輸入車が一堂に会する日本自動車輸入組合(JAIA)の試乗会に参加した安東弘樹さん。ポルシェ「911 GT3」などクルママニアなら垂涎の名車が顔をそろえたが、安東さんが乗りたいと思ったクルマは5台のうち4台が電気自動車(EV)だった。なぜ、こうなったのか。試乗に同行して理由を聞いてみた。

  • 安東弘樹さんと「ATTO3」

    安東さんはEV肯定派! その理由は?

カー・オブ・ザ・イヤーでは「IONIQ5」を最高評価

JAIAは毎年、輸入車インポーターの大半が参加する大規模な試乗会を実施している。今年のラインアップはポルシェ「911 GT3」や「カイエン ターボGT」、マセラティ「グレカーレ」、ランボルギーニ「ウラカン STO」などの豪華な顔ぶれだった。

試乗会の参加者は、事前に乗りたいクルマを選んでJAIAに申請する。申し込みが多いクルマについては抽選を経て、実際に乗るクルマが決まる。安東さんが試乗したのはBMW「i7」、BYD「ATTO3」、アルピナ「XD4」、フィアット「500e」、テスラ「モデルY」の5台。XD4以外は全てEVだ。

2022年の「日本カー・オブ・ザ・イヤー」(COTY)では、ヒョンデの「IONIQ5」に最高評価の10点を投じた安東さん。ガソリン(あるいは軽油)で走るマニュアル車が好きなクルママニアでありながら、EVについても好意的に評価しているようだが、その理由とは?

マイナビニュース編集部(以下、編):今回の試乗車ラインアップは、全て希望通りに決まったんですか? 抽選で外れたクルマはありましたか?

安東弘樹さん(以下、安):全部、希望通りですね。

:EVが8割。

:自分でもびっくりしたんですけど、結果的にはそうなりました。あえてEVを選んだわけではないのですが、今まで乗れていなかったクルマの中から「乗らなければ!」と思うものを選んでいったら、こうなったんです。最初に試乗車のラインアップを見たときは、ポルシェ「718 ケイマン GT4 RS」に乗ってみたいとかいろいろ考えたんですけど、気が付いたら、こういう結果で。

:COTYではIONIQ5に10点を入れていらっしゃいましたよね。そうなると、BYD「ATTO3」の評価も気になるところです。

:BYDも乗ったことがなかったので、これは乗っておくべきだと思って選びました。

そもそも、IONIQ5を評価した一番の理由は、パドルで回生の強さを自由自在に選べるところだったんです。ワンペダル走行までパドルで選択できるというところ、これに尽きます。

  • ヒョンデのEV「IONIQ5」
  • ヒョンデのEV「IONIQ5」
  • ヒョンデのEV「IONIQ5」
  • ヒョンデのEV「IONIQ5」。バッテリー容量は58kWh(WLTC航続可能距離は498km)と72.6kWh(2WDが同618km、4WDが577km)の2種類。価格は479~589万円。ボディサイズは全長4,635mm、全幅1,890mm、全高1,645mm

  • ヒョンデのEV「IONIQ5」
  • ヒョンデのEV「IONIQ5」
  • ヒョンデのEV「IONIQ5」
  • 「IONIQ5」はステアリングにパドルが付いており、これを操作することで回生ブレーキの強弱を調整できる。ワンペダル走行(回生ブレーキ=アクセルオフでクルマを停止させられる)については、そもそもできないEVもあるし、できたとしてもボタンやスイッチで選択する方式のEVが多い中で、パドルで選べるIONIQ5は珍しい存在だ。「不思議なのは、ドイツ車のEVが意外にパドルを付けていないことです。アウディには付いているんですけど、ポルシェに付いていないのは不思議ですよね?」(安東さん)

:IONIQ5の「ラウンジ」というグレードは4駆の最大トルクが605Nmもあって、高速道路を走ったんですが本当に気持ちがよかったんです。2駆でも350Nmあって、こちらも4駆との差をそれほど感じないくらい、いいクルマでした。

それと、「ラウンジ」の前席には電動シートはもちろん、シートヒーター、ベンチレーション、電動オットマンまで付いていて、さらに後席のスライドまで電動でした。あ、ラウンジではパノラマルーフまで標準装備になっているんです。まさに、付いていない装備がないといった感じでした。

室内の感じも好きですし、航続距離も実用的ですよね。試乗した時に確認したんですが、200km走れば残りの走行可能距離も200km減るという感じで、リアルな数字を出しているんだなと思いましたね。横浜を出発して鎌倉経由で箱根まで走ったんですが、「ターンパイク」の下りでは、パドルで回生を調整しながら走行した結果、一度もフットブレーキを踏まずに料金所で停止するところまでたどり着けました。

:意地でもフットブレーキは踏まないぞと(笑)。

:料金所では少しだけずれましたけど、料金は問題なく手渡しできる範囲内でした(笑)。

:安東さんはワンペダル走行がお好きなんですね?

:ワンペダルを使うか使わないかを選べる、ということが大事だと思います。

:私もIONIQ5は大好きなんですが、EVですし、ひょっとすると韓国車ということもあって、COTYでの評価についてはいろんな意見があったんじゃないですか?

:落ち込んでしまうかもしれないので、その件については関連サイトのコメントを見ないようにしていました(笑)。

:EVはクルマの楽しみを奪うのではないか、みたいな考え方を持つ人もいらっしゃるみたいですね。軽EVの日産自動車「サクラ」ですら、私は乗って楽しいクルマだと思ったんですが……。

:楽しいですよね? サクラは横浜で試乗したんですけど、EVは本当に上り坂が楽です。CVT(無段変速器)の軽自動車のように、エンジンがうなりをあげることもありません。ちょっと踏めばトルクが瞬間的に立ち上がり、その後も一定の感覚でトルクが出続けるイメージです。

サクラはバッテリー容量が20kWh(WLTC航続可能距離180km)というのも絶妙です。

  • 日産「サクラ」
  • 日産「サクラ」
  • 日産「サクラ」
  • 日産「サクラ」

:充電時間が「普通充電(3kW)で8時間」と聞いて難色を示す方もいらっしゃるようですけど、これは自宅で夜にでも充電すれば済む話ですし、そもそも軽EVなのでバッテリーが空になるほど乗るようなクルマでもないと思います。急速充電なら20kWhは短時間で充電できちゃいますしね。

:軽自動車こそ、EV化していく理由があるクルマだと思います。クルマの官能性みたいなものをそこまで重視していなくて、オートマの軽自動車を日々の足として使っている方なら、運転の仕方が変わるわけでもありませんし、EVを選択肢に入れてみてもいいと思います。ガソリンスタンドは全国的に減っていますが、EVなら行く必要がないですしね。

:安東さんは今、ロータス「エリーゼ」、メルセデス・ベンツ「E220d 4MATIC オールテレイン」、スズキ「ジムニー」の3台をお持ちだと思うんですが、まだEVは買わないんですか?

:あ、メルセデスはレンジローバー「ヴェラール」の中古車(1年半落ち、走行1万km)を買って乗り換えました。

:え!

:オールテレインは走行距離が9万kmに迫っていて、これが10万kmを超えると、次のクルマのローンの頭金が確保できなくなってしまうので……。

  • レンジローバー「ヴェラール」

    レンジローバー「ヴェラール」。安東さんはディーゼルエンジンのマイルドハイブリッド(MHEV)に乗っている。装備面の不満は「リアにシートヒーターが付いていないこと」だったそうだが、奥様のためにどうしても欲しい装備なのだそうで、後付けのリアシート用ヒーター(フロント用はよくあるが、リア用は珍しい)を探して購入し、取り付けたそうだ。画像は2023年モデル

:10万kmを超えると下取り価格が一気に下がると聞きますもんね。なるほど。そのヴェラールの枠をEVにするのは、まだ難しそうですか?

:日本の充電環境だと、例え大きなバッテリーを積んだEVに乗るとしても、経路充電が難しいんですよね。

:急速充電器の出力の問題ですね。例えばフル充電で800km走れるEVであったとしても、安東さんの場合は一気に1,000kmを走りたいときもあるわけで、そうすると、足りない200km分をどこかで急速充電しなければならなくなりますが、現状、日本の急速充電設備は出力が少なめなので、けっこう時間がかかると。

:日本ではようやく90kWの急速充電器が普及しつつある段階ですが、ヨーロッパのジャーナリストの動画を見ていると100kWでも「少ない!」といっていて、実際に250kWの充電器があったりもします。100kWが普通という世の中になったら、EVはもっと身近になると思います。

:エリーゼ、ヴェラール、ジムニーのラインアップは三者三様で素敵なんですが、もう1台持てるとしたら……。

:間違いなくIONIQ5ですね。いや、フィアット「500e」も気になります!