悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、集中力を上げて維持できるようになりたいと悩んでいる人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「すぐに飽きてしまいます。集中力を維持するコツを教えてください」(44歳男性/建築・土木関連技術職)

  • 集中力を維持するコツは?


少し前のことですが、朝日新聞に掲載されていた音楽家・坂本龍一さんのインタビューに、とても興味深いことが書いてありました。

飽きっぽい性格なので、なにかを始めてもすぐ他のことをやりたくなってしまうというのです。いままで出してきたアルバムに一貫性がないのは、そのせいなのだと。

たしかに坂本さんの作品は、毎回スタイルが違っています。けれど、どんなスタイルであろうとも、必ず超一流の完成度を保っている。そこがすごいのですが、一貫性はないものの、常に「これは簡単には放り出せない」という覚悟で臨んでいるのだとか。だからこそ、クオリティを保てるということなのでしょう。

いずれにせよ、世界の坂本龍一さんだって飽きっぽいのです。もちろん彼は天才ではありますが、それをさておいても、ここには本質的な答えが隠されているように思えます。

たとえ飽きっぽくても、「これは簡単には放り出せない」という意識があればなんとかなるということ。少なくとも、飽きっぽい性格を卑下する必要はないのです。

まずはそれが、最初にお伝えしたかったこと。そして、その点を踏まえたうえで、ここから先は「いかにして集中力を高めるか」についても考えてみたいと思います。

「飽きっぽくてもかまわない」というのに矛盾していると思えるかもしれませんが、集中力を高められるのなら、それに越したことはないですからね。つまり(1)飽きっぽい自分を否定しない、(2)できる限り集中力を高める努力をする、この2方向から臨めば、いま以上の力を出せるのではないでしょうか?

「前のめり」が集中のカギ

『やりたくないことを最速で終わらせる 東大集中力』(西岡壱誠 著、大和書房)の著者は、東京大学経済学部4年生(本書執筆時)。マンガ「ドラゴン桜2」(講談社)コンテンツ統括理事長兼東大生チーム「東龍門」リーダーを務めるなど、多方面で活躍しているという人物です。

ところが子どものころは継続と集中が苦手で、高校2年生3月時点で偏差値は35。勉強の習慣もなく、集中して勉強しようとしても、15分もすれば「疲れた! 休みたい!」となってしまう人間だったというのです。

しかし浪人時代に、優秀な東大生に共通した「集中の秘密」があることに気づき、そのとき身につけた「東大式集中テクニック」によって無理なく集中を続けた結果、東大模試4位になって東大に合格できたのだそうです。そして、そんな経験を経てきたからこそ、訴えたいことがあるのだといいます。

多くの方が、「好きになれなきゃ集中できない」と勘違いしています。そんなことはありません。実は、好きになれなくても、嫌いなことでも、集中するための方法があるのです。何を隠そう、それこそが「前のめり」。「前のめり」になることでこそ、集中力が持続するのです。(35ページより)

  • 『やりたくないことを最速で終わらせる 東大集中力』(西岡壱誠 著、大和書房)

「前のめり」とは、誰に言われたわけでもないのに、強い興味を持ったときに誰もが少しでも対象と距離を近づけようとする反応。なにかに興味を持ったとき、知らず知らずのうちに前のめりになっていることは誰にでもあるはずです。

つまり、前のめりな状態=自然に能動的になっている状態を持続させることが重要だという考え方。ちなみに「前のめりな集中」をするために必要なことが3つあるそうです。

最初は「目標の明確化」。まず、「なにに対して」前のめりになるかを決めるべきだということ。2つ目は「モチベーションの維持」。「前のめり」になり続けるためには、「前のめり」の姿勢を保つようにしなければならないわけです。

そして3つ目は「チェック」。「自分はどういうときに集中できるタイプなのか?」「集中するためには、どう自分の行動を修正すればいいのか?」などをチェックすることで、集中力がぐっと増すというのです。

これら3つを実現するためのテクニックもわかりやすく解説されているので、本書を活用してみる価値はありそうです。

脳を正しく使うには?

次にご紹介するのは、『頭がいい人の脳の使い方』(小田全宏 著、あさ出版)。タイトルからもわかるとおり、脳を正しく使うコツを明かした書籍です。注目すべきは、「『脳力』の効果は集中で変わる」という章が設けられている点。

たとえば「ゴール」に対する考え方は、飽きっぽい人が集中を持続するために有効かもしれません。なにかに取り組もうとしているなら、達成できた瞬間、つまり「その時間が終わったとき」に、どれだけ素晴らしい結果を生み出しているのかを、脳内ではっきりイメージしてから開始するといいというのです。

自分の行動が最終的にどうなり、実現した時にどのように喜んでいるかを思い描いてから始めると、そこに至るプロセスが楽しくなります。(134ページより)

  • 『FOCUS(フォーカス) 集中力』(ダニエル・ゴールマン 著、土屋京子 訳、日経ビジネス人文庫)

すると脳も「快」を得ることができるため、より力を発揮するということ。些細なことかもしれませんが、たしかに好循環を生み出すことができそうです。

「集中力」は鍛えられる

集中力は、自己への集中、他者への集中、外界への集中、の三つに分類できる。よりよく生きるためには、三つの集中すべてに熟達することが必要だ。さいわいなことに、神経科学の研究や学校現場からは、注意力を向上させることは訓練によって可能である、という報告がある。注意力は筋肉とよく似ていて、あまり使わなければ退化し、鍛えれば向上する。(12~13ページより)

『FOCUS(フォーカス) 集中力』(ダニエル・ゴールマン 著、土屋京子 訳、日経ビジネス人文庫)の著者は、このように主張しています。1984年から「ニューヨーク・タイムズ」紙でおもに行動心理学について寄稿しているという人物。

ハーバード大学大学院で心理学の博士号を取得し、ハーバード大学で教鞭をとったのち、「サイコロジー・トゥデー」誌のシニア・エディターを9年間務めたという実績も持っています。

三タイプの集中力は、リーダーのみならず、すべての人間にとって有益な能力だ。わたしたちは誰もが環境問題と直面し、現代生活の緊張や競争や誘惑だらけの環境に生きている。三つのタイプの集中力を活用してバランスのとれた生き方をすれば、幸福で充実した毎日を送ることができるだろう。(13ページより)

  • 『頭がいい人の脳の使い方』(小田全宏 著、あさ出版)

ビジネスの現場はもとより人間関係においても、成功する人に共通しているのは良質な「集中力」であると著者。しかも上記の記述からもわかるとおり、集中力は筋肉のように鍛えられるものだというのです。

つまりは生まれ持った能力ではないわけで、そう考えると"集中力を鍛える"という作業に対するモチベーションも高まっていくのではないでしょうか?

そうやってポジティブに考えてみれば、飽きっぽいという悩みも、心がけ次第では柔軟に解決できるものなのかもしれません。

印南敦史

作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)ほか著書多数。4月8日発売の最新刊は、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)。