投資の初心者の方で、十分に説明を聞いて投資をしたのに、思わぬ損失が出て「騙された!」と感じたことはありませんか。でも、金融商品の正しい知識を持っていれば、そうした事態は避けられたかもしれません。

そこで、投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。その第3回です。平易にしたつもりですが、表面利率や流通利回りなどいくつかの専門用語は使わざるを得なかったので、分からなければググってみてください。

「株式より債券の方が安全か」

「株はリスクが大きいので、債券にしましょう」と勧められたことはありませんか。その債券は本当に安全でしょうか。現在(2018年7月25日時点)、10年物の日本国債の利回りは0.10%前後です。したがって、満期が10年以内で利回りが0.10%を大きく上回る債券があるとすれば、相応のリスクがあると考えるべきでしょう。

債券投資のリスク

債券投資にもリスクはあります。

(1)信用リスク
(2)インフレリスク
(3)価格変動リスク
(4)流動性リスク
(5)為替変動リスク
(6)カントリーリスク
などです。

(1)から(4)はほぼ全ての債券に当てはまるもので、(5)と(6)は外貨建て債券のみに当てはまるものです。

信用リスク

第1回でも少しお話ししましたが、債券は元本が保証されており、最初に約束した期間保有すると元本は戻ってきます。債券を保有している期間中は利息を受け取ります。ただ、元本や利払いを保証するのは、あくまでも発行体とよばれる企業や地方自治体、国などです。発行体の財務状況が悪化すれば、元本の返済や利息の支払いが滞り、場合によっては全く支払われないこともあります。

元本や利息が当初の約束通り支払われない場合、これをデフォルト(債務不履行)と呼びます。それは発行体の信用に関わるものなので、信用リスクと定義されます。

インフレリスク

元本と利息が約束通り支払われれば、問題はないでしょうか。ここに落とし穴があります。インフレリスクです。現在の日本でインフレを心配する必要はないかもしれませんが、仮に物価が10年前の2倍になっているとします。10年前に投資した元本100万円がそのまま返ってきてもうれしくはないでしょう。価値が半分になっているからです。

そこまで極端ではないとしても、日本銀行が2%の物価目標を達成して10年経過すると、物価は1.22倍になります。その分だけ当初の100万円は目減りする計算です。なお、100万円を金庫に仕舞っておいても、当然同じリスクがあります。

価格変動リスク

10年後に満期が到来する債券を買ったとします。途中で資金が必要になってその債券を売却しなければならない場合、価格変動リスクに晒されます。ここで重要となるのが市場金利です。市場金利とは、簡単に言えば金融市場でおカネが貸し借りされる際に適用される金利のことで、年率で表示されます。一般には、国債が債券市場で売買される際の流通利回りのことを指すことが多いです。

市場金利が低下すると、債券の価格は上昇します。逆に、市場金利が上昇すると、債券の価格は低下します。例えば、市場金利が3%の時に表面利率3%の国債が発行されたとします。直後に市場金利が2%に低下すると、投資家は額面の3%の利息を受け取り続けることのできるこの国債を額面よりも高い価格でも買おうとするでしょう(価格の計算は複雑なのでここでは割愛します)。

価格変動の具体例

具体例を示しておきます。2008年7月に表面利率2.3%で発行された20年物国債があります。10年経過したので満期まで残り10年ですが、現在この国債は額面の122%ほどで取引されています。現在発行される10年物国債の表面利率は0.1%程度なので、投資家にとっては、表面利率が2.3%の20年物国債を満期まで10年間保有する方が魅力が大きいからです。

簡単に言えば、買った時よりも売る時の市場金利が低ければ、その債券を売れば利益が出ます。逆に、買った時よりも売る時の市場金利が高ければ、その債券を売れば損失が発生します。

少し長くなったので、本稿はここまでにしましょう。次回、騙されない投資家になるために~その4「株式より債券の方が安全か2」では、(4)流動性リスク、(5)為替変動リスク、(6)カントリーリスクを説明した後、株式より債券の方が安全かどうかを検証したいと思います。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。

2012年9月、マネースクエア(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」「市場調査部エクスプレス」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。