前回は金融機関側の貸倒引当金について説明いたしました。今回は、デットファイナンスとエクイティファイナンスの使い分けについて考えていきます。

不確実性が低い資金用途にはデットファイナンス

デットファイナンスもエクイティファイナンスも、企業外部からの資金調達という文脈では共通しています。投資家との約束の内容、投資家への報い方が異なるだけです。一般論として、不確実性が低い資金用途にはデットファイナンスが向いています。例として、入金時期と出金時期のズレに備えたブリッジファイナンスが挙げられます。不確実性が高い、新規事業に対する研究開発投資のような資金使途には、エクイティファイナンスが向いています。

デットファイナンスとエクイティファイナンスをどのようにバランスさせるのかが、企業の財務担当者の腕の見せ所なのですが、判断ポイントはどこにあるのでしょうか。私見ですが、事業上の不確定要素が一つなら、リスクをコントロールする方法を見出しやすいので、デットファイナンス向きと考えます。

不確定要素が複数あればエクイティファイナンス向きです。乱暴な表現をすれば、堅い見積もりで事業を営むことができるのならデットファイナンスが向いていて、事業の当たり外れが大きいときは、エクイティファイナンスが向いているとも言えます。事業の簡素な例を考えてみましょう。

事業活動が安定しており、営業にもオペレーションにも特に問題はなく、利益が確保できていて、売掛金の回収にリスクがある(貸し倒れが発生することがある)とします。売掛金は一定期間の実績値があれば、回収できない取引先の割合がどの程度あるのか、売り上げを計上してから着金するまでの支払いサイトがどの程度の期間なのか、予想することが可能となります。

一方で、着金を待つ期間があるということは、先に支払いのタイミングが訪れる可能性があることの裏返しです。最終的に現預金が増える見込みだとしても、一時的に資金ショートするおそれがあれば、資金を手当てしなければなりません。突発的な事象に備えて手元資金を厚めに持っておきたいというニーズも発生すると思います。貸倒率や支払いサイトといった基礎情報があれば、安定的な事業運営のために必要な金額は確率論として、比較的容易に割り出すことができます。

売掛金は、商慣習として顧客に対して利息を上乗せ請求することは難しいため、放置しても利益を生みません。高要求収益率のエクイティファイナンスで得た資金を割り当てると、ペイしなくなります。入出金の期間ギャップを埋めるブリッジファイナンスは、デットファイナンスを選択することが有利です。

紐付き融資について連載で何度か取り上げていますが、数カ月単位でも年単位でも、原価が既知でプロジェクトマネジメントの方法が確立している仕事の運転資金の調達は、リスクがコントロールできているので、デットファイナンスが向いています。

スタートアップはエクイティファイナンスが向いている

資金調達手段としてエクイティファイナンスが向いているケースは、スタートアップが代表例です。新商品・サービスの開発も、販売も、ともに未知数の状態です。投資家に対してマイルストーンを提示するケースも多いですが、マイルストーンを達成できるか否かは誰にもわかりません。誰も結果がわからない物事の成功確率の予想は、どんなに好意的に見ても50%です。プロジェクトマネジメントの世界では「7割のプロジェクトが失敗する」とも言われますので、その場合の成功確率は30%です。

開発プロジェクトが50%の成功確率、販売プロジェクトが50%の成功確率だと仮定すると、開発と販売を総合した成功確率は25%となります。俗に「仮説と仮説の掛け算はデタラメ」と言うこともあります。投下する資金を満額回収できるとは考えにくく、デットファイナンスが困難で、エクイティファイナンスが妥当という判断になります。

また、起業後にエクイティファイナンスを繰り返した企業は、どこかの時点で調達コストを低減しなければいけない局面を迎えます。永久に指数関数的な成長を続けることは不可能だからです。売上高が伸びて企業規模が大きくなるにしたがって、デットファイナンスを組み入れていくことが必要となるでしょう。事業を要素分解して、コントロールできる要素に対する必要資金はデットファイナンスで賄い、コントロールが難しい要素に対する必要資金はエクイティファイナンスで賄うという使い分けが重要となります。

飲食店の立ち上げのようなスモールビジネスは、起業という観点ではスタートアップと同じですが、商品・サービス開発の不確実性がスタートアップと比較して低く、不確定要素は販売面に絞られるため、資金調達手段はデットファイナンスが向いていると言えるでしょう。

デットファイナンスとエクイティファイナンスの使い分けについての議論は以上です。次回は2019年度版の財務担当者へお薦めする参考文献を紹介いたします。

※写真と本文は関係ありません

執筆者プロフィール:千保 理(せんぼ ただし)

株式会社情報基盤開発CFO(最高財務責任者)

ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学経済学部経済学科を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業である株式会社情報基盤開発にCFOとして参画。財務と広報を兼務し、融資を受けた金融機関向けに経営状況を伝えるデットIR(Investor Relations)と、報道機関を介して社会全体へ情報発信するPR(Public Relations)を担う。Microsoft Innovation Award 2015にて、株式会社情報基盤開発のデータ入力業務支援ソフトウェアAltPaperが優秀賞を受賞した際のプレゼンター。未上場企業の融資による資金調達を得意としており、弥生株式会社やベンチャーキャピタルが主催する起業家向けの財務経理セミナーの講師を務めている。著書(共著)に千保理・滝琢磨・辻岡将基『~事業拡大・設備投資・運転資金の着実な調達~ベンチャー企業が融資を受けるための法務と実務』(第一法規、2019)がある。