幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第103回は女優の田辺桃子さんについて。現在『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系)に出演中の田辺さん。ずっと、ずっと彼女のことは気になっていたんですよ。毎クールどこかのドラマに必ず登場してくるし、存在にインパクトがある。彫りの深い顔立ちで、パーツの一つ一つが濃いけれど、けして古臭い印象を与えないのです。何よりも見かける作品でほぼ物語をこじらせている役というのも、また興味心を突かれます。名前を読んで「え? 誰? 」と思ったら、即ググってください。絶対に見たことのあるお顔です。

どうかセイラもハッピーエンドでありますように

  • 田辺桃子

まずは今夜最終回を迎える『夕暮れに、手をつなぐ』のあらすじを。

幼い頃、母親に捨てられて、最近では婚約破棄をされて……と人生落ち気味だった、浅葱空豆(広瀬すず)。辛かった日々にファッションという光明が差す。売れっ子デザイナーの母親とともに、パリへ行くことになったのだ。でも空豆には心残りがある。一時期は同居していた海野音(永瀬廉/King & Prince)への恋する気持ち。きっと音も同じ気持ちなのに、もうじき離れ離れに。

脚本は恋愛ドラマの名士と言われた北川悦吏子氏。放送当初は「ロンバケやラブジェネに設定が似ているとか「広瀬すずの方言に無理がある」など、あれやこれや思わぬ揶揄が世間に飛んでいた。これらを私は傍観していた。ここはいい子ぶるけれど、100%、完全無欠のテレビドラマなんぞ、存在するわけはないから。

そして最終回を迎える今夜だからこそ言えるけれど、やはり昭和生まれ、平成育ち世代からすると、北川氏の脚本は面白さに抗うことはできなかった。そう、彼女が手がけるドラマは、大人になっても楽しめる永遠の『りぼん(漫画雑誌)』、もしくは『別冊マーガレット』。記憶の遥か彼方に点在する乙女心を点火させて、「ああ、今好きって言えよ!」とテレビに向かって独り言をつぶやきながら観て、ハマってしまった。今夜は絶対にハッピーエンドでお願いします。

さてこの作品で田辺さんが演じているのは、菅野セイラ役。音と偶然出会い、歌唱力を認められて、ユニットを組んで、空豆のデザインした衣装でデビューすることになった。それまでリストカットをするような闇を抱えていた生活のセイラ。二人の存在は救いの手を差し伸べるかのようだった。そして彼女は恐らく、空豆のことが好き(第8話より)。このどうにもならない思いが、空豆と音を遠ざけてしまう。

そう、また田辺さんはドラマでこじらせている。

"次世代こじらせ役が似合う女優"の誕生を確信

彼女の演技を認識したのは『リコカツ』(TBS系・2021年)の一ノ瀬純役。放送当時、女性視聴者の間で一世風靡をした"筑前煮女"である。自衛隊という精錬(であるはず)な職業でありながら、妻帯者に恋する役。主役夫婦の仲をいい感じにこじらせていた。その様子を観ていて『東京ラブストーリー』(フジテレビ系・1991年)の関口さとみを彷彿したのは私だけだろうか。男をどうにかしたいなら、煮物を持って参上をする。純は筑前煮、さとみはおでん。女性視聴者の敵となるかもしれないポジションに、田辺さんは座ろうとしていた。

『受付のジョー』(日本テレビ系・2022年)の家田仁子役は、派遣社員と正社員という立場にジレンマを抱き、自信を持てず、職場をこじらせる。ついでに主人公の城拓海(神宮寺勇太/King & Prince)のことも好きなのに、素直になれず……という一幕があった。そして今回の『夕暮れに、手をつなぐ』では、不本意ながらも、恋するふたりを邪魔してしまう。

一連を思い出しながら、次世代こじらせ役が似合う女優の誕生だと確信をした。このポジションは難解なのである。嫌味になりすぎると存在ごと吹っ飛んでしまうし、中途半端な美人では務まらない。圧倒美に加えて、現代に似合う洒落感も欲しい。ついでにこんなふうに自分を批評されても、どこ吹く風とばかりに進む精神的な強さだって欲しいのだ。一筋縄で務まるものではない。

個人的にこの座には間宮祥太朗さんが鎮座していた。恋の当て馬役をやらせたら右に出る者なし、のはずだった。ただ今回のセイラ役を経て、田辺さんが新しい風を吹かせそうな気がしている。まだ23歳。どんな演技の変遷を重ねていくのか、ドラマを通して見守りたい。