JR九州の鹿児島本線は分断されている。北側は門司港駅を起点とし、熊本県の八代駅に至る。南側は鹿児島県の川内駅と鹿児島駅を結ぶ。今回は北側の区間のダイヤを描いてみた。起点は門司港駅ではなく下関駅とした。本州と九州を結ぶ関門トンネルは山陽本線に属している。しかし、運行形態を調べると、山陽本線の列車のほとんどは下関駅止まり。鹿児島本線の普通列車が下関発となっている。関門トンネルは鹿児島本線の一部となっているようだ。後で関門トンネルの様子も見てみよう。
今回は2015年3月ダイヤ改正前の時刻表を列車ダイヤ描画ソフト「Oudia」に入力している。ちなみに、ダイヤ改正で鹿児島本線が影響を受ける部分は、朝の吉塚~博多間で福北ゆたか線上り快速列車増発と、熊本付近で平日朝に普通列車2本の増発だ。資料となったJR時刻表2月号では福北ゆたか線直通列車は掲載されていないので、このダイヤとの差異は小さい。
下関~八代間のダイヤの全体像を見る。赤い線が特急、緑色が快速、黒が普通。青い線は「ななつ星 in 九州」である。火曜日に博多駅から久留米方面へ向かい、金曜日に戻ってくる。「ななつ星」の旅程表では、運行時刻が「●時▲分頃」とあいまいになっているけれど、詳細な時刻は公式サイトの「花いっぱい、旗いっぱいプロジェクト!!」にあった。なお、休日ダイヤでは「ななつ星」の発着時刻が異なり、土曜日の博多発9時59分となる。
画面の上半分が真っ赤で、特急列車が多いことがわかる。全線の半分が「特急銀座」、残り半分はローカル線だ。ただし、特急列車の運転区間は途中の博多駅で別れている。駅名欄の上の矢印が博多駅、下の矢印が鳥栖駅だ。博多駅以北は日豊本線からの特急「ソニック」や門司港・小倉~博多間の特急「きらめき」などが運転される。博多駅から鳥栖駅までの特急列車は、長崎・佐世保方面の特急「かもめ」「みどり」「ハウステンボス」である。
鹿児島本線はほとんどの区間で新幹線と並行しているけれど、これだけ特急列車が走るとはおもしろい。せっかく新幹線を作ったのに、競合しないのだろうか? もちろん競合する。そして、これがJR九州のしたたかなところであり、悩みどころでもある。
新幹線の小倉~博多間はJR西日本の山陽新幹線だ。つまり、この区間はJR九州の在来線特急が競争を挑んでいるといえる。もし両者を同じ会社が経営していれば、あるいは在来線を第3セクター鉄道にしていたら、この区間に特急列車は走らなかっただろう。同じ会社なら新幹線に乗ってもらうために在来線特急は廃止。第3セクター鉄道も地域重視と費用の兼ね合いで、普通列車重視になるはず。
しかしここはJR九州である。「日豊本線の乗客も博多駅に直通できたほうが便利だよね」という口実で、小倉~博多間に特急列車を走らせている。でも、よく見ると門司港発の博多行もある。新幹線のほうが早く着くけれど、在来線特急は料金が安い。小倉~博多間は新幹線より有利かもしれない。
ところが、同じ理由で困る区間がある。博多~鳥栖間だ。この区間で並行する新幹線はJR九州の九州新幹線だ。JR九州としては新幹線に乗ってもらいたい。新鳥栖駅で在来線特急に乗り換えてほしい。でも、乗客は乗換えの不便さを嫌って、運賃が安く直行できる高速バスを選択するだろう。高速バスに客を取られるくらいなら、博多駅から長崎・佐世保・ハウステンボス方面へ直通する特急列車を走らせたほうがましだ。ダイヤの下のほうも、特急列車は熊本~八代間に設定されている。これは「九州横断特急」「くまがわ」などの特急列車だ。
九州新幹線は当初の見込みより乗客数が少なく苦戦しているという。半分の区間に目的地まで直行できる在来線特急があるせいかもしれない。博多~鳥栖間については、九州新幹線長崎ルートが開通するまで、JR九州のジレンマは続くだろう。
次の見所はダイヤの最上部、下関~門司間の関門トンネルだ。その日中の時間帯に注目。11時30分頃から15時30分頃まで、列車の線が交わらない。つまり、すれ違いが起きていない。朝から10時台までと、17時台以降は必ずトンネル内ですれ違っている。これは、日中は運行本数が少ないからという理由だけではない。
じつはこの時間帯、関門トンネルは単線で運行している。線路2本のうち1本だけを使い、空いた線路は点検作業を行う。そのための特別なダイヤだ。本誌連載「鉄道トリビア」第232回でも紹介したけれど、ダイヤを描くと関門トンネルへの特別な配慮が見えてくる。
関門トンネルは貨物列車も走っている。そこで、「2014年版 貨物時刻表」をもとに、貨物列車のダイヤを推測して書き加えた。貨物列車の時刻は幡生駅の南側にある幡生操車場と、門司駅の南側にある北九州貨物ターミナルを参考とした。下関駅・門司駅の通過時刻を予測して記入してみた。
14時台に貨物列車同士のすれ違いがある以外は、やはりすれ違いを避けて運行されている。13時台も貨物列車と普通列車がすれ違っている。しかし、貨物列車のダイヤは推測含みだから、実際は門司駅ですれ違っているかもしれない。14時台のすれ違いが誤差の可能性もある。日曜日は貨物列車も運休があるし、深夜もすれ違いはない。関門トンネルを守るため、たくさんの保線作業員が活躍していることだろう。心から感謝したい。