中国の電気自動車(BEV)メーカーであるBYDが製造するミドルサイズSUV「ATTO3」。同社の日本法人であるBYDオートジャパンは、2023年1月31日に日本で発売するこのクルマの価格を440万円に設定した。同じカテゴリーでは韓国・ヒョンデ製のBEV「IONIQ5」が479万円~、フォルクスワーゲン「ID.4」が499.9万円~(2023年モデルは514.2万円~)、アウディ「Q4 e-tron」が599万円、テスラ「モデルY」が643.8万円、国産では日産自動車「アリア」が539万円~だから、ATTO3の価格がかなり戦略的な値付けであることがわかる。では、実際のところ走りや質感はどうなのか。ナンバー付き車両(右ハンドルの豪州仕様)で公道に乗り出し、横浜市内や周辺の高速道路を走ってみた。

  • BYDのBEV「ATTO3」

    BYDのEV「ATTO3」に試乗!

金型は日本製?

時間の単位で100京分の1秒を表す「アト秒」が名前の由来となったATTO3。ボディサイズは全長4,455mm、全幅1,875mm、全高1,615mm、ホイールベースは2,720mmだ。元アウディや元ランボルギーニのデザイナーが手掛けたというエクステリアは、シンプルかつスマートな無国籍風。フロントのエアインテークや滑らかなサイド部分、凹凸のあるリアライト周りなど、ちょっと手の込んだラインは日本の金型メーカーである「TATEBAYASHI MOULDING」によって上手に仕上げられている。

  • BYDのBEV「ATTO3」
  • BYDのBEV「ATTO3」
  • BYDのBEV「ATTO3」
  • デザイナーは一流、金型は日本製の「ATTO3」

インテリアはホワイトとブルーの2トーン。明るい色使いだ。ステアリングスイッチで90度に回転させることができて、タテでもヨコでも使える12.8インチのセンターモニターは特徴的。右ハンドルに合わせてステアリング右側に移設したウインカーレバー、フラットで前後に長い床から生まれる室内空間、後席頭上まで開く大型サンルーフ、440Lのラゲッジルームなど、使い勝手に関しては基本的に問題なさそうだ。

  • BYDのBEV「ATTO3」
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  • BYDのBEV「ATTO3」
  • ホワイトとブルーの明るい車内

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  • タテでもヨコでも使えるセンターモニター

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  • BYDのBEV「ATTO3」
  • 使い勝手は問題なさそう

一方で、「フィットネスジム×音楽」をモチーフにしたという各部のデザインは、個人的にはちょっと微妙な感じ。トレッドミル(ランニングマシン)から着想を得たというセンターアームレストやそこから伸びる立派なシフトレバー、スピーカー一体式のドアノブ、つま弾くとギターの弦のように音が出るドアポケットの赤いひも(?)などが独特の雰囲気を醸し出していて、このあたりは好みが分かれそうだ。

  • BYDのBEV「ATTO3」
  • BYDのBEV「ATTO3」
  • BYDのBEV「ATTO3」
  • 「フィットネスジム×音楽」というデザインテーマは好き嫌いが分かれるだろう

パワートレインは最高出力150kW(204PS)/5,000~8,000rpm、最大トルク310Nm/0~4,620rmを発生するTZ200XSQ型交流同期モーターに、軽量でリーズナブルな総電力量58.56kWhの「ブレードバッテリー」と呼ぶリン酸鉄リチウムイオン電池を組み合わせる。航続距離は485km(WLTC値)でライバルたちに引けを取らない。

フロントフードを開けるとその心臓部が見えるのだけれど、BYDが開発した「8in1パワーシステムアッセンブリー」は、8つのモジュラーを集約することでその体積を最小に抑えている。ボンネット内にたっぷりの空間が残されている(つまり、クラッシャブルゾーンが大きい)のにはちょっと驚かされた。

  • BYDのBEV「ATTO3」

    ボンネットの中にはたっぷりとした空間が

最先端のバッテリーメーカーでもあるBYDが開発したモーターとバッテリーにより、1,750kgとEVにしては比較的軽めに仕上がっているATTO3。軽さをいかした走りはけっこう活発だ。ゼロ発進時や追い越し時も、アクセルを踏んだ分だけ気持ちよく加速できる。

  • BYDのBEV「ATTO3」
  • BYDのBEV「ATTO3」
  • BYDのBEV「ATTO3」
  • 走りは活発。追い越し時の加速も不満なし

前マクファーソンストラット、後マルチリンクのサスペンションはよく動くので、乗り心地に不満は出ないはず。ただしFFなので、どんな車速でも直進性は抜群なのだけれど、コーナーに侵入する際のステアリングの切りはじめには、ちょっとこじるような抵抗感が伝わってくる。フロントタイヤにモーターによる大トルクが絶えずかかっているので、左右トルクのコントロールが難しいのかも? 最近のEVでRRが主流になってきたのは、実はリア駆動の方が安定した走りができることがわかってきたからなのかもしれない。

シフトレバー右下のボタンで選ぶドライブモードは「スポーツ」「ノーマル」「エコ」の3種類。その左側のボタンでは「ハイ」と「ロー」の2段階で回生力が調整できる。試乗中に組み合わせをいろいろ試してみたけれど、それによる走りの違いは意外と少ないタイプだった。わざわざ独立したボタンをつけたくらいだから、例えば日産のEVのようにワンペダルに近い加減速ができるのかなと思っていると、拍子抜けしてしまう。

  • BYDのBEV「ATTO3」

    サスペンションはよく動くので乗り心地は上々。回生ブレーキの強さは「ハイ」か「ロー」が選べるが、そこまでメリハリのある変化は起こらない

もうひとつ気になったのは、30km/hまでの低速域で自動的に発生する「ウーン」とうなるようなモーター音だ。周囲にEVであることを伝える役目をきちんと果たしているのだが、車内に伝わってくる音量はもう少し下げてもいいのかなと思った。

月々4.4万円のサブスクを実現!

試乗中に交差点で止まっていると、横断歩道を渡る若者がしげしげとボンネットを眺めてBYDであることを確認し、後ろに回ってモデル名を確認する場面があった。やっぱり“中華EV”というのは興味がわく存在なのだろう。

  • BYDのBEV「ATTO3」

    若者の興味を引いた「ATTO3」

購入に関しては440万円という本体価格の設定だけでなく、「BYD eフラット」という頭金やボーナス払いがない月々4.4万円(登録諸費用や自動車税込み、税抜き)の4年間サブスク・リースプランや「BYD eローン」という4年残価据え置きローン、またはBYDオーナー専用にオリジナル補償が付帯する「BYD e自動車保険」など、お得なプランを多数準備している点も見逃せない。販売を開始する2023年1月下旬には15都道府県に22の店舗開業準備室をオープンし、2025年末までには商談やアフターサービスが可能な店舗を国内に100以上設置する計画が進行中だという。

価格と安心感という2つのファクトがそろってくれば、日米欧のEVメーカーの脅威となる存在に成長する可能性が十分にあると感じられた試乗だった。