幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る“脇役=バイプレイヤー”にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第115回は俳優の濱田龍臣(はまだ まさおみ)さんについて。ドラマ『怪物くん』(日本テレビ系 2010年)で、ヒャーヒャーと泣いていたはずなのに……時は流れて、龍臣くんは立派な青年に。親戚のおばさん風に、彼の演技を回顧してみたいと思います。

  • 濱田龍臣

山中で万太郎と出会った少年が、我が息子へ

現在、濱田さんが出演している朝ドラ『らんまん』(NHK総合)も、半年間の放送期間を経て最終回へ。

時代は明治から大正にかけて。植物を心底愛する、植物学者の槙野万太郎(神木隆之介)。故郷の高知県を離れ、東京大学で植物を研究する傍ら、植物図鑑を自ら刊行。良き伴侶と家族に恵まれ、地位よりもひとりの植物学者であることを人生で全うする。

朝ドラには人を立ち止まらせる効果があると思う。ノンフィクションだった場合の主役の人選。相当に歴史好きでない限り、知らないまま終わってしまうような人物を見つけて、生涯をドラマで追う。そしていつの間にか私たちは主役の人生の参加者になっている。 『らんまん』もそうだった。植物は花屋か、自宅の観葉植物くらいしか縁がなかった。でも万太郎を見ているうちに、その辺の植物が気になるようになって、つい道端で立ち止まっていた。そして思う、「この子は、なんていう名前だろう」。どれもこれも万太郎の影響だ。植物を「子」と呼び、話しかける。そんなことをするのは、他に青山テルマくらい(『恋におちたら』より)だと思っていたけど……誰にでもできるようだ。

万太郎のように何かを好きだという気持ちは強く、影響力は大きい。改めて思った朝ドラだった。現在、日本経済を潤わせている"推し文化"の象徴だ。

そんな『らんまん』で濱田さんが演じているのは山元虎鉄役。万太郎を崇拝して、同郷の高知県から助手希望で上京をしてきた。コテツ。名前の五音は可愛いけれど、ご本人は相当たくましい青年である。彼と万太郎の出会いがドラマティックでとても素晴らしかった。

子役から子役へと繋がった、役柄のバトン

万太郎が高知県に植物採取へ。その際に山中で出会ったが、虎鉄。少年期を演じていたのは、子役の寺田心くんだ。完璧な品行方正ぶりに、日本全国のお父さん、お母さんたちが「心くんのように育てたい」とどれだけ思っただろう。そんな心くんも現在、15歳。声変わりをする成長期だった。彼も植物が好きだという雰囲気が、とてもよく似合っていた。

そんな虎鉄が東京に現れると、青年期を演じていたのが濱田さん。彼も幼少期から子役として活躍。そして万太郎を演じた神木隆之介さんも、子役期から一線に居続ける存在。つまり子役同士が繋いだバトンが『らんまん』では展開されていた。ああ、こういう演出は朝ドラならではなんだろうと、しみじみ。

ちなみに虎鉄は万太郎の娘である、千歳(遠藤さくら)と結婚をした。その様子を見ながら「よその子の家の成長は早いというけれど……」と、私の中の親戚のおばちゃんが顔を出す。

濱田さんが『怪物くん』を経て、『表参道高校合唱部!』(2015年)や『花のち晴れ~花男 Next Season~』(ともにTBS系 2018年)で、高校生役を演じていたのは記憶がある。特に後者での、平海斗役はメガネをかけた、冷静かつ頭脳派の役柄でインパクトがあった。「ああ、あの子。まだ続けているんだなあ」。そんなふうに思っていたのは、ほんの数年前なのに気づけば花婿。日本の古き良き制度を役柄で忠実に辿っている。

きっと子役から現在まで芸能界に籍を置き続けるというのは、途中、迷いがなかったわけではないはず。でもそんな様子も見せずに、真っ直ぐ成長しているのは見ているだけで嬉しい限り。しかも最近の様子を見ていると、身長も大きく、横幅もある、まるで大谷選手のような、どっしりとした体型。日本人の俳優には少ないと言われる、スクリーンで映えるスタイルだ。青年から次は中年へ。次回はどんな(勝手に)甥っ子が見られるのか、きっと日本中の視聴者が待っている。