「バイク」の中には、タンクをヒザで挟んで乗るタイプのほかにも、足を揃えて乗れる「スクーター」タイプがあります。あまりバイクを知らない人でも見た目で分かりますが、それ以外にどんな違いがあるのでしょうか?

エンジンで走る二輪車という意味では「スクーター」も「バイク」の一種なのですが、今回はまたがるタイプのバイクを「オートバイ」として、「スクーター」との違いを解説します。

■バイクから分かれたスクーターの歴史

バイクの歴史では、まず自転車のような構造の二輪車に原動機を積んだ始祖的なオートバイが登場します。ゴムのタイヤや金属製フレームの登場とともに、エンジン性能や車体の開発が進んだことでオートバイの走行性能は向上していきますが、一方で実用性をメインに進化したものがスクーターです。

クルマに例えてみると、オートバイは「走る」、「止まる」、「曲がる」ことを追求したパッケージングを持つF1などの「フォーミュラカー」で、スクーターは利便性や快適性といった機能を取り入れた「乗用車」といったところでしょうか。

スクーターは1910年代にアメリカやヨーロッパで原型的なものが生まれ、日本では戦後にこれらを元に開発した「ラビット(現・SUBARU)」や「シルバーピジョン(現・三菱重工業)」が大ヒットします。1960年代になると、安価で高性能な「ホンダ・スーパーカブ」や、自動車の普及によって衰退するものの、1970年代の終わりにヤマハの「パッソル」で再びスクーターは脚光を浴びます。

1980~1990年代のバイクブームでは、国内メーカー間で最新技術を投入した競争が繰り広げられ、スクーターも性能向上とともに、シート下のトランクという画期的なアイデアを生み出します。その後、バブル景気の後退とともにバイクブームが落ち着き、過激な高性能スポーツは影を潜めますが、利便性とスポーツ性を兼ね備えた250ccクラスのスクーターがブームになりました。そして現在は扱いやすくコスパも高い125~150ccクラスに人気が集中しています。

  • 最初はイスの下に小さなエンジンを積んだ形から発展したスクーター。今やシート下のトランクは必須の機能

■足を揃えて乗るための工夫と犠牲にしたもの

スクーターは乗り降りのしやすいフラットステップや、ギアチェンジやクラッチ操作が不要なことが大きな特長です。ステップ部を大きく空けるため、メインフレームは足の下を迂回させ、エンジンやガソリンタンクはシートの下に押し込みました。変速の機構も自動化して、エンジンとスイングアームと一体化した「スイングユニット」になっています。スペースを確保するために前後タイヤも小径化されました。

いいことずくめのようですが、さまざまな弊害も出てきます。まず、足の下を迂回するフレームは剛性が不足し、それを補うために太くすれば重量が増加。エンジンの大きさやマフラーなどのスペースも制限され、整備性もよいとはいえません。リアのスイングアームも兼ねるスイングユニットは重くなり、小径タイヤは乗り心地やブレーキ性能にも影響を及ぼします。

フレームやエンジンにアルミやカーボンといった強くて軽い素材を多用し、ブレーキも高性能なグレードをつければいくらか性能は向上するはずですが、生活の足としてはあまりにも高価になってしまうでしょう。

ほかにも、普通のオートバイに慣れ親しんだライダーが違和感をもつ大きな特長があります。それはニーグリップのできない車体と、前後の重量バランスです。

  • 同じ「バイク」でも、スクーターは足元を広く開けるためにオートバイとは大きく構造を変えている

■ニーグリップできない車体と、前後重量バランスの違い

教習所では『ニーグリップが重要』と教わりますが、スクーターには膝で挟むガソリンタンクがありません。ライダーは常に力いっぱいニーグリップをしているわけではありませんが、バイクを寝かす動作をしたり、ギャップや横風で車体が振られたときに、下半身を抑え込むタンクがないのは不安になるはずです。

また、前後タイヤにかかる車重も走行フィーリングに関係してきます。一般的にバイクは前後タイヤの重量配分が50:50が好ましいとされ、近年のスポーツバイクは前輪の方が重いくらいです。しかし、スクーターはリアにエンジンなどの重量物を押し込んだため、前輪の接地感が希薄になってしまいます。

普通のオートバイであれば、一定の速度で走っていても車体を傾ければ前輪は内側に曲がるための仕事をしますが、スクーターは前輪荷重が少なく、タイヤの外径も小さいため、『車体は傾いているのに曲がらない』、『前輪の接地感がないので怖い』と感じる人も多いようです。

これらのデメリットは排気量や車体が大きくなるほど顕著になってくるため、扱いやすさとコスパのバランスが取れたものは125~200cc位といわれています。中にはスポーツやロングツアラーのカテゴリーに分類される大排気量エンジンを搭載したモデルも存在しますが、これらは後述するスポーツスクーターの手法を用いたものです。

  • オートバイに比べれば利便性の高いスクーターだが、デメリットもある

■走りのためにフラットステップを捨てたスポーツスクーター

スクーターは、もともとバイクとしての走行性能よりも利便性を追求した乗物でした。そのため、排気量を拡大してエンジンの重量やパワーが増えるとフレームの剛性不足が生じ、補強をすれば重量が増加していくという悪循環に陥ります。

そこでフラットステップを廃止して、センタートンネル内にメインフレームを持ったモデルも登場しました。オートバイほどではないものの、ステアリングとスイングアームの付け根までを直線的につなげられるため、フレーム剛性の強化と軽量化を達成できるというわけです。

さらに床下にガソリンタンクを配置して前輪の重量を増やし、ニュートラルなハンドリングとブレーキ性能も備えた「ヤマハ・マジェスティ」のような大ヒットモデルが生まれ、現在のスポーツスクーターというジャンルにつながっています。

走行性能の向上のためにフラットステップを捨てたものの、それまでスクーターには必須の装備だったシート下のトランクや、そのために低い位置にエンジンや燃料タンクを配置したことが功を奏し、重心が低くて扱いやすいというメリットも生み出しています。

  • スクーターとオートバイのメリットを両立させるため、フラットステップを捨てたスポーツスクーター

■決して侮れないのがスクーターの魅力

冒頭でスクーターは「乗用車」、つまり「ハコ車」のようなバイクと書きました。確かに走る、曲がる、止まるといったサーキットのような使い方では、二つのタイヤで走ることを最優先したパッケージングのオートバイの方が絶対に有利です。

しかし、クルマでも速い「ハコ車」にこだわるロマンがあるように、改造した小型スクーターで50mのドラッグレースやサーキットや楽しむ世界があります。その実力は、原付二種クラスで最高速度は160km/hオーバー、0―50mのタイムは3秒を切るという凄まじいもの。サーキットでも後輪荷重を活かした走りで、オートバイとの混走レースを制してしまうことも珍しくありません。

昔はスクーターといえば、50ccは高校生や主婦、125ccはオジサンの乗物というイメージでしたが、現在は大容量トランクなどの利便性はもちろん、市街地ではほかの車両をリードする機動性を発揮し、デザインも洗練されています。

オートバイにこだわっていたベテランの中にも、ゲタ代わりに原付二種のスクーターを手に入れたら、すっかり魅力に取りつかれてメインの車両になってしまった人も数多くいます。機会があれば、ぜひ試乗してみてください。

  • スクーターはカスタムも手軽。構造が簡単でパワフルな2スト車両は現在も根強いファンがいる