エンタメライターのスナイパー小林が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第25回はタレントの片瀬那奈さんについて。春ドラマ『白衣の戦士!』(日本テレビ系)では看護師の主任役。しっかり者のはずが、実は医師と不倫関係にあるという設定が印象的でした。全体的に映画よりもドラマ、お茶の間で……とはもう古いですね。リビングで私たちを楽しませてくれる、那奈姐さん。現在のポジションにたどり着くまで、彼女が辿ってきた変遷を改めて。

『きれいなおねえさん』にキャンギャルの王道路線

片瀬那奈

"片瀬那奈"と言われたら、平成生まれ世代にとっては「よくドラマに出ているきれいだけどイタい役の人」「日曜日の朝、中山秀征と司会をしている人」。こんなイメージがすでに定着している。それは全く間違っていない。でも彼女についてサラッと調べただけでも、今の片瀬さんのイメージを覆す歴史が浮上してくる。

実は彼女1998年の「旭化成水着キャンペーンモデル」出身。大物女優、タレントの登竜門でデビューを飾っている。その後女性ファッション雑誌『JJ』の専属モデル、2001年には全国の男性を虜にしたパナソニックのCMキャラクター「きれいなおねえさん」に起用された。あの美しさとスタイルを武器に王道路線を突き進んでいたのである。

所属事務所は大手と呼ばれる「研音」だ。きっと逸材と言われて、大女優になるべく大事に育成していたはず。もしくはこれでスポーツ選手と結婚でもしていれば、一般的には完璧な人生だったかもしれないのに。

大きな瞳をグッと見開く演技

うっすらとした私の記憶だと『暴れん坊ママ』(フジテレビ系・2007年)で、旦那に浮気をされている主婦役を演じた前後から、片瀬さんは変わった気がする。自我に目覚めたのか、それともキャラクターを模索していたのか「きれいなおねえさん」は行方不明になった。

正直に言うと、当時の片瀬さんのことはあまり好きではなかった。サッカー好きを公言してスポーツ番組でそれらしいことをコメント。家電好きであることも披露していた。そう、デビュー直後のお笑い芸人のごとく、前のめり精神が露出しすぎていて

「この人何がしたいんだろう?」

と疑問だった。それでもバラエティー番組や、大好きなドラマにはどんどん進出してくる。美人の振り切ったギャグはどんどんリビングでテレビを見る家族に浸透していった。

上から目線のことが続いて申し訳ないが、嫌悪感を抱いていた片瀬さんのことが好きになった役がある。それが『ショムニ2013』(フジテレビ系 2013年)の壇上みき役だ。キャリアウーマンなのに、婚期を逃した淋しき独身女性を演じた片瀬さん。今、ドラマで演じることが多くなった彼女にしかできない女性だ。

「これは、これは、ショムニのみなさん。おそろいでどちらへ?」

社内でショムニとすれ違うときの名セリフだ。ここに思い切った高飛車感を混ぜて放つのが絶妙。当時のドラマに感じていた、小さな物足りなさが消えたような感触……!

「おだまりっ!」

こんなセリフが本気で似合う女優もそんなに数多く存在するわけではない。さらにここでは、片瀬さんといえば……の、大きな目を見開いて迫ってくる演技も登場。美貌を惜しげもなく使っている様子は気持ちがいい。以来、片瀬さんの出演するドラマはじっくりと見るようになった。

そして改めて彼女から"不屈の精神"という言葉が浮かんだ。きっと私が片瀬那奈という存在に「?」と思っていた頃は、いろいろ迷っていたはずだ。美しさを担保したままでいたら、別の道もあったかもしれない。でもそこを選ばずに、敢えて皆が進まない道を選んでいる。昔、ジャニーズ事務所で新しいジャンルを打ち立てた、風間俊介さんについてマイナビニュースさんで書かせてもらったことがある。周囲がアイドル路線をぶっちぎる中で、彼は一人、俳優業を確立させたすごいタレントなのである。それと同じ匂いが片瀬さんには漂っている。

面白く演じて、しゃべれて、仕切ることもできる。そんな才能を“不屈の精神”で蓄えた彼女の次作を心待ちにしている。

スナイパー小林

ライター。取材モノから脚本まで書くことなら何でも好きで、ついでに編集者。出版社2社(ぶんか社、講談社『TOKYO★1週間』)を経て現在はフリーランス。"ドラマヲタ"が高じてエンタメコラムを各所で更新しながら年間10冊くらい単行本も制作。静岡県浜松市出身。正々堂々の独身。