幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第63回は、ドラマ『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(以下ボス恋)(TBS系)に出演する玉森裕太さん(Kis-My-Ft2)について。番組も全面的に推すように"子犬系男子"として、世間の女子に騒がれています。コロナ禍で殺伐としたご時世のせいでしょうか。去年くらいから子犬系男子のブームは感じているし、個人的にも大好きです。でも易々とハマる俳優さんは少ないんだよなー……と思っていたら、玉森さんは期待値を軽々と超えてきた模様です。

ふわパーマ、天然、余裕あり。子犬条件は出そろった

まずは『ボス恋』のあらすじを。

女性ファッション雑誌『MIYAVI』の雑用係として働く鈴木奈未(上白石萌音)。仕事も恋愛もほどほどの生活を望んでいたのに、どS&やり手の編集長・宝来麗子(菜々緒)の元、朝から晩まで編集部にこき使われる日々だ。そんな日々の中で偶然出会ったのは、カメラマンの宝来潤之助(玉森裕太)。編集長の弟でもある彼に恋心が芽生えていく奈未の行方は?

舞台が女性ファッション雑誌ということで、元・出版社の編集部員としてはどうしても注目してしまう。「え、編集作業の順番が違うよね?」とツッコミどころはあるけれど、そこは置いておくとしてやっぱり冬のラブストーリーはいい。そして絶妙な存在感で物語を盛り上げているのは、王子様の存在だ。

玉森さんは、このドラマでカメラマンの潤之助でヒロインの王子様を演じている。"資産家の跡取り息子"という設定がうまく作用しているのか、雰囲気に余裕がある。さらに、優しさとほんわかムードも醸し出している潤之助。そしていい感じに天然……と昨今のモテ要素をクリアしている。

白い肌に子犬系男子の条件とも言えるふわパーマの潤之助。ロングコートが多めの可愛い系スタイリングも、玉森さんはよく似合っている。僭越ながら、ご本人もセンスがいいのだろう。私にファッションセンスはないけれど、写真集の編集も仕事の一部なので「あ、この人は何を着せても似合う!」という審美眼だけはあるつもりだ。その経験から彼は色々着せたくなってくるビジュアルだと、今回の役で初めて知った。あ、遅い……ですね……すみません。

"カワイイ"を作った、奇跡の三十路男子

潤之助褒めはまだ続く。

第3話でも年上のお姉さん軍が王子様にひれ伏すシーンが連発していた。写真展を開催した潤之助は、奈未に来て欲しいとポストイットにメッセージを書く。そこには

「この時間に来てくれるとうれしい」

と自分の在廊時間が書かれていた。ポストイットという小道具もいいけれど、こんなことが書かれていたら、こっちが尻尾を振って写真展に行く、お花も出す。さらにエンディングでは

「どうしよう」

と一言漏らした後、奈未を抱きしめている。頼むから「どうしよう」の向こうに隠れている真意を聞かせてほしい……と思っていたら、第四話ではまんまとキスを終えた二人。ちなみにこの回で、潤之助のグレーのコートのフードをかぶってうずくまって雨に濡れているシーンは、捨てられた子犬でしかなかった。(静かに感動)。

そんな完璧なまでの王子様ぶりを発揮している玉森さん。彼の演技を記憶しているのは『グランメゾン東京』(2019年)の平古祥平役ではなく、『ぴんとこな』(2013年・ともにTBS系)の河村恭之助役なのだ。当時、あれこれと世間から嫌味を言われていたのは知っているけれど、そんなことは特に関係なく楽しんでいた。木曜21時放送という実験的な時間帯にも注目していたし、歌舞伎という伝統芸能を1クールで見せようとする無茶ぶりもジャニーズらしくていいなあと。何よりイケメンだらけの出演で、下心は完全に満たされていた。

あれから時間を経て『ボス恋』にたどり着いたわけだが、驚いたのは玉森さんの見た目は、今の方が若くてかわいい。8年前の毛先が遊んでいて、眉毛が釣り上がった状態よりも、現在の方が子犬だ。

ネットで調べた限りだけど、彼はたくさんの仕事で経験を重ねて、足るを知ったんだろうなあと思う。どんな仕事でもそうだけど、求められたニーズに対して応えることは必要。未熟さはそれらを邪魔してしまうことがあるけれど、色々な時間を経て、未熟が余裕に変わる。その成長をうまく吸収できる人、できない人で二分されるけれど、おそらく彼は前者だったのでは?

玉森さんが"子犬系ニーズ"に応えた後、どんな変遷を重ねていくのかは未知数だけど、アラサー新王子がドラマ界に誕生した喜びを分かち合いたく、この原稿を書いた。今年の冬は寒いうえに、一人で過ごすことを求められているので、潤之助には引き続きドラマで温めていただきたい。