FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。為替相場分析の専門家がFXの歴史を分かりやすく謎解きます。今回は「黒田神話の光と影」について紹介します。

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世界のマーケットに、再び大きな衝撃を与えた2014年10月31日の日銀追加緩和、いわゆる「黒田バズーカ2」。では、黒田総裁はどうしてその決断に至ったのでしょうか。これについて、黒田総裁自身の説明では、主因は原油価格の急落ということでした。

原油価格は、2014年7月までWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)も100ドル以上で推移していたところ、その後急落、この10月末の日銀金融政策決定会合の前までには80ドル割れ寸前まで一段安となっていました。

  • 【図表】WTIの推移(2014~2016年)(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)|

    【図表】WTIの推移(2014~2016年)(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

黒田総裁の最大の政策目標は、デフレからの脱却、インフレ率2%の達成。基本的に原油価格の急落はそのような政策目標達成に悪影響を及ぼすものですから、躊躇なく追加緩和を決めたというのが、黒田総裁自身の説明でした。でもそれはあくまで「オモテの理由」。「ウラの理由」もあるだろうというのが、当時から噂されていたことでした。

「バズーカ2」決断の「ウラの理由」

「黒田バズーカ2」を決断した「ウラの理由」、それは消費税再増税の念押しだろう―――。

この当時、安倍政権はこの年の4月に8%まで引き上げた消費税に関し、さらに10%へ再引き上げを決定する最終段階にありました。基本的に消費税引き上げは、財政健全化を至上命題とする財務省及び財務官僚たちにとっては強いこだわりのあるもの。そして黒田総裁は、その財務省OBだったのです。

「日銀総裁ながら、心のふるさとは財務省」。そんな黒田総裁だからこそ、財務省の宿願ともいえる消費税再増税に対して、追加緩和を行うことで「総理、頼みますよ」と無言の念押しを行ったというのが、「ウラの理由」ではないかというわけです。

しかし、本当にそんな目論見が黒田総裁にあったとしたら、結果的にそれは見事裏切られるような形となります。「黒田バズーカ2」決定から約半月過ぎた11月18日、安倍総理は消費税再増税の延期を発表したのです。

客観的には、「増税お願いします」と、追加緩和を「先出し」したのが失敗のように見えました。そうではなくて、しっかり増税決定を見極めてから、「ありがとうございました」と「後出し」するのが、戦術的には賢いやり方だったのかもしれません。

あの歴史的円安を一段と加速させる結果となった「黒田バズーカ2」の舞台裏とは、海千山千の世界のマーケット参加者を2度にわたって翻弄した黒田総裁が、「真の目的(=消費税再増税)」を果たせぬまま、伝家の宝刀、「黒田バズーカ2」をタダ取りされた「お人好し」で、安倍総理はそんな黒田総裁より一枚も二枚も上手の「したたかな人物」のように見えなくもなかった、ということでした。

まさに輝きに満ち溢れた「黒田神話」の光と影。振り返ると、この「黒田バズーカ2」の頃から、「黒田シナリオ」は微妙に狂い出したかもしれなかったのです。