連載を中断している間に資金調達環境が大きく変化しました。経済産業省のWebサイトにて新型コロナウイルス感染症関連の様々な支援策が紹介されておりますが、本稿では資金繰り支援のうち融資に対象を絞って解説いたします。

新型コロナ対応融資は何が新しかったのか。制度面で2つのポイントが挙げられると筆者は考えます。(1)危機関連保証が適用されたことと、(2)既往債務の借換が可能となったことです。

危機関連保証

危機関連保証は、2008年のリーマンショックの経験を踏まえて検討され、2018年にスタートした信用補完制度のもとで創設されたものです。新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策として、2020年3月13日に史上初めて発動されました。

当該内容を発信した経済産業省のプレスリリースは2020年3月11日付けですが、「危機関連保証を初めて実施いたします」という記載内容でした。

中小企業庁のWebサイトに掲載されている危機関連保証制度の認定リスト(資料のタイトルは「危機関連保証の発動リスト」)を確認しますと、官報掲載日が2020年3月13日付けとなっております。

官報を確認すると「令和2年3月13日(特別号外 第26号)」に告示として「中小企業信用保険法第二条第六項の経済産業大臣が認める場合を定める件(経済産業四九)」が掲載されております。

告示の内容は下記の通りです。

令和 2年 3月13日 経済産業省告示第49号
施行:令和 2年 3月13日
改正:なし

中小企業信用保険法(昭和二十五年法律第二百六十四号)第二条第六項の規定に基づき、同項の経済産業大臣が認める場合を次のように定める。

場合
令和二年新型コロナウイルス感染症が突発的に生じたため我が国の中小企業に係る著しい信用の収縮が全国的に生じているとき 期間
令和二年二月一日から令和三年一月三十一日まで

期間の指定が1年間となっている理由は、制度設計の段階で「本措置は、危機の状況が去った段階で速やかに終了しなければ市場を歪めることにもなりかねないため、原則1年以内と予め期限を区切って実施する。(ただし、経済産業大臣が認める場合には、更に1年の延長が可能。)」とされているからです。

中小企業庁のWebサイトに掲載されている「危機関連保証の創設(詳細資料) 」という資料にまとめられています。

保証料率も「0.8%以内で、各信用保証協会毎に定められております。」と中小企業庁のWebサイトに記載がありますが、経済産業省のパンフレット「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ」では保証料の減免について書かれており、融資を受ける企業側の負担はないよう政策的に措置されました。

東京都信用保証協会の「責任共有外保証料率表」を確認すると、保証区分が危機関連保険で融資合計額が500万円以下の場合は0.4%、500万円超1,000万円以下の場合は0.6%、1,000万円超の場合は0.7%に設定されております。例として、3,000万円の融資を10年で返済するケースでは信用保証料が100万円を超える計算になります。危機関連保証を利用するケースは信用保証料が都道府県負担となるので、強力な資金繰り支援が実施されたと筆者は捉えています。

従来から運用されているセーフティネット保証との相違点は、モニタリングです。先述の「危機関連保証の創設(詳細資料)」に「取扱金融機関は本制度に係る貸付が完済となるまでモニタリングを行い、信用保証協会に対してその内容を報告する必要あり(ただし、経済産業大臣が指定する期間においては、報告義務はない)。」と書かれています。 モニタリングの内容について金融機関の担当者にヒアリングしたところ、「金融機関から信用保証協会へ計算書類(いわゆる決算書等)を送付する」ことを以て、モニタリングを実施したことになるそうです。融資を受ける企業側の負担は大きく増えないと予想されます。

また、危機関連保証はセーフティネット保証よりも僅かながら保証料率が低い事例があります。資金調達コスト(本稿では金利と信用保証料の合計値)を考慮する際、危機関連保証を優先した方がキャッシュアウトを小さくできる可能性があります。金融機関側の担当者と綿密に確認を取りながら、融資の商談を進めることをお勧めします。

なお、信用保証制度の拡充に関する過去の経緯については、三井哲氏の論考「信用保証協会と中小企業金融」に詳しく紹介されております。

併せて、中小企業庁Webサイトに掲載されている「信用補完制度の見直し(平成30年4月1日から見直し後の制度がスタート)」と「危機関連保証制度(大規模な経済危機、災害等による信用収縮への対応)」もご参照ください。

既往債務の借換

金融機関のベテラン法人営業担当者に話を聞いたところ、リーマンショックの際も東日本大震災の際も大々的に既往債務の借換が認められたことは無かったと証言を得ました。

新型コロナ対応融資は元本返済がない据置期間を5年以内で設定できるため、創業融資の据置期間が1年前後であることと比較しても、破格の条件と言ってよいでしょう。実態としてDDS(Debt Debt Swap)を行うことと同義ですが、従来のリスケジュールと比較して金融機関との交渉が極めて容易になっています。

注意点として、日本政策金融公庫が提供している「挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)」は、同じく日本政策金融公庫が提供している「新型コロナウイルス感染症特別貸付」を利用した既往債務の借換の対象にはなりませんでした。借換はできず、追加で融資を受けることは可能です。審査の期間についても、資本性ローンを利用していない企業と比較して1ヵ月長くかかった事例があります。起業家に人気の制度だっただけに、政策の対象外となったことは残念ですが、今後の推移を見守りたいと思います。

新設された新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付(新型コロナ対策資本性劣後ローン)においては、日本政策金融公庫のWebサイトに「原則として、ご融資後5年間は期限前返済をいただけません」と記載があります。期限前返済が一切認められなかった従来の資本性ローンの欠点が補正されたため、今回のように借換制度の対象外になることは無くなると期待されます。

新型コロナ対応融資の新規性に関する説明は以上です。次回は新型コロナ対応融資の契約面の特徴について整理します。