「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。
『2021年のビットコイン価格レビューと来年のアウトルック』と題した、暗号資産取引所を運営するビットバンク主催のメディア関係者向け勉強会が2021年12月1日に行われました。2017年前後の第一次ブームが落ち着き、2020年のコロナショックから再熱している暗号資産への関心。2014年の創設以来、業界を牽引してきたビットバンクは現状をどう捉え、未来に向かおうとしているのでしょうか。本稿では、勉強会レポートとしてトピックをご紹介します。
2021年の暗号資産業界の出来事・上半期
主催者のビットバンクは、暗号資産業界における国内の現物取引高シェア33.7%。アルトコインに限ればシェア60.4%(JVCEA統計データとビットバンクの取引データから抽出 2021年4月末日時点)を占める暗号資産取引所です。
まず登壇したのは、CEOの廣末紀之氏。廣末氏には、過去に本連載でインタビューを行っていますので、ぜひ読んでみてください。勉強会前半では『暗号資産業界の動向と課題』と題して、2021年の振り返りがされました。
総じて、相場環境は活況で前年から機関投資家の参入があり、アセットクラスとしての認知が広がっています。「腰の据わった資金」と廣末氏が表現したように、これまでは個人投資家にプレイヤーが限定されていた暗号資産市場でしたが、2020年頃から機関投資家が参入しました。
2021年上半期の暗号資産業界の出来事として、配布された資料から以下をピックアップします。
1/21 米ブラックロックが投資信託の投資対象資産にBTC先物を追加
1/31 海外掲示板のRedditに集まる個人投資家らが結託し、リップルが急騰
2/8 テスラ、15億ドル分のBTC購入が判明
2/12 BNYメロン、米大手カストディ銀行として初めて暗号資産のカストディ事業参入を発表
3/2 ゴールドマン・サックスがBTC先物取引のトレーディングデスク 再開を発表
3/30 米決済大手ペイパルが約2900万の加盟小売店で暗号資産による決済サービスを開始
3/24 テスラがBTC決済を開始
3/29 VisaがステーブルコインのUSDCで仮想通貨決済を開始
4/14 コインベースがNASDAQに直接上場(381ドルの初値)
4/28 ネクソンが東証1部上場企業として初めて約110億円のビットコインを購入
5/3 米S&P、ビットコインとイーサリアムの価格指数を開始
5/12 テスラ、マイニングによる環境負荷の懸念からBTC決済を停止
5/21 中国政府がビットコイン・仮想通貨マイニングの規制強化を発表
2021年の暗号資産業界の出来事・下半期
2021年上半期の終わり頃は、テスラ社のBTC決済停止や中国政府によるマイニングの規制強化などネガティブなニュースが続きました。「イーロンマスク砲」と話題になったので、記憶に残っている方もいるでしょう。
下半期になると、ポジティブニュースとネガティブニュースが交錯することになります。
7/21 コインチェックが国内初のIEOを実施
7/12 「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」が金融庁で設置
8/9 NFTゲーム「Axie Infinity」の取引総額が1,200億円を突破
9/7 エルサルバドルがビットコインを法定通貨として承認
9/24 中国人民銀行が暗号資産関連サービスを全面的に禁止することを発表
9/24 Twitterがビットコイン投げ銭機能「Tips」を開始
10/20 米国でビットコイン先物ETFの取引が開始
2021年10月20日には、ビットコインが1BTC=759万円の史上最高値(当時)を更新し話題を集めました。その背景にあったのは、投資信託のプロシェアーズ社が取り扱うビットコイン先物に連動したETFです。米証券取引委員会(SEC)が上場申請を承認した初のビットコインETFとなりました。
ビットコインそのものがリスキーと思う投資家にとって「投資しやすくなった」というわけです。ビットコインは簡単に直接買うことができますが、「社会に認められる通貨へと昇格した」と言うことができるでしょう。
個人投資家から機関投資家への広がり
機関投資家の業界参入や暗号資産のユースケース拡大については、勉強会で以下のようにまとめられていました。
機関投資家の資金流入
インフレヘッジとしてのBTC
・サプライチェーン問題による供給不足
・資源価格の高騰
・利上げによる債券売却の流れ
投資環境の整備と投資商品の拡充
・暗号資産ファンドやカストディ事業、市場指数などが続々と誕生
・米コインベースがNASDAQに上場
・米国でビットコイン先物ETFが取引開始
個人投資家の資金流入
暗号資産のユースケース拡大
・ゲームやメタバースなど、NFTに関連するトレード以外のユースケース拡大
・テスラ、PayPal、VISA、Venmoなど決済サービス提供の拡大
ETFなどの金融商品化のほかに注目されるのは、2021年下半期にメディア等に取り上げられる機会が増えた「メタバース」や「NFT」でしょうか。
メタバースはブロックチェーンやAIとともに、今後10年間の大きなパラダイムとなるでしょう。
メタバースは、インターネット上に構成された仮想の3次元空間のことです。「メタ(超越した)」と「ユニバース(世界)」を組み合わせた造語で、この言葉をメジャーにしたのは、2021年7月にフェイスブックがアナリスト向けに行った四半期決算発表です。マーク・ザッカーバーグ氏は、フェイスブックを「メタバース企業」にするという野望を強調しながら会社の将来について語り、社名を「メタ」に改めました。
メタバースで応用できるのが、NFT(ノンファンジブルトークン)です。NFTについては、『トークンにはどんな種類があるの?』をご覧ください。
NFTの誕生以前は、データはコピー可能で、データや取引の正真性が保証されないため、デジタルデータの価値を定義することができませんでした。しかしNFTができたことで、デジタルの世界における個別のモノや権利に対して、固有の価値を定義してリアルな世界のものと同じように取引ができるようになりました。
デジタルの世界に、リアルの世界と同じような貨幣経済が成り立つようになったと言えるでしょう。メタバース上の決済手段として、暗号資産が活用される可能性は大いにあります。
暗号資産市場における課題と懸念点
業界における課題については、以下のようにまとめられています。
FATFのトラベルルールの準拠対応
・取引や入出金の監視
・金融庁への報告
・交換業者同士の情報交換
ステーブルコイン規制
流動性を支える米ステーブルコイン
・テザー社の裏付け資産問題
・SECがUSDC発行のサークル社を調査
・イエレン氏が銀行並みの規制導入を提言
リスクオフによる懸念
テーパリングの早期開始
・各国で予定を前倒してテーパリング開始
・リスクオフによる安全資産への資金移動
・暗号資産からの資金抜けを懸念
国内の業界動向と課題
規制の整備
・「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」が発足
・ステーブルコイン、DeFi、NFTなどを中心に、規制の方針を議論
投資環境の整備
機関投資家の参入障壁
・暗号資産カストディ(国内は交換業者のみカストディ事業可)
・市場指数
また、ビットバンク社の取り組みとして
新規銘柄や注文機能の拡充
取引環境の充実
・PostOnly注文や逆指値注文の実装
・BATやXYMなど5銘柄を新規取扱開始
・マッチングシステムの処理能力強化
国内を牽引する技術的な施策
・LightningNetworkの研究開発及び「Diamond Hands」プロジェクトの支援
・脆弱性対策でバグバウンティ制度を導入
などが取り上げられました。ビットバンク社は広告をあまり出しておらず、「顧客が自ら選んでいる取引所」と言えます。私が取引所を選ぶ際の基準は、「セキュリティ」「ユーザビリティ(取引のしやすさ)」「銘柄数」「手数料(低コストで取引できるか)」です。日本は実は販売所形式が多く、暗号資産を買う際に高コストになりがちです。取引所形式の取り扱い銘柄数が充実している点も、ビットバンク社の強みではないでしょうか。
2021年のビットコイン価格動向・上半期
勉強会の後半では、『直近のビットコイン価格動向と来年の見通し』と題して、マーケット・アナリストの長谷川友哉氏が登壇しました。
2021年のビットコイン価格動向・上半期レビューは以下のとおりです。
EVのテスラがビットコイン購入
・マスクCEOは従前より仮想通貨への関心を示していた
・テスラのBTC決済も導入
SpaceX(非上場)もBTC保有
NASDAQ上場企業中、8社がBTCを保有
・世界で27の上場企業が保有(coingecko調べ)
コインベースがNASDAQに直接上場
・仮想通貨取引所で初
・参考価格:250ドル → 初日終値:328ドル
・初日時価総額は一時1,000億ドルを超えた
・期待感が相場を押し上げる
・上場後、材料出尽くしで反落
テスラがビットコイン決済を突如停止
・マイニングに使用される電力発電の環境への影響が背景
・EVメーカーの理念と不一致との批判もあった
・これを契機にビットコインに対する環境批判が増加
・失望感を誘い相場は急落
中国が仮想通貨マイニングを全面禁止
・脱炭素目標の標的に + CBDCの競争排除
2021年のビットコイン価格動向・下半期
また、2021年のビットコイン価格動向・下半期レビューは以下のとおりです。
ビットコインが法定通貨になったが……
・エルサルバドルのビットコイン法施行による事実売り
・政府公認のchivoウォレットで不具合も発生
・登録者数殺到で障害発生
・2週間で1.6万人=国民の約25%
中国恒大デフォルト危機
・中国不動産開発の中国恒大集団のデフォルト危機
・「中国版リーマンショック」懸念で世界同時株安に
9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)を契機に相場は底打ち
・9月FOMCで11月から資産購入額の段階的縮小(テーパリング)がほぼ確実となった
経済見通し(Summary of Economic Projection)で年末時点の個人消費支出予想の中央値が大幅に引き上げられた
・3月:2.4%→6月:3.4%→9月:4.2%
・結果として市場が織り込む向こう10年間の平均インフレ率を示す
・10年物ブレークイーブンインフレ率(BEI)が上昇
・BTCも追随
・BEIが今夏のレンジをブレイクするとシカゴマーケンタイル取引所(CME)での取組が活発化
プロシェアーズのBTC先物上場投資信託(BITO)が取引開始
・米国で初
10月米CPIが6.2%と驚愕の水準に
・BTCは上昇で反応し最高値更新 ・一方、長期金利上昇による米株の急落に連れ安となり反落
2022年の注目トピックとプライスターゲット
最後に、2022年のトピックをポジティブ/ネガティブの両面から、またプライスターゲットについても長谷川氏が解説してくださいました。
ポジティブ
・決済利用可能地点の拡大
・イーサリアム相場の上昇
・イーサリアム2.0への移行
・NFT、メタバース
・BTCの法定通貨化
・中南米に注目
・米国初の現物BTC上場投資信託
ネガティブ
・環境懸念
・カザフスタンで不穏な動き
・ステーブルコインの規制
・流動性リスク
・半減期サイクル終了
・長期保有アドレスを注視
プライスターゲット
・上半期予想レンジ:40,000ドル~140,000(458万円~1,500万円)
・年末予想レンジ:28,800ドル~120,000(330万円~1300万円)
夏も冬もあるのが暗号資産市場
2022年が暗号資産業界にとって夏になるのか冬になるのかはわかりませんが、季節は巡ります。ポイントは、ビットコインの未来を信じられるかどうかでしょう。
暴落したときに大きく買うのも良いですし、ドルコスト平均法で積立感覚で買い増しし、「暴落したときはいつもより多めに買う」とマイルールをつくるのも良いと思います。日本の暗号資産取引所で取り扱われている銘柄は、すでに海外で値上がりした後に取り扱いが開始され、やや割高に感じることもあります。しかし一方で、「消滅リスクは低い」とポジティブに捉えることもできるでしょう。
すでにメジャーなビットコインやイーサリアムよりもパフォーマンスの良い銘柄はありますが、投資はあくまでも余剰資金でやるものですから、ほどほどにしておくことも長期的には良い結果になるのかもしれません。いずれにしても、2022年も暗号資産の世界は目が離せませんね。