幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る“脇役=バイプレイヤー”にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第83回は俳優の勝地涼さんについて。現在『となりのチカラ』(テレビ朝日系)に友情出演中、『ドクターホワイト』(カンテレ・フジテレビ系)に出演する勝地さん。ウイルス蔓延でザワザワしがちな雰囲気をすっ飛ばすかのように、2作で活躍中です。正統派イケメンデビューを経て、最近ではすっかりこと新しい分野を確立されている勝地さんについて考えてみたいと思います。こんなに勝地さんさんのことを考えるのは、生まれて初めての体験でございます。

いるだけで「あ、ダメな奴」と思わせる存在感

  • 勝地涼

まずは勝地さんが出演する2作について、ざっくりとした役どころを。

『となりのチカラ』はゴーストライターの中越チカラ(松本潤)は、家族と一緒に引っ越したマンションでのご近所づきあいを通して生まれていく事件について描かれていく。チカラの前後左右の部屋は変わった人物だらけなのだ。勝地さんが演じているのは出版社社員の本間奏人。

今のところけして出演シーンは多くないけれど、現役の出版業界に身を置く立場からすると「あ……たまにいるよね……」というのが初見でした。インタビューや打ち合わせの真っ最中なのに、タブレットやスマホを操作している人。個人的な共感性はあったけれど、存在だけでやる気のなさを感じさせた演技はお見事。

一方『ドクターホワイト』でも一癖のある役。公園に倒れていた雪村百夜(浜辺美波)は一般常識を熟知していないのに、医療知識だけはプロが舌を巻くほど。彼女が搬送された先の高森総合病院を舞台に、白夜の正体を医療誌の記者・狩岡将貴(柄本佑)が少しずつ正体に迫っていく。その傍らで実妹の病状も悪化への道を辿ってしまうことに。このドラマ、主役を筆頭に髙橋文哉さん、岡崎紗絵さんと、若手のキャスティングがバランス良く旬揃い。それだけでも見る価値は十分ありそうだ。加えて、映画『99.9-刑事専門弁護士-』出演で話題の片桐仁さんも精神科医の役でいい味を出している。

勝地さんが『ドクターホワイト』で演じているのは皮膚科医の夏樹拓実。嫌味な性格でプレイボーイらしい……もうどハマりである。公式ホームページを見る限り、宣材写真の口端が片側だけ吊り上がっているので、イヤミな奴なのだろうと推測。終始、患者とトラブルになりそうな役なのだろうな……。

前髪クネ男のごとくクネって変わった方向性

勝地さんがすごいと思うのは、この2作でも感じられるように、ほんのワンシーンでも残り香をぷわ~んと香らせていくこと。これは彼が世間に知られるきっかけになった朝ドラ『あまちゃん』(NHK総合 2013年)の、前髪クネ男が大きく作用している。それまで正統派のいい男の俳優だったはずなのに、なにがあったのか急にコミカルな雰囲気な演技が増量。ここに本来の確実な演技力が加わって、大河ドラマにも3本出演する人気者に。先日の『志村けんとドリフの大爆笑物語』(フジテレビ系)で見せた、加藤茶役もよく似合っていた。

ただクネ男以前から各所で活躍していたはずなのに、あまり記憶に残っていない。「あ~……言われてみれば」と思い出す程度。造形美が整っているだけでも人生優勝なのに、ただいい男というだけでは視聴者のハートは射止められず。仕事とはなかなか難しいもので。

これがいい男枠からそっとズレて、慌てず、大騒ぎもせず、特殊なキャラクターをゆっくりと露出していくことで、今の勝地さんらしさがある。本意はもちろん、本人が知るのみであるけれど、貫くことは大事だと悟った。

あと向き不向きも同じく。本間奏人ではないけれど、あきらかに「あ、この仕事に向いていないんだな……」と分かる人がいる。でも仕事をする能力は高い。各々の事情により、就いてしまった仕事内容が向いていなかっただけ。軌道修正をして、適材適所におさまって活躍している人を何人も見ている。勝地さんの功績が全ての会社員のパターンに当てはまらないけど、うまくいかないことを嘆いているだけよりも、違う活路を見出すのは生きていくうえでの得策のはずだ。