その時代や会社によって運賃のシステムは異なる

「航空会社はどのような方法で運賃を決めているのか」という質問をよくされる。「いろいろ要素があって一言で言うのは難しいです」と答えるしかないのだが、そのやり方には各社各様の事情と工夫がある。これらの歴史と経緯を少しひもといてみることで、国内航空運賃の変遷と現状について解説しよう。

古き良き(?)規制の時代は「一物一価」

そもそも、航空運賃のありさまが様変わりしたのは2000年のことだ。それまでは航空運賃は厳しい規制のもとにあり、航空会社が運賃を値上げするには公聴会など政府認可の手続きが大変な大作業であった。

そして、国内運賃は政府が妥当と審査した航空会社コストに適正利潤を上乗せした額にするという「標準原価方式」によって決められていた。この結果、各社の運賃は横並びとなり、競争が起こるのは旅行会社向けパッケージ運賃や団体値引きなど、ごく限られた分野だけだったのである。

このような環境下では航空会社の工夫による増収余地は少ない。同じような距離の路線であれば需要の大きい路線だろうが小さい路線だろうが課すことのできる運賃は同じなので、路線需要の優劣の差がそのまま収入の差となる。ドル箱路線を先に押さえた方が勝ち、多くの便を貼った方が勝ちというわけである。従って、大手各社は運輸省幹部や地元代議士に日参し、政治力に勝負をかける時代だったのだ。

理論上、各路線にはそのマーケットなりの"需給曲線"が存在するはずだが、価格弾性値の低い(多少高くても売れる)ビジネス路線にもっと高い価格を設定することもできず、逆に「安ければ旅行でもするか」という路線に安い運賃を設定することも国交省に認めてもらえず(普通運賃で買った旅客からの文句を避ける意味もあった)、商品価格の決め方に大きなタガをはめられた中でのビジネスだった訳である。

2000年、ついに航空運賃自由化へ

そんな中、1996年の幅運賃制度により運賃・制度規制に変化が始まった。1998~1999年には、新規航空会社認可・路線免許制の廃止という自由化にかじを切った大きな行政方針の変更があり、2000年には航空運賃が認可制から届け出制に変更された。

この実質的な運賃自由化を皮切りに各社は多様な運賃(もっぱら割引運賃)を設定できるようになり、収入最大化に向けた工夫やシステム化が進み、需要に合わせて販売する「レベニューマネジメント」の重要さがクローズアップされるようになっていくのだ。

これ以降の運賃は、「制度上の工夫」と「運賃額の工夫」によって決められていく。早く買えば安い、まとめ買いが安い(回数券)、誕生日割引など、新しいルールによる割引や特定便指定の割引価格の設定などだ。

だが当初は、これまでの普通運賃からの割引額における"値ごろ感"をベースに決められていた。運賃を決めるには、その額設定が正しいのか、また、もっと安い・高い方がいいのかを見極める必要があるが、当時は割引運賃を行った事例そのものがないのだから、判断するためのデータもない。運賃担当者は固定運賃時代の月別・曜日別の利用率実績と長年の勘をもとに、手探りで割引運賃を設定し始めたのだ。

JALは「早割」、ANAは「特割」と、それぞれ事前購入割引を設定

これ以降の割引運賃の主戦場は、「早割(JAL)」「特割(ANA)」という特定便の事前購入割引になる。前日までに購入すれば安くなる(便の変更は不可)というシンプルなルールだが、航空会社の予約の埋まり方は季節、月、特定連休、曜日によって変動するので、きめ細かい運賃コントロールができ、使い勝手がいい。

この事前購入割引以外の制度的割引は、自社の旅客志向のサービス精神を示す効果はあるものの、おしなべて年間平均して発生してしまう。例えば、繁忙期であっても誕生日の人を割り引かない訳にはいかないなどの弊害も想定される。そのため、需要に応じた調整ができずエアラインの収益性を向上させるには使いづらいのだ。

割引運賃を設定する究極の目的は?

多くの割引運賃の種類や活用方法は別の分析に任せるとして、今度はエアラインが運賃を決める視点と目的について考えてみよう。

昔は「イールドマネジメント」という言葉に見られるような「旅客単価をどう上げるか」という点が重視された時もあった。小売業においては、いかにひとりでも多くの客に多くの商品(高い商品)を買わせるかが勝負を分けるが、運賃規制時代の航空ではそもそも一物一価だったのでこのような改善余地が少なく、せいぜい代理店向けの卸値の安い席をどうコントロールするか程度の問題であった。

しかし、運賃自由化後は多様な商品設定が可能になり、単価勝負とは違うところで担当者ひいては会社の力量が試されるようになる。ひいては会社の力量が試されるようになる。その最終目的は「1便当たりの収入を最大にする」ということだ。それは高め運賃で利用率60%を稼ぐことだったり、超格安運賃で座席数の半分を売り切ってしまうことだったり、まさに試行錯誤と学習によって正解は導かれてくる。

ものすごくシンプル化してしまうと、それぞれの路線には「ビジネス路線」「新幹線競合」「独占路線」「観光路線」など需要の特性があり、1年を通じた需要傾向もそれぞれ異なる。需要と運賃との関係を図式化した「需給曲線」がそれぞれにあり、この条件の下でどうすれば最大の収入が得られるかを目指して運賃額の決定に頭をひねるのだ。

そこで次回は、路線(マーケット)によって異なる需要動向・購買行動にどうあわせていくか、また、JAL・ANAの大手2社やスカイマークなどの新興航空会社、ピーチ・アビエーションなどのLCC(低コスト航空会社)、それぞれの運賃事情について解説しよう。

※写真はイメージ

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上におよぶ航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。