バイクの操作でもっとも難しいといわれ、レースの世界でもチャンピオン達が得意としていたのがブレーキです。

『そんなに飛ばさないから…』と思う人もいるかもしれませんが、何がおきるかわからないのが公道の恐さ。とっさの時に最短で止まれることは最大の安全につながります。

よくある右直事故やカーブの飛び出しは恐怖感も大きく、命を落とすこともあります。ぜひ、ブレーキのテクニックを覚えておきましょう。

■基本は7:3だけど、フロントが重要

教習所では前7:後3の強さでブレーキをかけることを教わりますが、前が強いのは、車重やライダーの体重が前方にかかってくるためですね。スタントマンやレースのブレーキでは9:1や10:0という時もあります。

もちろん、公道ではこんなブレーキはしませんが、万が一の時はフロントブレーキのコントロールが重要になってきます。リアブレーキは足で操作するため感覚がわかりにくく、パニック時に強くかけすぎるとロックして転倒する恐れもあるからです。

通常のブレーキングでは、フロントよりもリアを少し先にかけると安定します。先に後ろの車高が落ち、フロントの過剰な前下がりを防げますが、パニック時にはそこまでの余裕があるかは分かりません。

現在はロックを防ぐABSや、前後連動ブレーキが装備されたバイクも増えましたが、それでも前後ブレーキの特性や扱い方を知っておいたほうがよいでしょう。

  • リアを先にかけると車体は安定する。リアだけ強めならスリップ、フロントだけならノーズダイブする

■知っておきたいフロントブレーキのクセ

フロントブレーキは強い制動力をもっていますが、その操作を右手で行うのは、それだけ繊細なコントロールができるようにするためです。基本的には車体の直立時にかけますが、車体が傾いているとどうなるでしょうか。強すぎれば前輪がスリップして転倒しますが、タイヤがグリップしているなら、車体が立ってくるのが分かると思います。

つまり、フロントブレーキは速度を落とすだけでなく、車体を直立させる力も働くということです。この状態では、イン側に荷重をかけても車体は寝にくくなってしまいます。

カーブで飛び出してしまう最大の原因はオーバースピードですが、パニックでブレーキレバーを握ったままにしていると、車体を寝かして曲がれずにオーバーランしてしまう、というわけです。

  • フロントブレーキかけると車体が立つ。寝かして曲げるにはリリースしなければならない

■フロントブレーキを曲がるために使う

フロントブレーキは速度を落とすだけではなく、曲げるためにも有効です。前述のとおり、ブレーキをかけていると車体が直立して硬直した状態になりますが、レバーをリリースすると、硬直が解けるように車体は荷重がかかっている方向に倒れていくはずです。

しっかり下半身でホールドし、ハンドルにムダな力をかけないようにしていれば、ステアリングはバイク自身が切って調節してくれます。スロットルを少し開ければ一定のバンク角で安定して旋回を続けます。

教習所で教わる方法や昔のバイクでは、直線でブレーキを完全に終わらせてから寝かす、というアプローチでしたが、現代のバイクは車体やタイヤ性能が向上し、ブレーキングで縮めたフロントサスペンションを伸びきらせず、縮めたままコーナリングGに置き換えることも容易になりました。

ブレーキレバーを無造作にパッと離すのではなく、徐々にリリースしながら車体を寝かす動作とシンクロさせるわけですが、ブレーキの強さやリリースするまでの時間で、車体が寝ていく速さもコントロールできるのがわかるはずです。

■知っている人は知っている二段、三段がけ

フロントブレーキの操作ミスで怖いのは、強くかけすぎて前輪が滑ってしまうことです。これは体感的に覚えるしかないのですが、レバーの握り方によってスリップしにくくなります。

レバーを握ると、まずはブレーキがフロントホイールの回転を止めようとします。次に、車重が前に移動してフロントサスペンションを縮め、縮み切ったところで急激にフロントタイヤにのしかかってきます。つまり、一気にブレーキレバーを握ってしまうと、この反動でグリップを失ってしまうというわけです。

いわゆる「二段がけ」というのは、一気にタイヤに負担をかけないよう、まずはフロントサスペンションを縮めて落ち着かせてから本制動に入るように、レバーを二段階に分けて握ることです。(レバーの遊びを取る行程を入れるなら三段階とも考えられます)

この段階的な操作はゼロコンマ何秒で繊細に行うものですが、サスペンションの沈み具合やタイヤの接地感を普段から意識していけば、自然に感覚が身についていくはずです。

  • 最初の握りでフロントフォークを沈め、落ち着いたらさらに握り込んでコントロールする

■難しいけど、実は使えるリアブレーキ

バイクのブレーキはフロントが主体ですが、ではリアは何のためにあるのでしょうか。かつてはプロレーサーが『教習所に通うまで使い方を知らなかった』という逸話もありましたが、現在のレースシーンでは“いかにリアをつかって止めるか?”というところまで重要視されています。

リアブレーキは指先よりも分かりにくい足で操作し、踏みすぎればロックする難しさがありますが、使いこなせるようになれば、制動距離を減らせるだけでなく、スムーズなライディングができる便利なものです。

リアブレーキを踏むと車体の後ろ側がジワリと沈みますが、この作用を利用して、リアを少し先にかけることでフロントのノーズダイブを緩和させることができます。停止時もフロントを先にゆるめれば、フロントサスペンションの反動も減って、フラつかずに止まれるはずです。

これ以外にも、ブレーキから加速に移る時など、リアブレーキだけを少し当てたままスロットルを開けてチェーンが張る時のショックを軽減するテクニックもあります。Uターンや低速走行時のコントロールも車体の挙動が乱れないため、一度覚えると病みつきになるかもしれません。

  • リアブレーキはチェーンの上側(加速側)を張るため、スロットルとシンクロさせるとショックが少なくなる

■止まったままブレーキ時の感覚をつかむ方法

ブレーキ操作を落ち着いて行うためにはしっかりとしたライディングポジションも重要です。ブレーキ時には減速Gで身体が前に投げ出される力が加わりますが、ハンドルを腕で突っ張って上体を支えず、ニーグリップ、つまり下半身でバイクをホールドするように意識します。

ハンドルで上体を支えていけない理由は、バイクは倒れないように自動的に舵角を調整しているからで、ライダーが間違った方向にハンドルを切ってしまうと、バランスが崩れて転倒する恐れがあるためです。

実際は相当な筋力がなければ下半身だけで上体を支えることはできませんが、可能な限り腕を突っ張らない下半身ホールドのコツをつかんでおけば、より強く確実なブレーキ操作ができるはずです。ロックしても、速やかにブレーキを解除すればバイクの復元力も高まります。

  • 坂道で下に向けて止めれば、疑似的にブレーキング時の減速Gがわかる

止まったままブレーキング時の減速Gを体感する方法として、坂道で前輪を下にして停める方法があります。この状態で座る位置や下半身の締め加減、背筋の伸ばし具合などをチェックしながら、一番楽に上体を支えられるポジションを探ってみてください。ただし、坂道は立ちゴケもしやすい場所なので要注意。ギアを入れ、ブレーキレバーを縛っておくと安心です。