幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第82回はタレントの濱田マリさんについて。現在『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)に出演中の濱田さん。元来、モンスター視聴率と人気を誇る朝ドラではありますが、今回は三人のヒロインが主演することなど話題性もざっくざく。毎朝、共感と涙の嵐に包まれている人も多いと思いますが、私もその一人です。喜怒哀楽ひしめく『カムカム』、そこにいるだけで安堵感を覚える女優さんがいらっしゃいました。

クリーニング店の夫婦、大阪が舞台なだけに新喜劇のよう

  • 濱田マリ

毎朝放送ということで、あらすじのペースが陸上先週のウサイン・セント・レオ・ボルト並みの『カムカム』。ここでは濱田さんは物語へどんな立ち位置でいらっしゃるのかを簡単に……。

濱田さん演じる竹村和子は、夫婦でクリーニング店を営む陽気な女性。ひょんなことから出会った雉真るい(深津絵里)を店の従業員として雇い、同居をしている。夫婦には子どもがいなかったため、るいを我が子のように可愛がって、第二の親のような存在に。登場するなり、大きな目をグイッと光らせて、夫役の村田雄浩さんと漫才のような掛け合いを見せた濱田さん。その姿は舞台である大阪らしく、新喜劇のよう。それまでるいが生家である雉真家で、ひたすら我慢を強いられて生きていただけに、竹村夫妻に出会ったことでホッとする視聴者。

何が面白かったかといえば、甲斐甲斐しいほどのるいへのお節介ぶり。「若い子は遊ばなあかん!」と、欲のないるいを家から追い出して青春を味合わせようとするのだ。そんな毅然として親らしい態度を取ったかと思えば、るいの恋愛事情には敏感で、クリーニング店にやってくる男性たちとの関係性を瞬間で推察。なんとかカップル成立させようとする様子はお見合いおばさんか、歩く女性週刊誌。物語の救世主であったことは間違いない。

そしてるいは大月錠一郎(オダギリジョー)と結婚、東京へ行く。ついに和子の努力が実ったわけだが、クリーニング店の経営を気にするるいに向かって

「そない、いつまでもおられても困るわ」

この一言は泣けた。愛情とは愛と優しさに慈しみに溢れた言葉や態度だけではないのだ。

濱田さんがまたステージで歌う日を心待ちに……

すでに世間ではコミカルな女優さんとして名を馳せている濱田さん。しかしながら彼女、ミュージシャンとしてデビューを飾っていることを皆知っているだろうか。バンド名は『モダンチョキチョキズ』で担当はボーカル。私も曲は覚えていないけれど、当時はインパクトのあったバンド名で存在だけは覚えている。もちろん濱田さんのことも。

そこからあれよあれよと言う間に演技の頭角を表して、名バイプレイヤーとして数々の作品に出演している。よく覚えているのは『アンフェア』(フジテレビ系・2006年)の蓮見杏奈役。主役の友人のフリをしながら実は裏切っていたこと、いつもパソコンの前にいてひたすら解析をしていたことを思い出す。そう、昨今で見せているコミカルな様子はなく、そこにいたのはただの女優。「(『モダンチョキチョキズ』の人、やっぱりキレイだなあ)」と思っていた程度。

それが最近になって自我に目覚めたのか、関西弁でチャキチャキとお話しする姿が私たちの所感に触れて、記憶に残り和子さんへと戻るわけだ。るいは家を出てしまったけれど、時折里帰りをするのは竹村家。そのたびに和子さんは得意のおいしい料理を作って待っている。

そんな濱田さんを回想していたら近所の八百屋のおばさんを思い出した。いつも素っ頓狂に高い声で「いらっしゃいませ〜」と迎えてくれるおばさん。コロナ禍となり、東京の感染者数が増えた時に、怖いですねえと話しかけた。

「ねえ! でもさ、コロナってどこにいると思う? おばさんの周り、全然(感染者が)いないんだけど、あれ嘘なんじゃないかしら~ってね」

と、笑い飛ばしていた。その姿が濱田さんとシンクロ。これからも年齢に合わせたたくさんの役を消化していくと思うけれど、お節介でおしゃべりなイメージは未来永劫であってほしい。