漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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今回のテーマは「サブスクリプション」である。

サブスクことサブスクリプションとは、定額で一定のコンテンツが利用し放題になるサービスのことである。

月に数百円払うだけで、膨大な量の漫画や音楽、そして「口裂け女in L.A」などを楽しむことができる。

使う側としてはありがたいが、一体どうやって採算を取っているのか不思議である。

少なくとも「このトンネルを完成させるために何人もの作業員が死んだ」という逸話同様「サブスクが一般化するまで割と餓死者が出た」みたいな話が残ってなければおかしいのではないか。

これだけ安価で無限に楽しめるものがあるなら、昨今の若者が恋愛などという原始的娯楽から離れてしまうのも納得である。

サイゼリアデートでもミラノ風ドリアを2人前頼めば600円なのだ。

それで18時解散になった挙げ句、初デートでサイゼリアに連れて行く男だの、サイゼリアで喜ぶフリをする女だの、後でTwitterに文句を垂れられるぐらいなら500円で池脇千鶴の乳首を見た方が絶対コスパがいい。

「600円で半永久的に人間が戦争を繰り返す」と言う意味では、サイゼリアのコスパは異常である。

だが、それが娯楽かと言うとそうでもないし、むしろ微妙にイラついたまま終わるのがサイゼリア戦争だ。

だが、火で火傷を負ったり家を全焼させたりしたのを皮切りに、クレカで破産、ネットで廃人と、正しく使えば便利なもので破滅してきた我々人類である。

すでにサブスクに人生を蝕まれている者もいるだろう。

サブスクは安価である、ゆえにたくさん軽率に入りがちなのだ。

右で貞子と伽耶子、右でアバターとエイリアン、中央で五郎と豚汁定食が戦っている、サブスクエンジョイしすぎ勢であれば十分元は取れているとは思う。

しかし、全く使っていないサブスクに月額料金をただ寄付し続けている、敬虔なサブスク信者も多いのではないだろうか。

こういう人間は「解約できない病」を患っている。

解約できない病は入会するときと解約するときのケツの重さに2トンぐらいの差がある。

入るときは「初月無料だから月末に解約すればいい」とプリマドンナのように軽やかだが、解約するときはダイエットではなく手術を勧められるレベルの百貫デブになっているのだ。

そもそも解約できない病は「自分が何のサブスクに入っているか把握できていない」ケースが多い。

調べればすぐわかるとは思うが、多重債務者が借金総額を把握しようとしないように、多重サブスク者も、うっかり調べて「毎月こんなにサブスク代金を払っているのか」と愕然とするのが嫌であえて調べなくなったりするのである。

少なくとも「気乗りしない」ため、気乗りするまで3カ月ぐらい要し、その間に1万ぐらい浪費してしまうのだ。

サブスク解約できない病は「解約しなければ」と思いつつもwordleとかやっている間に月を跨ぎ、また料金を発生させてしまい「今解約するのは損だから、また月末に解約しよう」とwordleを開くと言う無限ループに陥りがちなのである。

よって「最初から入会しない」と言う選択肢を選ばない限り、永遠に運命から逃れられないのだ。

また解約できない病は自分の「面倒くさい」と言う感情に対する課金を惜しまないところがある。

コンテンツというのは基本的に、入会より退会の方が難しくされており、退会ページがわかりづらい場所にあるぐらいならまだ良い方で、中には入会はネットでできるのに、退会は電話でしか受け付けない、というコミュ症から永遠に会費を取り続ける気しかないルールのところもある。

すると、解約できない病は「こんな面倒なことをするなら500円払った方がマシ」という気持ちになるのだ。

むしろ500円で退会なる面倒なことをしなくて済むなら安いもんだ、という得した感まで感じ始めるのでますます退会しない。

だが、退会ページを探す以前にトップのIDとパスワード入力の時点で詰んでいる場合もある。

解約できない病はなぜか己の記憶力を過信しており、入会したときのIDやパスワードを記録しないのだ。

またその手のタイプはメールが常にパンパンなので、入会したときのメールが残っていることは稀である。

全て同じIDとパスワードで登録するという、そりゃ流出騒ぎがなくならんわという対策をおこなっている者も多いが、そういう人間にとって「大文字小文字数字を混ぜろ」というパスワード設定は鬼門である。

つまり、病たちに退会させず、永遠に小銭を搾取し続けようと思ったら、パスワード設定を複雑にする、そして「IDを相手に決めさせずこっちが勝手に決める」というのが大事である。

こちらで決めた場合は辛うじて覚えている可能性があるが、決められたものだと、それが記載されたメールを紛失すると全くわからないからだ。

むしろサブスクの主な収入源は、そういう病たちとも言われている。 もしサブスクを立ち上げるなら、できるだけ病が退会できないようにするのがコツである。