次々に新しい料理や食材などが登場するとあって、『食のトレンド』は刻一刻と移り変わっていく。しかし、クライアントや職場の同僚と「あれ食べた?」という話になることはよくある。そんなときに「……聞いたこともない」というのは、かなりマズい。この連載では、ビジネスマンが知っておけば一目おかれる『グルメの新常識』を毎回紹介していく。第66回は「サワードウブレッド」。

  • 南青山の「BARTIZAN Bread Factory」では、さまざまなタイプのサワードウブレッドが見つかる

新型コロナウィルスの感染拡大により、世界中の人々が長い時間を自宅で過ごすことを余儀なくされ、家庭で手作りを楽しむ傾向が高まった。家族で一緒に楽しめる菓子・パン作りを始めた人も多いのではないだろうか。この機会にパンの中でも手間と時間のかかる自家製酵母のパン作りに挑戦しようと、海外でも自家製酵母パンを意味する「#sourdoughbread(サワードウブレッド)」のタグがついたSNS投稿が増えている。

特に「サンフランシスコサワードウブレッド」が有名なアメリカでは、発祥地であるサンフランシスコにカリスマ的なベーカリー「タルティーンベーカリー」もあることから、サワードウブレッド人気は高い。最近ではアメリカのベーカリーシーンに注目する日本のパン職人も多く、日本でもサワードウブレッドを置くベーカリーやレストランを見かけるようになった。

「サワードウブレッド」って何?

サワードウブレッドは、日本語で言うところの天然酵母や自家製酵母のパン。基本的には水と粉を合わせて発酵させた種から作ったパン生地がサワードウだ。発酵の過程で粉の糖分などを食べ、乳酸菌が増えていくために酸味が生まれる。水の代わりにレーズンやフルーツを発酵させた液体を使ったり、粉に白い小麦粉だけでなく全粒粉やライ麦粉を使ったり、店それぞれのレシピがある。

  • 水と粉を混ぜて、温かいところで発酵させればできるサワードウ。1週間~10日経つと完成。家でサワードウブレッドが焼けるという

All About 「ユニークな手作りパン」ガイドの松野玲子さんは、「サワードウブレッドというと、“サワー”だから酸っぱいパンかと思われるかもしれませんし、確かにひと昔前はかなり酸っぱかったのですが、最近は酸味を抑えて、主に旨味の素としてサワードウを使っているベーカリーが多いと思います」と話す。

  • 全粒粉やライ麦粉など、味わい深い粉と相性のいいサワードウブレッドは、サンドイッチにも最適

手間のかかるサワードウブレッドを焼くことがステイホーム中の楽しみになった人も増えたが、乳酸菌でできたサワードウブレッド=健康的なパンと考える人が多いのも人気の理由のひとつだ。コロナ禍で食の健康志向が進み、世界的に発酵食品を積極的に摂ろうという動きがある。サワードウブレッドは長い発酵時間の間に、小麦粉に含まれるグルテンが弱まって消化しやすくなるという説もあり、今後ますます注目されそうだ。

「サワードウブレッド」はどこで食べられる?

2020年にオープンした「BARTIZAN Bread Factory(バルティザン ブレッドファクトリー)」は、「カフェ ラ・ボエム」、「モンスーンカフェ」を展開するグローバルダイニングのベーカリーだ。同店の看板商品のひとつが「バルティザン サワードウ」。水、小麦粉、そして塩のみで育てたサワードウを使ったパンは、表面は香ばしくカリッとしているが、中はもちっとやわらかい。サワードウ特有のほのかな酸味も感じられる。

  • ほのかな酸味、もちっとやわらかい食感が特長の「バルティザン サワードウ」(1本1,200円)

「バルティザン ブレッドファクトリーは、系列のレストランで提供するパンを自分たちで作り始めたことからできた店です。『バルティザン サワードウ』をはじめとした、料理と調和し、素朴で体に負担の少ない優しいパンを製造しています。天候に合わせて温度管理をする難しさがありますが、シンプルで美味しく、食事にもお酒にもよく合うサワードウブレッドを作り、販売しています」と、グローバルダイニングの総料理長、鈴木昌嗣さんは話す。

食事のお供やサンドイッチに合いそうなシンプルなサワードウブレッドだけでなく、セミドライりんごとスパイスを加えた「アップル&チャイ」、ココアを入れたサワードウ生地にチョコチップ、くるみなどが入った「チョコレート&ウォルナッツ」と、おやつ感覚で食べられるものも揃えている。

「サワードウブレッド」を食べてみた

横浜・元町にある「ブラフベーカリー」の姉妹店カフェ、横浜・山手の「アンダーブラフコーヒー」では、サワードウブレッドを使ったサンドイッチが食べられる。「グリュイエールチーズ&スモークハム」と「林檎と玉ねぎのソテー&メープルベーコン」の2種類があり、いずれもチーズがとろけるホットサンドだ。今回は甘じょっぱい味がクセになるという後者を食べてみた。

  • 3種類の小麦粉と自家製酵母を使った「アンダーブラフコーヒー」の「サワードウ」(260円)

ホットサンドにする前のサワードウブレッドは、皮の部分がこんがりと焼けていて食欲をそそる。中身は気泡があってしっとり。小麦粉のいい香りがする。フランスパンのようにガリガリではなく、噛むほど旨みが感じられ、ほのかに酸味がある。ホットサンドになるとどんな味になるのだろう……。

  • 「アンダーブラフコーヒー」のホットサンド「林檎と玉ねぎのソテー&メープルベーコン」(2切れ、730円)

熱々の状態で紙にくるまれたサンドイッチがやってきた。かぶりつくと甘い、しょっぱい、すっぱい、ピリッと辛いが一緒にやってくる。大きめに切ったリンゴと炒めて甘みを増した玉ねぎ、脂がジュワッと染み出るベーコンが意外にもメープル味とよく合う。黒胡椒が全体を引き締め、溶けたチーズが旨みをアップ。焼いたサワードウブレッドは表面はカリッとしているが、中はしっとりもっちりを保ち、酸味は和らいで代わりに甘みが感じられた。

料理は甘い、辛い、しょっぱい、酸っぱい、苦いのバランスで味に深みが出るというが、サワードウブレッドには辛い以外の4つと発酵の旨みがある。この複雑な旨みが料理を引き立てると、レストランでは料理に合わせられ、カフェやベーカリーでサンドイッチパンに選ばれているのだろう。「酸っぱいパンはいやだ」と言わず、サワードウブレッドを見つけたら、世界で注目される健康的なパンとして試してみてほしい。