7月10日の投開票が決定した参院選。民意を反映させる重要な機会だが、社会科の授業を離れてから幾年月、国政選挙にまつわる単語や仕組みについて実はあまりよくわかっていないという人も少なくないはず。

そこでマイナビニュース読者のアンケートであがった参議院や選挙に関するギモンについて、全5回にわたって名古屋大学の斎藤一久教授に回答・解説してもらった。2回目の今回は選挙制度について。衆院選と参院選の違いをはじめとした、基本的な部分を聞いてきた。

  • 参議院や選挙に関するギモンについて、全5回にわたって名古屋大学の斎藤一久教授に回答・解説してもらった

■衆院選と参院選の選挙制度は異なる

――そもそも衆院選と参院選では選挙制度は、異なるのでしょうか?

似ているようで異なります。このあとお話ししますが、衆議院議員選挙は「小選挙区比例代表並立制」と言って、小選挙区制と比例代表制を組み合わせた制度です。一方、参議院議員選挙は選挙区選挙と比例代表制で行われます。表にもまとめたのでこちらも参考にしてください。

  • 衆議院・参議院の違い/※2022年の参議院選挙以降は、定数248人となる。今回の参院選では選挙区75、比例代表50が改選となる

――まずは、衆院選の制度「小選挙区比例代表並立制」について伺いたいです。

小選挙区制と比例代表制を組み合わせた制度を「小選挙区比例代表並立制」と呼びます。

小選挙区制は、都道府県の中で細かく分かれている選挙区から議員が1人選出されます。投票用紙に書くのも、政党名ではなく個人名です。選挙区で1位となった候補者のみが当選するので、多くの支持者を持つ大政党が有利と言われています。当選者以外に入った票は「死票」となってしまうため、少数派の意見を反映しづらい制度とも言えるでしょう。

次に比例代表制は、北海道・東北・北関東・南関東・東京・北信越・東海・近畿・中国・四国・九州の全国11ブロックに分け、有権者は政党に投票していくという制度です。政党側で候補者の当選させたい人の順位を事前に確定しておく方法「拘束名簿式」によって当選者は選ばれます。政党の獲得議席数に応じて名簿登録されている上位の人から当選者が決まりますが、小選挙区の候補者が重複立候補できるので、小選挙区で落選した人が復活当選する場合があります。

「小選挙区制」においては、どれだけ僅差であっても1位の人以外に入った票は、死票となってしまいますよね。ですが、比例代表制と組み合わせることで、少数派の意見も反映できる機会があると言って良いでしょう。

――では参院選の選挙制度について教えてください!

参院選は、先ほどもお伝えしたように選挙区選挙と比例代表制で議員を選びます。

選挙区選挙は原則、都道府県ごとの人口に応じて議席数が配分されます。ただし、都道府県と言っていますが、例外があって人口の少ない県を一つの選挙区に統合した「合区」というものが全国に2つあります。

これは、エリアごとの人口比率が異なることで生じる、「一票の格差」が関係しています。一票の持つ価値がエリアによって異なってしまう問題を是正するために、人口の少ない県を一つの選挙区に統合する「合区」ができました。実際に「鳥取県と島根県」、「徳島県と高知県」がそれぞれ2県で1選挙区となっています。

ちなみに選挙区選挙では、政党名ではなく個人名を1人書いて投票します。

――比例代表制は衆院選と同じ仕組みですか

似ているようですが、違いますよ! 参議院議員選挙における比例代表制では、全国1ブロックから100名(2022年の参院選では50名)が選出されます。有権者であるみなさんは、政党名か候補者名を書いて投票します。当落は、中学校のときに習ったかもしれませんが、「ドント方式」という計算式に応じて決まります。

ドント方式は、各政党の総得票数(候補者個人の得票+政党名の得票)に応じて自然数で割っていき、得られた商の大きい順に議席数を配分する方式です。言葉では少しわかりにくいので、ぜひ表をチェックしてみてください。

  • 図ドント方式で各政党の当選人の数が決まった後、各政党で得票数の最も多い候補者から当選となります

――ちなみに参院選の選挙区選挙で落選した人が、比例代表制で復活当選することはできないんでしょうか。

できません。参院選における選挙区選挙と比例代表制は完全に別物ですので、復活当選することはありません。

ただし、2019年の参院選から、政党の決めた順位に従って優先的に当選できる仕組み「特定枠制度」というものが導入されました。制度を利用するか否かは政党次第ですが、活用状況によっては、政党の獲得議席数に応じて名簿登録上位順に当選者が決まる「拘束式名簿」が混在しているとも言えるでしょう。

――ちなみに、衆院選と参院選で同じ選挙制度の仕組みにしないんでしょうか。

多様な意見を反映させるという理念からすると、選挙制度の方式は別のほうが良いのです。もっとも、実態として衆議院も参議院もだいたい同じような政党で議席が構成されていますが……。

必ずしも、制度の目的と実態がマッチしているわけではないというのもみなさんには覚えておいてほしいです。


意外と尋ねられたら答えにくい「選挙のギモン」。ぜひ、記事を参考にギモンを解消していってほしい。

監修者 : 斎藤 一久(さいとう かずひさ)


斎藤一久

名古屋大学法科大学院教授。1972年、新潟県に生まれる。早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程退学後、東京学芸大学准教授を経て、現職。その間、フランクフルト大学客員研究員、テキサス大学ロースクール客員研究員。専門は憲法学・教育法学。大学院では主として裁判官、検察官、弁護士などの法律家を目指す学生を指導しているが、高校生、大学生、一般人向けに憲法や選挙についての著書も執筆している。著書に『高校生のための選挙入門』『高校生のための憲法入門』(すべて三省堂)、『図録日本国憲法〔第2版〕』『教職課程のための憲法入門〔第2版〕』(すべて弘文堂)、『教職のための憲法』(ミネルヴァ書房)など、翻訳書に『憲法パトリオティズム』(法政大学出版局)などがある。


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