次々に新しい料理や食材などが登場するとあって、『食のトレンド』は刻一刻と移り変わっていく。しかし、クライアントや職場の同僚と「あれ食べた?」という話になることはよくある。そんなときに「……聞いたこともない」というのは、かなりマズい。この連載では、ビジネスマンが知っておけば一目おかれる『グルメの新常識』を毎回紹介していく。第61回は「飲むチーズケーキ」。

  • 「ウメダチーズラボ」の「飲むチーズケーキ」。左から「ゴルゴンゾーラ」「マスカルポーネとはちみつ」「カマンベールとブルーベリー」(各500円)

飲むチーズケーキって何?

洋菓子メーカー「モロゾフ」がベークドチーズケーキを発売したおよそ50年前頃から、日本人はチーズケーキに夢中になった。大阪の焼き立てチーズケーキブランド「りくろーおじさんの店」のスフレチーズケーキ、北海道の洋菓子ブランド「ルタオ」の「ドゥーブルフロマージュ」など、次々とヒット商品も生まれ、最近ではバスチーこと、バスクチーズケーキがコンビニスイーツとして登場するほどの人気を博した。

チーズケーキはケーキ店の定番商品になり、チーズケーキ専門店も誕生。チーズケーキ需要が成熟した今、「もっと新しいチーズケーキを! 」と考える作り手たちは、チーズケーキを「飲む」商品へと進化させている。もしかしたらタピオカミルクティーの大流行でおなじみの極太ストローに着想を得たのだろうか。チーズケーキの魅力を多面的に広げるため、チーズケーキ専門店や、コロナ禍でデリバリーや通販需要に対応したチーズ料理専門店が、最近さまざまな飲むチーズケーキを提案している。

飲むチーズケーキはどこで飲める?

2018年に大阪・梅田の大丸にオープンした、飲むチーズケーキブームの火付け役、行列のできるチーズスイーツ店「ウメダチーズラボ」は、今までにないチーズスイーツの提供をコンセプトに商品を開発。オープン当初から「スプーンで食べるチーズケーキ」「パイに包まれたチーズタルト」、そして「飲めるチーズケーキ」(トップ写真参照)は看板商品となっている。

  • 「ウメダチーズラボ」では定番のほか、期間限定フレーバーも楽しみだ。5月下旬まで販売される「飲めるチーズプリン」(600円・写真左)はクリームチーズ、カマンベール、マスカルポーネを使用※写真右のプリンはイメージ

これまでチーズケーキと言えば、主材料はクリームチーズだったが、同店ではさまざまなチーズを使用。飲めるチーズケーキも、コクと甘みで一番人気の「マスカルポーネとはちみつ」、白カビチーズの塩味とクセに甘酸っぱいブルーベリーを合わせた「カマンベールとブルーベリー」、青カビの刺激的な風味と塩味でインパクトのある「ゴルゴンゾーラ」の3種を定番としてラインアップしている。

ベースとなるドリンク部分はミルクアイス、牛乳、クリームチーズを合わせたもので、そこにそれぞれマスカルポーネ、カマンベール、ゴルゴンゾーラをトッピング。さらにチーズソースをミックスして仕上げている。混ぜながら飲むとときどきチーズの小片が口に入り、”食べるチーズケーキ”感を味わえる。

同店の小粥祐希さんは「出店場所が百貨店なので百貨店に馴染みの少ない層も取り込もうと、10代~30代の女性をターゲットに開発をしました。実際、この層がメインですが、意外にも30代~40代くらいの男性のリピーターも多いです。甘いだけでなく、チーズのコクや塩味もしっかり味わって頂けるのでチーズ好きの方にもご好評頂けていると思います」と話す。

定番に加え、期間限定フレーバーも登場するのがリピート率アップにつながっているようだ。昨年秋は「飲めるチーズケーキアップルキャラメル」、今春は「飲めるチーズプリン」を発売するなど、チーズスイーツのトレンドセッターだ。

一方、焼きたてチーズタルトの専門店として知られる「PABLO(パブロ)」は、海外にも展開する一大チェーン店だ(国内12 店舗、海外13店舗)。2015年、「スイーツ店らしいドリンクを開発したい」という思いから、「ケーキを飲んでいるかのようなドリンク」として、「パブロスムージー 飲むチーズタルト」を開発・発売した。

  • チーズタルトをドリンクで再現した「パブロスムージー 飲むチーズタルト」(600円)。砕いたタルト生地の食感と、甘酸っぱいアプリコットジャムがアクセントだ

「パブロはチーズタルト専門店ですので、焼き菓子やプリンまで全てにクリームチーズを使用しています。なので‟作るならクリームチーズを入れた飲めるタルトにしよう”と考案しました」(「PABLO」を展開するドロキア・オラシイタ、ブランド広報ディレクター、吉浦ゆず香さん)。

クリームチーズとホイップクリームを合わせた、濃厚なチーズアイスクリームのような舌触りのスムージーに、クラッシュしたサクサクのタルト生地と、アプリコットジャムをあしらい、ホイップクリームをトッピング(写真上)。ホイップクリームにもクリームチーズが入っているので、ふわふわなだけでなく口のなかに濃厚な味わいが広がる。

さらに、コロナ禍でレストラン営業がままならなくなった昨年、デリバリーとテイクアウト需要に目を向け、あらたなデザートを開発したのが、青山のチーズ専門レストラン「DAIGOMI」(ダイゴミ)だ。

店長で、同レストランを営むアカツキライブエンターテインメントフード事業部、中山友基さんが中心となって考案した「NOMU CHEE™」(のむちー)は、クッキーを砕いたようなサクサクのクランブル、フレーバーソース、レアチーズ、クリームチーズカスタードを4層に重ねたデザートドリンク。チーズのコクとクリーミーさが魅力で、甘みと塩味のバランスが絶妙だ。

  • チーズプロフェッショナルが開発した「NOMU CHEE™」。4個入りで3200円(送料別)。適度に解凍してから、ストローを差して飲む

「チーズプロフェッショナル」(CPA認定)の資格を持つ中山さんは、「DAIGOMIと同様にNOMU CHEEでも国産チーズを使っています。カスタードの部分にミルク感が強い北海道のクリームチーズを入れ、レアチーズ部分には卵黄を加えたマスカルポーネ、一番上にトッピングしたクランブルには、旨みと塩けが特徴のパルメザンチーズを加えています。チーズケーキらしく適度にとろっとした食感を表現しました」と話す。

現在は主に冷凍のパウチタイプを通販しており、常時4種類のフレーバーが楽しめる。あえて定番は作らず、2ヶ月ごとに新しいフレーバーを入れ替え、新しいスイーツに敏感な若い女性にアピール。これまで「バニラ」「ストロベリー」「紫いも」「抹茶」「ビターカカオ」「キャラメルシナモン」などが登場。リラックス効果を狙ってハーブティーを加えた「ピーチ&ローズヒップ」は最新フレーバーだ。横浜のアソビル内、「DAIGOMI BURGER」(ダイゴミバーガー)では同店限定フレーバーのパウチタイプ(冷凍・440円)が店頭でも販売されている。

「飲むチーズケーキ」を飲んでみた

「NOMU CHEE™」をさっそく飲んでみた。冷凍品なので電子レンジ(500W)で1分~1分半、半解凍になるくらいに温め、封を切って添付のストローを差し入れて飲む。まず混ぜずにそのまま飲んでみると、冷たくサラッとしていて、チーズというよりは濃厚なミルク。次に全体を手で揉んで少し混ぜ、チーズとフレーバーソースのハーモニーを味わう。食べ進めるうちに全て溶けて、濃厚なチーズの風味が口に広がる。クランブルがアクセントになり飽きない。味変を楽しめるのも魅力で、好みでシナモンやラム酒などを加えてもいいそうだ。

  • 「青山フロマージュ」の「クレーム・フロマージュ」(648円)。手のひらサイズの丸くて可愛いボトルなのでギフトにも喜ばれそう

次は、大丸東京店の地下1階にある話題のチーズスイーツ店「青山フロマージュ」の「クレーム・フロマージュ」を飲んでみた。手のひらサイズでころんと丸い容器がかわいい。太いストローと、飲み方が書かれたカード付きだ。「ボトルを振ることでいろいろな食感を楽しんでいただくことが出来ます」と書かれている。どういうことだろう…。

  • 最初はチーズそのもののような柔らかな固体だが、ボトルを振っていくうちにふわふわになり、そしてとろっと変化

まずはそのまま飲んでみた。上の部分はクリームチーズに近い味わいで、舌触りも柔らかめの固体。だが底の部分は、飲むヨーグルトのようにさらりとして、甘酸っぱい液体だった。「少しずつ振りながら飲むと、食感が変わる」との説明書とおり、軽く振ってみた。すると上下の層が混ざったからか、ふわっとしたレアチーズケーキ状態の舌触りに変わった! 軽い酸味も感じられるチーズ味。

さらに振っていくと、次第にボトルが重くなり、液体の動く感覚が消えた。味は濃厚さとクリーミーさが増してよりチーズケーキらしく変化。さわやかなヨーグルトドリンク味から軽めのレアチーズケーキ風に変化し、最後はクリーミーで濃厚なチーズケーキに。面白い! 1回でいくつもの味に出会える感覚が楽しい。

「飲むチーズケーキ」と初めて聞いたときは、一過性の流行に終わりそうに思えたが、チーズケーキに近いのに、チーズケーキとはまた違う魅力を持つ、どれも考え抜かれた商品であっという間に虜になった。「飲むデザート」が一つのカテゴリとして定着する予感がする。ちゃんとケーキ味なのに、お皿やフォークなどが不要でストローだけで手軽なのも人気の要因かもしれない。