スカイマーク再建計画の中でも主要支援項目として記されている「共同運航」。一言で共同運航と行っても、それにはどのような形態があるのか、これを行うことが支援と言えるのか、など詳しく解説されたことは少ないようだ。そこで今回は国際線を例にして、共同運航の仕組みを紹介しよう。

共同運航の形式はひとつだけではない

運賃やマイレージは発券会社に順ずる

共同運航は国際線運航会社同士の「コードシェア」から始まる長い歴史を持っている。ちなみに、以前は両社がともにオペレーションに関わるものを共同運航と呼び、一方だけがオペレーションに関わる場合はコードシェアとしていた。そのため、共同運航とコードシェアは厳密な意味では異なるが、現在は同義語として使われているのが一般的だ。本文では共同運航に統一して紹介する。

共同運航とは、文字通りひとつの運航便で複数の「コード」(便名)を分け合うということで、A社の運航する便にB社、C社の便名が相乗りする(AA001便、BB0002便、CC0003便)状態をさす。このような場合、旅客はそれぞれの便名を付けている会社から航空券を買っているので、購入した航空券の価格もまちまちだし、マイレージ加算ルールなどもそれぞれの発券航空会社のものが適用される。

共同運航の形態を取ることで、B社、C社は、自社の飛行機や乗員を使わずにA社の運航する路線での自社ネットワークを持てるようになるわけだ。ちなみに共同運航における運航会社を「オペ社」といい、それにコードを張って売っている会社を「マケ社」という。AAオペ便、CCマケ便、という具合だ。

「売れた分だけ買う」が主流

ではなぜC社(マケ社)はA社(オペ社)の便名で航空券を売らないのだろうか。

仮に、C社がA社の便名で航空券を売った場合を考えてみよう。例えば、C社がロサンゼルスから東京までを自社で運航し、それに接続してA社が運航する東京からシンガポールまでをA社便として旅客に販売した場合、旅客から受け取ったロサンゼルス~シンガポールの通しの運賃を距離等の比率によって両社で分け合う(プロレーションと言う)のが普通だ。

この場合、 C社は国際航空運送協会(IATA)運賃で販売する、もしくは、ロサンゼルス~東京の独自運賃にA社の接続便運賃を加算して販売するなど、他社便名で売る方法ではC社の販売の自由度が落ちるという問題があるのだ。

これに対し、C社がA社と東京~シンガポール間を共同運航した場合(C社がC社の便名で航空券を売った場合)は、C社はロサンゼルス~シンガポールという通し区間に自社の割引運賃やプロモーションをかませることが容易になるし、A社との精算運賃額も両社間で何種類かの戦略的な価格設定を行うことができる。

このような国際線での共同運航においては、販売側のマケ社はGDS(Global Distribution System)という世界の航空会社をまたぐ予約システムを通じて1席ごとにオペ社の予約を取るが、まとまった買い取り保証などはしないのが普通だ。

その後、さらにITの進歩とともに予約システム、運賃管理システムの精度・自由度が上がり、グローバルアライアンスの形成と相まって、共同運航は様々な形で発展・進化してきたのである。

国際線における共同運航では通常、買取り保証はない

共同運航の「ハードル」

このような国際線の共同運航は、双方、つまりオペ社とマケ社が合意すればすぐにできるのかというと、実は様々なハードルがある。

まず、世界の航空会社間で共同運航を行うには、IATAの安全運航基準(IOSA: IATA Operational Safety Audit)に合格し、他社が自己責任で自社の座席を販売する上で十分な安全管理体制を持っていることを示さねばならない。アクシデントがあれば、マケ側が保証責任を負わねばならないので、自社の品質保証ができない会社には、他社コードを付けて販売チャネルを増やす資格はないのだ。なお、航空保険はオペ社が一元的に行う。

また、国際線で共同運航を行う場合、マケ社はコードを張る区間を自力でも運航できるという航空協定上の承認を得ていないといけない。例えば、日本の航空会社がUAEの航空会社の運航を使ってサウジアラビアまでコードを張る場合には、日本、UAE、サウジアラビア3カ国の政府の承認を得なければならない。オープンスカイ政策を採用する国が相手ならいいが、そうでない国・地域での共同運航は決して容易ではない。

もうひとつ注意しなくてはいけないのは、乗り継ぎ便の共同運航を行う時などに、スムーズな乗り継ぎを実現するため、運航ダイヤの調整などをしてはならないということだ。独禁法違反で即アウトになる。共同運航をし合う両社間の運賃精算契約以外の販売価格をそろえようなどの調整なども、当然論外である。

ジョイントベンチャーなら運賃調整も可能

これらの制約を乗り越えるために生まれたのが「ジョイントベンチャー(JV)」と呼ばれる共同運航である。同じグローバルアライアンスに属する会社同士が、JV区間のそれぞれの収入を一括プールし、運航座席・距離・クラスなどの要素を組み込んだシェア方式に従って分け合う"一蓮托生(いちれんたくしょう)方式"だ。これには両国政府から独禁法の対象外との認定を受ける必要があるが、認定されれば運航ダイヤや運賃の調整も可能となる。

JVにおけるプールした収入の分配方法は完全な企業秘密で、双方の主張を適宜調整しながら変化させているようだ。例えば、最初は提供座席数の多い方が有利だったが、高い収益で販売した会社から異論が出て、共同運航相手の座席を売った単価や利用率を加味するようになったなどだ。

他方、世界のエアラインには、UAEの2社(エミレーツ航空・エティハド航空)のように世界的アライアンスに加わらず独立路線を採る会社も依然多い。エティハドはその資金力を武器に個別に提携エアラインに資本参画するような独自路線を採っており、今後世界中の共同運航がどのような形態に進化していくかは大変興味深い。

エミレーツはアライアンスに加盟せず、各キャリアと個別に提携している

一方、日本の国内線における共同運航は、いままで紹介してきたような国際線での場合とは大いに趣を異にする。次回は国内線に着目して紹介しよう。

※写真はイメージ

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上におよぶ航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。