7月10日の投開票が決定した参院選。民意を反映させる重要な機会だが、社会科の授業を離れてから幾年月、国政選挙にまつわる単語や仕組みについて実はあまりよくわかっていないという人も少なくないはず。

そこでマイナビニュース読者のアンケートであがった参議院や選挙に関するギモンについて、全5回にわたって名古屋大学の斎藤一久教授に回答・解説してもらった。第1回目の今回は、日本の国会は「なぜ参議院と衆議院に分かれているのか?」という初歩的なところから。二院制のメリット・デメリットや、それぞれの役割の違いなどを見ていこう。

  • 参議院や選挙に関するギモンについて、全5回にわたって名古屋大学の斎藤一久教授に回答・解説してもらった

■衆議院と参議院に分かれている理由を知ろう!

――衆議院・参議院は何が違うのでしょうか?

前提に、衆議院・参議院は国会として共同して仕事をすることもありますが、法案や予算を審議するのはそれぞれが独立して行っています。違いとしては、人数や立候補できる年齢など異なる点はあるものの、着目すべきは「解散の有無」と「任期」です。参議院は任期6年(3年ごとに半数を改選)、対して衆議院は任期が4年、かつ解散もあるので、平均するとおよそ2~3年ごとに選挙を実施しています。

  • ※2022年の参議院選挙以降は、248名(選挙区148名、比例代表100名)となる

衆議院は解散があることから、直近の国民の意見を反映していると言われています。そのため衆議院には参議院よりも優先的な権利があり、それを「衆議院の優越」と言います。例えば、予算は衆議院に先に提出されなければなりません。また、内閣総理大臣を誰にするか決める際に衆議院と参議院で意見が一致しないまま10日経った場合、衆議院の決定がそのまま国会の決定となるのです。

一方、参議院は解散がなく任期が6年と衆議院よりも長いことから、参議院議員は比較的長期間にわたって、審議に関わることが可能です。一時の世論を気にせずに、じっくり法律案などを議論できると考えられています。そのため、参議院は「理性の府」「良識の府」とも呼ばれ、衆議院の行き過ぎをチェックする役割が求められています。

――そもそも、日本は衆議院と参議院で構成される二院制をどうして採用したのですか?

戦前は衆議院と貴族院に分かれていました。敗戦後、GHQからは貴族院の廃止について示唆されたようです。最初は、一院制という議論もあったようですが、当時、多くの国が二院制ということもあり、二院制が採用されたと言われています。

――では、二院制をとるメリットとしてはどのようなものがあげられますか?

衆議院が4年に1回、参議院が半数改選で3年に1回と、2年に1回ぐらいのペースで国政選挙があるのは、その都度、国民の意見を反映できるという意味で長所かと思います。実は北欧諸国をはじめ、世界の議会のうち約6割が一院制です。一院制では、意思決定の速さや、コストダウンと言ったメリットもありますが、一方で解散して選挙をしている間、議会の空白期間が生じると言ったデメリットも存在します。

二院制は、お互いを抑制し合って権力の集中・暴走を抑える、足りないところを補えると言った特長を持つと同時に、多様な民意が反映されやすいなどのメリットがあげられます。

ただし、国会において衆議院と参議院で与党と野党の合計議席数が逆転する「ねじれ国会」のように、国会運営が停滞してしまう問題が指摘されていることも忘れてはいけません。そのため、近年では両院の対立による立法の停滞を回避しつつ、参議院の独自性も発揮できる仕組みが模索されています。

――ちなみに"三院制"を採用している国はあるのでしょうか?

さすがに海外でも"三院制"の国は今のところないですね。"3"だとコストもかかりますし、国会運営には慎重さと同時に迅速さも必要ですからね。あえて言えば、法律を違憲にできる裁判所が、三院の役割を担っているかもしれません。


意外と尋ねられたら答えにくい「選挙のギモン」。ぜひ、記事を参考にギモンを解消していってほしい。

監修者 : 斎藤 一久(さいとう かずひさ)


斎藤一久

名古屋大学法科大学院教授。1972年、新潟県に生まれる。早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程退学後、東京学芸大学准教授を経て、現職。その間、フランクフルト大学客員研究員、テキサス大学ロースクール客員研究員。専門は憲法学・教育法学。大学院では主として裁判官、検察官、弁護士などの法律家を目指す学生を指導しているが、高校生、大学生、一般人向けに憲法や選挙についての著書も執筆している。著書に『高校生のための選挙入門』『高校生のための憲法入門』(すべて三省堂)、『図録日本国憲法〔第2版〕』『教職課程のための憲法入門〔第2版〕』(すべて弘文堂)、『教職のための憲法』(ミネルヴァ書房)など、翻訳書に『憲法パトリオティズム』(法政大学出版局)などがある。


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