騙されない投資家になるために……。投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。その第5回です。

「分散投資は有効か」

投資を行っている方、あるいは投資を行おうとしている方は、分散投資の重要性を嫌というほど見聞きしているのではないでしょうか。よく引き合いに出されるのが、「卵は一つのカゴに盛るな」という格言です。聞いたことありますよね。おカネを一つの金融商品に投資するなという意味です。

卵は一つのカゴに盛るな

「卵」を複数の「カゴ」に盛れば、一安心です。一つのカゴを落としても、全部の「卵」が割れるわけではないのだから。

株式投資で考えると、資金の全額を一銘柄に投資した場合、たまたまその企業がライバルに敗れて業績が急激に悪化すれば、あるいは最悪のケースとして破たんすれば、投資額の大半あるいは全部を失う可能性があります。複数の銘柄に分散していれば、そうした事態は避けられるかもしれません。

日本の景気が急速に悪化して、企業が一斉に業績見通しを下方修正すれば、ほとんどの銘柄が下がるかもしれません。そうなれば、複数の銘柄に投資していてもあまり意味はないでしょう。そうした場合に備えて、日本と景気の状況が異なる国、例えば米国の株式に投資すれば良いかもしれません。あるいは、景気が悪化して市場金利が低下するのであれば、国債の価格は上昇するので、株式と国債に分散して投資するという手もあります。

複数の金融商品に投資するのとは別に、一つの金融商品でも何回かに分けて投資するという「時間の分散投資」という考え方もあります(ここでは詳しく論じません)。

分散投資の限界

もっとも、分散投資が万能というわけではありません。とりわけ、次の点には注意が必要でしょう。

まず、金融商品間の相関性を把握するのは簡単なことではなく、しかもその相関性は一定ではありません。何らかのショックによって、あまり関係がないと思われていた金融商品間の相関性が一気に高まり、分散投資が意味をなさなくなるケースもあります。

極端な例がリーマン・ショックでしょう。元々は米国の不動産市場に限定された、しかもサブプライム・ローンという一部の質の低い住宅ローンの焦げ付きが発端でした。しかし、サブプライム・ローンが証券化されてバラ撒かれていたことで、世界中の投資家に損失が発生して、ほとんどありとあらゆる金融商品の価格が下落しました。

分けていたはずのカゴが、実は見えない糸でつながっていたというわけです。

投資信託などで「分散投資」「国際分散投資」を謳っているからといって、必ずしも安定的な収益が得られるとは限りません。むしろ、大きなショックには無力だと考えた方が良いかもしれません。

補論:分散投資の利点はリスクの低減

そもそも、分散投資を行っても、期待されるリターン(将来の収益)が「良くなる」ことはありません。分散投資で期待されるリターンは、組み合わせる金融商品の個々に期待されるリターンの平均(厳密には配分に応じた加重平均)です。必ずそうなります。

分散投資の利点は、リスク(価格の予想変動率)を低下させることにあります。分散投資によって、全体リスクは組み合わせる金融商品個々のリスクの平均を下回ります。一つの金融商品の価格変動のデコボコが、別の金融商品の価格変動のデコボコによってある程度均されるからです。

ただし、よほど上手い組み合わせを見つけない限り、分散投資によるリスク低減効果(=分散投資の全体リスクと、金融商品個々のリスクの平均との差)はそれほど大きくありません。また、組み合わせる金融商品の数を増やすほど、限界的なリスク低減効果は小さくなります。

銀行や保険・年金など、いわゆる機関投資家であれば、複雑な分析や緻密な計算はお手のものです。また、巨額の投資を行っているため、わずかなリスク低減効果でも意味はあるのでしょう。

一方、個人の投資家が自身で複雑な分散投資を追求しても、往々にして得られる効果は投下する労力に見合わないのではないでしょうか。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。

2012年9月、マネースクエア(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」「市場調査部エクスプレス」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。