投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。今回は米国債券相場の歴史です。

  • 米国債券相場の歴史を振り返る(写真:マイナビニュース)

    米国債券相場の歴史を振り返る

株式と違って、個人の投資家が個々の債券を売買する機会は少ないかもしれません。しかし、様々な債券が投資信託に組み込まれています。また、債券価格(金利)の変化は株価や為替相場とも相互に影響し合うので、債券相場の歴史を知ることは、やはり投資判断の役に立つと思います。

金利と価格の関係

債券について真っ先に知っておくべきことは、金利と価格の関係です。債券相場(債券の価格)が上昇すれば利回り(金利)は低下し、債券相場が下落すれば利回りは上昇します。つまり、両者は真逆の動きをします。

米10年物国債利回りは最も重要な金利

さて、本稿では米国の国債(財務省証券。以下、米国債)を取り上げます。米国債の利回りは、単に市場金利と呼ばれることもあり、金融市場で最も注目される金利です。とりわけ、10年物国債の利回りは、長期金利とも呼ばれ、世界の様々な金利の直接・間接のベンチマーク(指標)となっています。

2度のオイルショックで長期金利は16%に

第二次世界大戦後から1960年代半ばまで、米国債の利回りは比較的落ち着いていました。米国債が現在のように活発に売買されるものでなかったこと、そしてインフレ(物価上昇率)が安定していたことが背景でしょう。

1960年代半ば以降、ベトナム戦争が泥沼化し、米国経済が疲弊して、インフレが高まると、米国債の利回りも上昇基調(価格は下落基調)となりました。米国債の利回り上昇に拍車をかけたのが、1973年と1979年の2度のオイルショックとインフレの高騰です。10年物国債利回り(長期金利)は1981年9月には16%近辺まで上昇しました。

「インフレファイター」ボルカー議長

1979年に米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)の議長に就任したポール・ボルカーはインフレ退治を最優先し、1981年には政策金利を20%に引き上げます。この大幅な金融引き締めが景気に急ブレーキをかけたこと、さらには1986年には原油価格の暴落(オイルグラット)もあって、インフレは低下しました。

その後、米国債の利回りは、上下動しながらも、ピークが前回のピークを下回り、ボトムが前回のボトムを下回る、いわゆる「ロワー・ハイ、ロワー・ロウ」を概ね示現しつつ、低下基調が続きました(下図)。

グリーンスパン議長のコナンドラム

1990年代半ば以降は、新興国が世界経済に組み込まれてグローバリゼーションが拡大・深化し、また、IT革命もあって、物価上昇率が鈍化するディスインフレや物価が下落するデフレが広がります。2000年代半ばにはFRBが利上げを繰り返しても、資金余剰のなかで長期金利が上がらなくなり、当時のグリーンスパンFRB議長はその現象を「コナンドラム(謎)」と呼びました。

さらにはリーマンショックと「100年に一度の経済危機」に際して、世界中で国債購入などの量的緩和を含む積極的な金融緩和が行われ、長期金利は低下基調が続きました。

金利低下の長期トレンドは終焉?

2015年12月、FRBは約9年ぶりに利上げを実施、政策金利をほぼゼロに維持する極端な金融緩和からの正常化を開始します。そして、利上げの継続とともに2018年春に長期金利は3%を超え、1980年代初頭から続いてきた金利低下の長期トレンドが終焉したかにみえました。しかし、2018年終盤から世界経済の減速懸念が強まり、トランプ政権による対中強硬姿勢など懸念も強まり、長期金利は急低下。世界的にも、マイナス金利が増えました。

今後、長期金利が一段と低下するのか、それとも反転上昇に向かうのか。株価や為替にも大きな影響を与えることになりそうです。

  • 米10年物国債利回り(長期金利)

    米10年物国債利回り(長期金利)

シャットダウンとデフォルト

米国債券相場に関連して時々話題に上るのが、シャットダウンやデフォルトです。

シャットダウンとは、政府機関の一部が閉鎖されることで、期限までに新しい予算が成立しなければ発生します。ここでいう予算とは12本の歳出法のことで、議会で上院と下院が同一の歳出法を可決して大統領に送付、大統領がそれらに署名すれば成立します。議会の共和党と民主党、あるいは議会と政府の交渉が難航した場合にシャットダウンが発生する可能性があります。

最近では、2018年12月から2019年1月にかけて35日間シャットダウンが発生しました。これは過去最長です。シャットダウンが発生すると、自宅待機を命じられる政府職員や、政府サービスが利用できない一般市民にとっては大迷惑です。ただ、よほど長期化しない限り、景気や金融市場への影響は限定的です。

他方、デフォルト(債務不履行)とは、国債の利払いや償還が約束通り行われないことです。政府の債務残高には法定上限(デットシーリング)が設けられており、債務残高が上限に達すると、議会が都度それを引き上げてきました。議会が引き上げを拒否すれば、政府は新たに債務を増やすことができず、利払いができなくなります。国債の利子は時間の経過とともに発生する新しい債務だからです。

過去に米国債がデフォルトしたことはありません。ただ、2011年8月にはデットシーリングの引き上げが土壇場まで遅れ、金融市場が大きく動揺しました。もっとも、米株が大幅に下落したため、安全性の高い(!?)米国債へと資金が流れ、米国債の価格が上昇(金利が低下)したのは、なんとも皮肉でした。

なお、米国債の利子は自然に発生するため、政府の支出ながら予算の外にあります。したがって、シャットダウンとデフォルトは直接関係がありません。ただ、予算審議の過程でデットシーリングが交渉材料に使われることも多いため、2つは同じようなタイミングで相場材料になることがあります。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査室 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などを経て、 2012年にマネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで多数のレポートを配信(一部は口座をお持ちの方限定で公開)する他、投資家のための動画配信サイト「M2TV」でマーケットを日々解説。