投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。今回は米国の金融政策です。相場を見る上で金融政策は最も重要な要素の一つです。特に米国の金融政策の注目度はピカ一でしょう。

  • アメリカの金融政策を理解していますか?

米国の中央銀行の仕組み

各国(ユーロ圏の場合は地域)の金融政策は中央銀行によって運営されています。米国では、連邦準備制度(Federal Reserve System)と呼ばれるシステムが中央銀行として機能しています。

連邦準備制度は、ワシントンDCに本部があり、議長や副議長を含む7人の理事からなる理事会(Board of Governors of the Federal Reserve System)を頂点にしています。そして、全米を12地区に分けて、各地区で連邦準備銀行(地区連銀)が実際の業務を担当しています。

FRB(Federal Reserve Board)はもともと理事会のことですが、広義には地区連銀や後述するFOMCを含めた金融当局を指します。米国ではFRBと呼ばずにFed(フェッド)と呼ぶのが一般的です。

金融政策の決定

実際に金融政策を決定するのが、FOMC(連邦公開市場委員会)と呼ばれる会合です。これには、7人の理事と12人の地区連銀の総裁が参加して議論します(さらにはエコノミストなどのスタッフも臨席します)。そして、7人の理事と、ニューヨーク連銀の総裁、その他の地区連銀の総裁のうち4人(1年交代の輪番制)の計12人の投票によって金融政策が決定されます。

FOMCは定例で年8回開催されますが、緊急事態が発生した時などは臨時で招集されて、そこで金融政策が変更されることもあります。

デュアル・マンデートとは

FRBは法律によって「物価の安定」と「雇用の最大化」を義務付けられており、それらをデュアル・マンデートと呼びます。多くの中央銀行は物価の安定を義務付けられる一方で、雇用の増加は1ランク下の努力目標のような位置付けです。しかし、FRBは時に相矛盾する2つの目標の達成を求められています。

金融政策の手段

FRBは目標達成のために景気のスピードをコントロールします。ブレーキをかけるのが金融引き締めであり、アクセルをふかすのが金融緩和です。主要な手段として、政策金利の変更があります。いわゆる利上げや利下げです。

米国の政策金利はFFレート(フェデラルファンドレート)で、FF金利とも呼ばれます。FFレートは金融機関が資金を貸し借りする短期金融市場(FF市場)における金利のことで、厳密にはそれを誘導する目標が政策金利です。FRBはFF市場で資金を出し入れしてFFレートを目標に誘導します。

政策金利の変更は一般に0.25%刻みで行われますが、思い切った措置が必要な場合には0.5%や1.0%幅で行われることもあります。

非伝統的政策

2008年秋のリーマンショックの直後にFRBは政策金利を事実上0%まで引き下げました。いわゆる「ゼロ金利政策」です。それでも、景気の低迷が続いたので、FRBは住宅ローン担保証券や国債などの債券を購入して、金融市場に大量の資金を供給する金融緩和に踏み切りました。

いわゆる量的緩和(QE)です。政策金利の変更は伝統的政策であり、量的緩和は非伝統的政策です。債券を購入することでFRBの資産が大きく膨らんだので、バランスシート(貸借対照表)を使った金融緩和と呼ぶこともできます。

市場との対話を重視

かつて、金融政策は秘密裡に運営されていました。FOMCの議事録が公表される6週間後(現在は3週間後)になって初めて金融政策の変更が確認されるケースさえありました。しかし、今のFRBは自らの意向をできるだけ市場に伝達するよう努めており、市場との対話を重視しています。これは世界的な潮流でもあります。

FOMCの直後に声明文が公表され、政策変更の有無が伝達されます。また、議長は記者会見を開いて追加の説明も行います。議長は年2回の議会証言を義務付けられています。それ以外にも、議長やその他の理事、地区連銀の総裁らが講演などで金融政策に関して発言する機会は頻繁にあります。

ハトとタカ

FRB関係者の発言は、組織としての統一見解の場合もありますが、多くが個人の見解です。そして、物価安定よりも雇用増大を重視する傾向のある人とその逆の人がいます。前者は金融緩和に積極的で、金融引き締めに消極的であり、「ハト派」と呼ばれます。後者は金融緩和に消極的で、金融引き締めに積極的であり、「タカ派」と呼ばれます。議長や副議長、NY連銀総裁といった幹部は比較的中立な立場をとります。

ハト派が金融引き締めに前向きな発言をしたり、タカ派が金融緩和を支持する発言をしたりすれば、金融政策がそちらの方向に動く兆候だと受け止めることも可能でしょう。

ベージュブックなど

金融政策を考えるうえで参考になるのが、地区連銀経済報告です。各地区連銀が管轄地区内の企業などにヒアリングして経済状況をまとめたもので、FOMCの2週間前に公表され、FOMCでの検討資料にも使われます。冒頭に簡単なサマリーがあるので、景気や物価に関するFRBの大まかな判断を伺い知ることができます。表紙の色からベージュブックと呼ばれます。

FRBの本部には、経済学博士号を持つ300人以上のエコノミストが勤務しています。また、各地区連銀もそれぞれに研究者を抱えています。彼らは研究成果をレポートとして公表しており、それらがFRBの関心事項を表しているとして市場で注目されるケースもあります。

次回は、米国の金融政策に関する最新のトピックスを取り上げます。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして活躍。 2012年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで「市場調査部レポート」「スポットコメント」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、動画サイト「M2TV」でマーケットを日々解説。