「自分には専門性がない」、「これじゃダメだと思って転職しましたが、結局、何も身についていません。もっと色々と考えて動けばよかった」、「仕事だけでなく、趣味もそう。趣味をもつと、たぶん楽しいし、仲間も増えると思うけれど、長続きしません。学生時代も親が反対するので、何もできませんでした」。

こう話すAさんの相談にのりました。特定の要因があるわけではありませんが、些細なことに不平・不満を感じ、ストレスフルな毎日を送っているとのこと。

  • 「自分に自信がなくストレスを感じますか?」

ネガティブにとらえるメンタル

私はAさんの抱えるストレスを「自分に自信がないストレス」と呼んでいます。一言でいえば、「ネガティブ」です。

その原因は、以下のような「メンタルモデル(物事のとらえ方のクセ)」をもっているという点にあります。

・「自分に足らない部分」に焦点を当てる
・「悪いのは、環境や他人のせい」であるというとらえ方をする
・「過去にこうすればよかった」という非建設的な視点に終始する

そもそも、なぜこういうメンタルモデルをもつに至ったかという理由を更に掘り下げて考えると、「学習性無力感」というキーワードにいきつきます。

学習性無力感とは

学習性無力感とは、その名の通り「これまでの経験を通じて学習した(=身についた)、『どうせ自分なんて無理』と無意識に考えてしまう無力感」のこと。以下の方程式で成り立ちます。

(上手くできなかった経験 x 承認されない経験) x 回数

つまり、「何をやっても上手くいかない(もしくは親が過保護すぎてチャレンジすらさせてもらえない等)」、「人から自分という人間を認めてもらえない」といった経験の積み重ね。

これが「自分に自信がもてない心の状態」を無意識のうちにつくってしまっているのです。

この状態にある人は「自分とは別のところ、もしくは、変えられない過去に『できない理由』を置く」傾向にあります。

なぜなら、「●●だから、自分はやらないんだ。やれないんだ。(だから私は悪くない)」と自分がやらない理由を自己正当化するのに好都合だからです。

この学習性無力感は、精神論では本質的に改善しません。

「どうせ無理なんて言わない! やれるといえばやれる!」、「人生ポジティブに! 前向きに考えよう!」、「心を磨けば、道は開ける!」。

こういったメッセージは(効果的な、しかるべき形であれば)、瞬間的なテンションを上げることには効果を発揮します。

ただ、すぐに「どうせ無理」といった状態に戻ってしまいます。強いネガティブ感情を伴う経験の繰り返しで形成されていますから、そんなに単純に変わるものではないのです。

3つの方法で自己効力感を高める

ではこのストレスを減らすには、どういう打ち手が効果的か。「自己効力感」を高め、「自分ならできる」という建設的なメンタルモデルに変えていくことです。

自己効力感とは、スタンフォード大学教授のアルバート・バンデューラ博士によって提唱された考え方で、以下の3つのことの実践を通じて高まるといわれています。

達成体験をつくる 成功したり、達成したりしたという体験を自らつくりましょう。仕事でも趣味でも構いませんし、些細なことで大丈夫です。「●●を達成した」という経験を積み重ねていくことが大切です。
代理経験をする 自分以外の誰かが達成している様子を観察することで「自分にもできそうだ」と感じ、「あの人にできるなら自分にできないはずはない」というイメージをつけることが効果的です。
言葉をかけてもらう 信頼している人から「あなたならできるよ」とか、「ここまでできたね」などほめられると、自己効力感は高まります。仲間同士で、ほめ合ったりはげまし合ったりしてみるのも効果的です。

これらは理想ですが、上記のような環境にない人もいるかもしれません。

その場合は、自分で自分に「よく頑張ったね」という言葉をかけたり、「●●まで達成したから、自分で自分にxxというご褒美をあげる」といったりすることでも効果はあがります。

いかがでしょう? もし「自分に自信がないストレス」に関して、自分もあてはまると感じたら、ぜひ試してみてくださいね。

執筆者プロフィール : 阿部淳一郎氏

ラーニングエンタテイメント 
代表取締役

若手の採用・育成・定着に強い人材開発コンサルタント。早稲田大学教育学部卒。筑波大学大学院(ストレスマネジメント領域)修了。保健学修士。社会人教育を行う東証一部上場企業等を経て2004年に起業。「メンタル不調者を減らし、若者の能力を引き出す」をコンセプトに人材開発業務に従事。大企業から中小・ベンチャー企業、学校、行政まで研修登壇実績は約1500本、コンサルティング実績30社。サンフランシスコ・シリコンバレーへも事業展開中。大学での就職活動領域における講師歴も長い。『これからの教え方の教科書(明日香出版社)』など著書3冊。『NHK』『日経新聞』『読売新聞』『日経アソシエ』『週刊SPA!』など取材実績も多数。