ブームは去ったかのようにも感じる「仮想通貨」ですが、その普及は世界中で着実に進んでおり、今後もさまざまなシーンでの活用が期待されています。本連載では、「仮想通貨に興味はあるけれど、なにからどう手を付ければいいかわからない」というような方向けに、仮想通貨に関連するさまざまな話題をご紹介。仮想通貨を2014年より保有してきた筆者の経験から、なかなか人には聞きにくい仮想通貨の基礎知識や歴史、未来像などもわかりやすくお伝えします。

  • ICOに投資するのはやめるべき?

ICOって何の略?

ICOは、「イニシャル・コイン・オファリング(Initial Coin Offering)」の略です。株式で言われる「新規公開株」「新規上場株」を意味する「イニシャル・パブリック・オファリング(Initial Public Offering)」に似せて作られた造語で、誰がICOという言葉を使い始めたのかは不明です。メジャーな仮想通貨であるイーサリアム(イーサ)は、このICOの先駆け的な存在ですが、当時はICOという言葉は使われていませんでした。

ICOは、ひと言でいえばただの資金調達の手段です。ICOのほかに、「クラウドセール」「トークンセール」などと呼ばれることもあります。最近の言葉でいえば、クラウドファンディングがもっとも近い意味の言葉かもしれません。つまり「仮想通貨を開発するから投資してください」ということなのですが、IPOに似せて造られた言葉であるものの、IPOとICOではその信用性が大きく異なるのでご注意ください。

IPOの場合、その企業にはすでに事業実績がありますし、株式を公開して投資家を募る場合には多くのハードルがあります。監査法人による会計監査が行われ、証券取引所による厳しい上場審査をパスしなければ上場できません。

東京証券取引所には、「第一部」「第二部」「マザーズ」「JASDAQ」「TOKYO PRO Market」の5つの株式市場がありますが、そこに上場できている企業は計3,650社です(2019年2月1日時点、出展:日本取引所グループ)。日本には約385万社の企業があると言われていますので(2016年6月1日時点、出典:総務省統計局)、上場企業になることがいかに狭き門であるかわかると思います。

一方ICOの場合、これから仮想通貨を開発するわけですから、実績はありません。ICOによって投資家を募る場合は、「ホワイトペーパー」と呼ばれる事業計画書のようなものが公開されることが多いですが、理想的な計画を作るだけであれば誰でもできてしまいます。最近では、ICOを専門とするコンサルティング会社もありますので、お金さえ払えば素晴らしいホワイトペーパーができてしまうでしょう。重要なのは、事業計画の実現性とその根拠です。

なぜICOブームは起きたの?

第1回の記事に書いたように、2017年は「仮想通貨元年」とも呼ばれる仮想通貨ブームの年でした。ビットコインやイーサリアム(イーサ)、リップル(XRP)などのメジャーな仮想通貨の価値が大きく上昇したこともその一因ですが、ICOプロジェクトが乱立したこともブームの一因でしょう。多くのICOプロジェクトが生まれた理由は単純で、イーサリアム(イーサ)が大成功したため、その再現を期待してのことです。

イーサリアム(イーサ)は、2014年7月22日から9月2日の間にプレセール(今でいうICO)を行いました。イーサリアム(イーサ)はビットコインでのみ購入(投資)できる状態で、この時のレートは1BTC=2,000ETH(ETH=イーサリアムの通貨単位)でした。それが2018年初頭の段階で1BTC=約0.09ETHまで上昇しています。ビットコイン建で180倍に上昇したということです。

同じ期間のビットコインの価値上昇が約60倍だとすると、単純計算で1万800倍になったということですね。この上昇率の再現を、多くの人はICOに期待した、あるいは今もしているということだと思います。ICOブームになったのもうなずけますよね。

それならばICOに投資すれば億り人になれる!?

イーサリアム(イーサ)はICOの成功例の代表格とも言えるケースですが、多くのICOは失敗しています。「仮想通貨に投資して損した」という人の多くは、「ICOに投資して現金化できなくなった」もしくは「かなり価値上昇した時点でビットコインなどを購入し、損切りしてしまった」のいずれかでしょう。

ICOでは、投資後に発行元の企業と連絡が取れなくなるケースもありますし、プロジェクトが頓挫し仮想通貨の開発が遅れる、あるいは中止になるケースもあります。ICOはひとつのプロジェクトでありひとつの事業ですので、うまくいかず結果的に詐欺のようになってしまうこともあるのですが、そもそも悪意を持って投資を募っていた意図的な詐欺もあるでしょう。

あまりにも多くのICOが乱立し、投資被害も出たため、中国ではICOは全面的に禁止されています。日本はまだ全面禁止とまではなっていませんが、金融庁からは以下のような注意喚起が出ています。

ICOで発行されるトークンを購入することには、次のような高いリスクがあります。

■価格下落の可能性
トークンは、価格が急落したり、突然無価値になってしまう可能性があります。

■詐欺の可能性
一般に、ICOでは、ホワイトペーパー(注)が作成されます。しかし、ホワイトペーパーに掲げたプロジェクトが実施されなかったり、約束されていた商品やサービスが実際には提供されないリスクがあります。また、ICOに便乗した詐欺の事例も報道されています。

(注)ICOにより調達した資金の使い道(実施するプロジェクトの内容等)やトークンの販売方法などをまとめた文書をいいます。

ICOに投資するなら捨て銭で

前述のとおり、ICOは今でいうクラウドファンディングのようなものですが、極めて無責任な仕組みであるともいえます。ICOは、ひとつの事業です。通常、事業を始めるときは自己資金を準備するか、銀行・金融機関などから融資を受けるか、私募債などで資金調達するか、いずれかの方法で開業資金・運転資金を用意します。

事業計画はもちろん必要ですし、不動産担保の提供や代表者個人が連帯保証人になるなど、経営者がなんらかのリスクを取っています。しかしICOの場合は、ホワイトペーパーがあるだけです。仮想通貨の開発状況も決してオープンではないですし、発行・運営会社の財務諸表が公開されるわけでもありません。失敗しても、お金を集めた側にはなんのリスクもないわけです。

こうして見ると、「ICOは危険」と感じるのですが、イーサリアム(イーサ)などの成功例が先行してしまい、ついつい儲け話に目がくらんでしまう人もいるでしょう。くれぐれも注意していただきたいです。

ICOへの投資は、成功すればその利益は莫大なものになります。数百倍、あるいは数千倍を狙えるかもしれません。しかし、投資したお金が消えてなくなるリスクも高いです。「一発逆転満塁ホームランを狙う」というなら止めはしませんが、あくまでもなくなってもいい捨て銭でやるほうが賢明でしょう。

次回は、「ICOの失敗例」についてご紹介します。

執筆者プロフィール : 中島 宏明(なかじま ひろあき)

1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、SAKURA United Solutions Group(ベンチャー企業や中小企業の支援家・士業集団)、しごとのプロ出版株式会社で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。
オフィシャルブログも運営中。