幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第46回は女優の水野美紀さんについて。現在『浦安鉄筋家族』(テレビ東京系)に出演中の水野さん。読み進めてもらう前に宣言しておくと、私は非常に水野さんのファンです。今ドラマを見ている人たちにとっては、母親役のきれいな女優さんというイメージだといます。けしてそれは間違いではないけれど、その存在感には歴史があるのです。私の記憶の限りで、その記憶を紐解いていきます。おそらく読後は動画検索をしたくなるはず。

「チューして」のひと言で世の男性をラビリンスへ

水野美紀

大沢木一家が住んでいるのは東京都内から限りなく近い、千葉県浦安市。この時代に真っ向から逆らうかのようなヘビースモーカーで、タクシー運転手の父・大鉄(佐藤二朗)を中心に、日々事件が家族に巻き起こる。

と、いうのが『浦安鉄筋家族』のだいたいのあらすじ。いや、このドラマに関しては"考えるな、感じろ"という視点で楽しんでほしい。物語の展開がどうとか当たり前のことはこの作品に封じ込まれていないのだ。ただそこにあるのはめくるめくおバカな世界。なんだろう、お化け屋敷ならぬ"浦安鉄筋家族屋敷"とでも言うのだろうか。深夜ドラマとは思えないほどの豪華な出演者、それからゲストが奇想天外の演出で、しかも秒単位の切り替わりで笑わせてくれる。とにかく一度観て欲しい。自粛が続く毎日をふっと忘れさせてくれる作用があるから。

この作品で水野さんが演じているのは大鉄の妻・順子。昨今の水野さんの働きぶりは半端ない。『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』(フジテレビ系・2019年)、朝ドラ『スカーレット』(2019年~20年)、『ミストレス~女たちの秘密~』(ともにNHK総合・2019年)と露出が絶えない。名実ともに日本の大女優だ。

でも私がふと思い出す水野さんといえば1992年に放映された『コーセールシェリ』のCM。共演の唐沢寿明さんに

「ねえ、チューして」

とねだり、本当にキスされてしまった話がある。そこで10代の純粋な水野さんが驚いて泣いてしまったというエピソードを雑誌で読んだ。ただそのCMを初めて見たときは

「なんて可愛い子がいるのか……」

と、思春期へ突入しようとしていた私の心は掴まれてしまった。続けて、レアなことを知っている自慢になりそうだけど、彼女が『愛ラブSMAP!』(テレビ東京系・1991年)の『好きなのに』という学園ミニラブストーリーを演じていたこともまだ覚えている。他にも新人女優は出演していたけれど、ずば抜けて可愛かったのは水野さんだった。触れただけで壊れそうな、白い陶器のような雰囲気がそこにあった。

自分らしさの打ち出しが女性ファンに響く

そして名作『踊る大捜査線』(フジテレビ系・1997年)シリーズに、清純な雪乃役として出演。10代から続く大人しくて、可愛らしい品格はそのまま継続されていた。確かこの出演を終えたあたりから、水野さんは独立をしたらしい。そしてそれまでのイメージを覆すように、派手なアクションシーンや、激しい役を演じるようになっている。

確か雑誌『FRaU』のグラビアで鍛えた背中を見せたのも、この頃だろうか。まだ女優さんは努力をせず、美しいことが美徳とされているような風潮が残る中、ガッチガチに鍛えているという発言は驚いた。

自分も大人になった今ならわかるけれど、独立することで、自我に目覚めたのだと思う。幻想的な美しさを漂わせていた彼女も良かったけれど、美しさに骨太さを加えてきた彼女はさらに良い。とても良い。今でこそ、芸能界でも自分に嘘をつかない、振り切った姿勢は称賛される。水野さんはその先駆者だったのだと改めて思う。

これからも彼女の演技をたくさん見ることになる。その度に、昔の可憐さを反芻しながら"今"を短距離走のように駆け巡る姿に惚れ惚れするんだろうな。