまった神奈川県産の柑橘類(右)が使用されている

コースは季節ごとに異なり、6月下旬まで提供予定の春のコースは全7皿で構成。前菜の「ホワイトアスパラ サフランのベアルネーズソース」には、長さや穂先の開き具合を理由に規格外となった新潟県産アスパラガスを使用。メインディッシュの「真鯛 グリーンピース ハーブソース」には、コロナ禍によるレストランや旅館の休業で行き場を失った愛媛県産の高級魚「愛鯛」を使用するなど、味に問題はなくとも廃棄されてしまう食材を、繊細な調理とアレンジで皿の上に美しく表現している。

「料理を楽しむ際、見た目にも美しいお料理に仕上がっていることもファインダイニングにおいては大切な要素だと思っています」(同店エグゼクティブシェフ カルミネ・アマランテさん)といい、美しい見栄えにもこだわった。たとえば、規格外サイズのトマトは大きさが均等でないため、皿に並べた際に凹凸ができてしまうが、「その凹凸も立体的で美しい個性になると考え、色や形のバランスを鑑みながら盛り付けを楽しみました」(アマランテさん)という。現在は日本全国の生産者と食材を吟味しながら、夏メニューの開発に取り組んでいるそうだ。

  • 未利用魚を使用した「NEKOKAN」(6個セット 3780円~)。猫用と間違えそうな可愛らしい見た目だが、人間用の缶詰だ

キジ猫や三毛猫、ロシアンブルーなどの猫たちが「No fish,no life!」と訴えるデザインが印象的なフードロス削減グルメ「NEKOKAN」が今年4月に発売。知名度が低い、規格外サイズ、体に傷がついている、などの理由で利用されず廃棄されている「未利用魚」のフードロスを削減するために企画。美味しく楽しみながら社会に貢献できる“猫缶風さかなの缶詰”だ。

魚は全部で6種類。島根県浜田市産、漁港そばの加工所で加工しており、新鮮なまま缶詰にしているという。季節などによって変更する場合もあるが、現在はいさき、とびうお、ほうぼう、すずき、にぎす、れんこだいというラインナップ。水煮なのでそのままでも食べられるが、薄味なので料理に使うのがおすすめとのこと。「ほうぼうのアクアパッツァ」「にぎすのだし巻き玉子」など、NEKOKANを使ったレシピも同封されている。

ちなみに、しっかりと塩抜きをすれば猫の食事として与えることも可能。「『猫と一緒に猫缶を食べてみたいと思ったことがある』という意見をもらい、そんな猫好きの想いを疑似的に叶える缶詰というコンセプトにすれば、より楽しみながら食べてもらえるのではと考えました」(NEKOKANを開発・販売するパウダートレーディング代表の小永剛史さん)という。地球にも、ヒトにも、猫にもやさしいNEKOKANは、オンラインショップ「kachika(カチカ)」で販売中。

「フードロス削減グルメ」を食べてみた

和牛のフードロス削減・消費促進に貢献するハンバーガーを食べてみた。訪れたのは、今年4月に東京・日本橋のコレド室町テラスにオープンした「Wagyu Burger(ワギュウバーガー)」。その名の通りA5和牛100%のパティが自慢のハンバーガー専門店だ。

  • 「Wagyu Burger」のハンバーガーは、チーズやチリコンカンなど4種類。550円でパティ1枚追加も可能

同店は、A5和牛一頭買いの高級焼肉店などを展開する平城苑が運営。コロナ禍による飲食店の休業などで和牛の需要が減り、余剰在庫を抱えるなど生産者が苦境に立たされている。「和牛の消費に貢献して、生産者の方々を応援しよう」というスローガンを立てた同社が、その施策の一つとして「Wagyu Burger」をオープンした。

一番人気という看板メニュー「ザ・和牛バーガー」(1430円)を実食。まず驚くのがそのボリューム感だ。約150gのパティを使用しているためズシリと重く、ふっくらとしたバンズで挟んでいるので高さもある。大きく口を開けて思い切りかぶりつくと、ジューシーな肉の旨味が口いっぱいに広がった。味の濃いスネ肉を異なる粗さで挽いて成形したパティは、食感も良く食べ応え十分。さらにA5和牛100%の自家製ベーコンも入っており、燻製の香りとしっとりとした食感が楽しめ、こちらも絶品だ。

  • ボリューム満点の「ザ・和牛バーガー」。一つ一つのバンズに「和牛」の焼き印入り

バンズは同店のためにメゾンカイザーが開発した特注品。ミルクを使用することで和牛の繊細な味に負けないようにしたといい、ミルクのまろやかさとほのかな甘みを感じるバンズが驚くほど和牛パティとマッチしている。一つ1000円以上する高級バーガーだが、細部にまでこだわりが光り、「このクオリティーなら納得! 」と唸らざるを得ないおいしさだった。

「お客様からは『和牛感がすごい』『普通のバーガーに比べてズシッと重みがある』など、ご好評いただいております。男性のお客様でも一回のお食事としてご満足いただけるよう意識して作りました。弊社のビジネスモデルには和牛が欠かせません。和牛に関わる生産者さんや仲卸さんに対して、少しでも貢献できているのではと考えております」(平城苑 広報担当 藤山鈴菜さん)

美味しく残さず食べることが社会貢献につながる「フードロス削減グルメ」。気になるものがあればぜひ試してみては。