幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第92回は俳優の竜星涼さんについて。ただいま毎朝、視聴者を唖然失笑に巻き込むニーニー役として、朝ドラ『ちむどんどん』(NHK総合)に出演中の竜星さん。読みが「りゅうせいりょう」と、もう名前だけでスターの香りをふんだんに漂わせています。が、今回は彼の格好の良さではなく、振り切った演技が話題のニーニー役について突っ込んでみたいと思います。

  • 竜星涼

朝ドラ史上最強? のクズ男を演じる

さてまずは『ちむどんどん』のあらすじについて。今回の朝ドラ、やけに物語の展開が早いと感じるのは気のせいでしょうか? それとも私が老けてしまったのでしょうか……?

物語は1964年、沖縄本島北部やんばる地域を舞台にスタート。父親の早すぎる死や借金苦を超えて、比嘉家の次女・暢子(黒島結菜)は、一流のシェフを夢見て東京へ。仕事の辛さ、恋愛など20代らしい苦境を超えながら、いつか自分の店を持つことを夢見ている。長男・賢秀(竜星)は風来坊のまま、全国を渡り歩く日々。長女・良子(川口春奈)は結婚して一児をもうけたものの、嫁ぎ先の実家と折り合いが悪く、別居中。三女・歌子(上白石萌歌)は体の弱さから働くこともままならず、歌手になる夢だけを持ち続ける。そんな四人の子どもたちの行く末を見守る、母・優子(仲間由紀恵)。

物語のヒロインは暢子。でも視聴者が行く末を真剣に見守っているのは、ニーニーではないだろうか。というのも、竜星さん演じる比嘉家の長男は、本当に素行が悪い。学生生活を終えても働くことはなく「いつかビッグになる」とだけ言い張り、家でゴロゴロ。たまになにかをしたと思えば喧嘩をして、警察に捕まる始末だ。

とにかく「楽をして稼ごう」精神の塊で、詐欺にもひっかかり、妹の婚約先(結果的に婚約は解消)から金をくすねているクズっぷり。今までの朝ドラでも要領が悪い、意地悪くらいの役柄は登場することはあった。でもニーニーのようなエンドレスクズは、ドラマオタクの私にも記憶がない。

ニーニー役の余韻、次の役柄にも影響を及ぼすのでは

ニーニーの不行状は、沖縄から舞台を変えて東京でも続く。プロボクサーの志半ばで、ボクシングジムに借金をしたまま失踪。さらに「紅茶豆腐」なる詐欺まがい商品を販売して……騙される。で、また逃げるニーニー。行き着く先はいつも養豚場を経営する、親子のもとだ。ここの娘といつか結ばれるのだろうと読んでいるが、今のニーニーは勘違いばかりの恋の連続だ。仕事もなければ、彼女もいない。彼に残ったものは、幼少期に父親に頼み込んで買ってもらった、額に巻いたブルーのベルトのみ。このベルト、宇宙からのパワーが受けられるらしい。

彼の一連を見ていて、ふと思ったことがある。それはニーニーが現代でいうところの"ニート"であること。けして根っからの悪ではない。むしろ純粋なのに、世間の流れにどうしてもついていけない。現代でもSNSを通じて、ネットワークビジネスに引っかかるのは、ニーニーのようなタイプだ。悪魂は、昭和どころか太古の昔からいる。消えることもなく、彼らの心を襲ってくる。そんなことが、朝ドラから浮かんでくるとは思わなかった。竜星さん演じる、ニーニー、レアキャラである。

ドラマ開始から4カ月が経過したけれど、彼に改善の余地はない。むしろ私たちは「ニーニー、次は何をするんだろう」と期待をしている部分があるのは否めない。でもできるなら、彼が家庭を持って立派な"漢"になるまでは朝ドラが追ってほしい。そうでなければ竜星さんの躍動感万歳の振り切った演技が無駄になる。

さて、竜星さん。先日『あさイチ』(NHK総合)にゲスト出演していた様子を見かけた。声のトーンも低く、普通のイケメンであった。この数年で見かける回数が格段に増えている。趣味だというファッションの世界でも、頭角を表すようになっているのだから、ニーニーのような将来の心配はない。心配をするとしたら、次の役柄に今回の強烈なクズっぷりが影響しないかということだけである。どうかご無事で。