今やインフラとして定着しつつあるモバイルバッテリーシェアリングサービス「CHARGESPOT」。大規模な地震や停電が発生した際、CHARGESPOTを手掛けるINFORICHは被災エリアを対象に、バッテリーを無料開放する支援を続けている。
2026年7月28日に発生した熊本地震でも、対象地域でモバイルバッテリーを48時間無料開放した。地震から約3カ月がたった今、改めて注目したいのが、その対応の早さだ。無料開放の設定を完了したのは、地震発生からわずか25分後だったという。
その短い時間の中で、どのように状況を把握し、誰が何を判断していたのか。取締役で災害対応の総指揮を執る高橋朋伯さんに、当時の舞台裏と、CHARGESPOTが災害対応に力を入れる理由を聞いた。
地震発生から「25分後」には無料開放の設定が完了!
――まずは高橋さんがINFORICHで担われている役割と、災害時にはどのような立場で関わっているのか教えてください。
私は代表の秋山と一緒に会社を立ち上げた共同創業者の一人で、今は取締役として、日本のCHARGESPOT事業の責任者をしています。災害時は、CHARGESPOTを無料開放するかどうかの最終的な判断と、実際のオペレーションの指示を出しています。
――今年7月28日に起きた熊本地震の際にも「48時間の無料開放」を実施されました。具体的には、どのような取り組みなのでしょうか。
普段のCHARGESPOTは、モバイルバッテリーを借りてから返却するまでの時間に応じて料金がかかる仕組みです。一方、災害が起きた際には、対象となるエリアで48時間まで無料で利用できるように切り替えています。
基準としては、「震度6弱以上の地震」が起きた場合をひとつの目安にしています。ただ、その数字だけで判断しているわけではありません。全国各地にスタッフがいるので、現地のスタッフから「電車が止まって帰宅困難者が多く出ている」「スマホを充電できず困っている人がいる」といった状況が上がってくることもあります。そうした現地の声も踏まえながら、震度にかかわらず柔軟に判断しています。
――停電しているエリアでも、CHARGESPOTは使えるのですか?
バッテリースタンドの電源が入っていて、電波が届いていることが最低条件にはなります。商業施設などは蓄電池などの設備を持っていたりするので、街が停電していても生きているスタンドは意外と多いんです。CHARGESPOTアプリのマップで「水色」のピンを探していただければ、そこではバッテリーが借りられるようになっています。
――熊本地震の際、発生からわずか数十分で無料開放を完了させたとお聞きしました。具体的にはどのようなタイムラインだったのでしょう。
我々の社内チャットには「エマージェンシーチャンネル」があって、地震が起きた瞬間に誰かしらが地震情報を投稿する仕組みになっています。さらに外部のアラートシステムとも連携しているので、何時であろうと即座に全員のスマホに通知が来ます。
熊本地震の日のログを振り返ると、地震が発生したのは16時27分頃。16時30分に地震の第一報がチャンネルに入り、その1分後の16時31分には、私から「無料開放する対象地区のリスト作成」「無料設定のオペレーション」「案内文の準備」を指示しています。さらに16時33分には、各種SNSやアプリ内通知の準備も始まりました。
――1分後に指示が出るとは……驚異的な速さですね。
16時34分に気象庁から詳細な震源情報が出て、35分には対象エリアを絞り込み、告知用の文章も出来上がっていました。そこからシステムに対象エリアのリストを流し込んで、16時52分には無料設定が完了しています。16時58分にはウェブサイトやSNSでの発信もすべて終わっていました。
――発生から25分で設定完了、31分で告知まで終わっていたと。
とにかくスピードが大切だと思っています。まずは一定の基準で対象エリアを決め、すぐに無料開放に踏み切ることが重要です。そこから追加情報や「ここの避難所も開放できないか」といった現地の意見を吸い上げて、さらに対象を広げていくという動き方をしています。
「電気と電波」は災害時の命綱!
――無料開放を実施した際の、ユーザーからの反応はいかがでしたか?
SNSでの反応はすごかったですね。特にXでは多くのポストをいただきました。自分で読み上げるのも照れますが、「ご英断ありがとうございます」「微力ながら拡散します」といったお声をたくさんいただいて。そうやって拡散していただけることで、より広く情報が伝わっていくので、本当にありがたいなと感じています。
災害のときって、食べ物や飲み物は比較的早く届いたり、備蓄があったりするんですが、それと同じくらい重要になるのが「電気と電波」なんですよ。スマホの充電は、災害時には文字通り“命綱”になりますから。
――これまで災害現場を実際に見て、スマホの充電をめぐって印象に残っていることはありますか?
以前、台風で千葉が大規模停電になった際、私も現場に行きました。公民館などでコンセントを開放していても、10人くらいが限界で、みんな数時間待ちで並んでいるわけです。しかもコンセントに繋いでいる間はその場から動けません。
災害時に限らず、私はよく、この状態を「コンセントという鎖に縛られている」と表現するのですが、バッテリーならポンッと渡してしまえば、そのまま家に持ち帰って家族でシェアもできます。情報を収集しながら、安全な場所に移動もできる。この「電気を持ち運べる」という価値は、非常時にこそ大きいんだなと実感しましたね。
代表・秋山の原体験と「インフラ化」へのこだわり
――そもそも、なぜCHARGESPOTはここまで災害対応に注力しているのでしょうか。
弊社代表の秋山が、昔、福島のいわきに住んでいたことがありまして。彼自身が被災したわけではないのですが、友人が被災した際の話を聞いて、非常に大きな影響を受けたようです。だからCHARGESPOTのサービスを始めるときも、最初から「インフラサービスを目指す」というメッセージを掲げていました。
まだ東京にしか設置がなかった2018年、北海道で大きな地震があったんです。そのとき秋山は「いち早く電池を届けよう」と言って、飛行機が飛ばない中で船を乗り継ぎ、大量のバッテリーを担いで北海道まで行きました。そこで「CHARGESPOTは災害時に本当に必要とされるんだ」と強く実感し、「どこでも必要なときに使えるサービスにしたい」という思いから、全国への展開を進めてきました。
――社員の皆さんにも、その意識は浸透しているのでしょうか。
そうですね。もう気づけば当たり前、という感じです。2024年の元日に起きた能登半島地震のときも、会社が休みの日にも関わらず、ニュースがあった瞬間に多くの社員がチャットに集まってきて、1時間以内には、リモートで一連のオペレーションを終わらせていました。使命感というより、もう日常業務のように体が反応するようになっていますね。
そうした意識が根づいている背景には、自分たちの対応が実際に誰かの役に立っていると実感できることもあると思います。SNSなどを通じて利用者の反応がダイレクトに伝わってくるので、それが社員のモチベーションにも良い影響を与えていると感じます。
――ウェザーマップ社と連携して、CHARGESPOTのサイネージで台風接近時などに防災情報を発信する取り組みも始められたそうですね。
そうですね。まずはセブン-イレブン店舗にある端末からトライアルを始めていて、台風が近づいたときに、「今すぐ取るべき具体的なアクション」をサイネージで発信していきます。
11月2日には国の「防災庁」も発足するなど、防災への関心が高まるなか、CHARGESPOTとしても防災情報の発信に力を入れていきたいですね。特に台風は事前に予測できる災害なので、いかに早く住民の方に情報を届けられるかが重要だと考えています。
――サイネージを使って、具体的にどういった啓発をされるんですか?
ウェザーマップ社に監修いただいて、「雨戸やカーテンを閉める」といった住まいの準備や、「公共交通機関の運行情報をチェックする」「増水した川に近づかない」といった具体的な回避行動を伝えようと考えています。
もともとCHARGESPOTは、人通りの多い場所に設置されていることが多いので、サイネージを通じて多くの方に情報を届けられるという強みがあります。充電を提供するだけでなく、必要な防災情報を届けることもインフラサービスとしての役割のひとつだと考えているので、この取り組みにも積極的に力を入れていきたいですね。
実はアプリなしで「今すぐ」使える! 意外と知らない“裏技”を伝授
――最後に、災害時に備えて、CHARGESPOTについて普段から知っておいてほしいことや、準備しておくとよいことがあれば教えてください。
まずは一度、CHARGESPOTアプリをダウンロードして、自分の家の近くや通勤ルートのどこにCHARGESPOTがあるかマップを眺めてみてほしいですね。「あ、ここにあるんだ」と知っておくだけで、有事の際の気持ちの落ち着き方が全然違いますから。
それから、実はアプリを入れなくてもCHARGESPOTは使えるんです。PayPay、d払い、auPAY、LINEといったアプリの中に、すでに「スマホ充電」という形で組み込まれています。iPhoneなら、カメラでQRコードを読み取るだけで、App Clipからレンタルできます。
――えっ、CHARGESPOTのアプリをダウンロードしなくても借りられるんですか?
実は……そうなんです(笑)。でも、いざという時に初めて使うとなると、戸惑うこともあると思います。なので、ぜひ平時のうちに一度使ってみてほしいですね。借り方や返し方を知っておくだけでも、災害時によりスムーズに利用できると思います!






