モバイルバッテリーシェアリングサービス「CHARGESPOT(チャージスポット)」を展開するINFORICH(インフォリッチ)。2018年のサービス開始以来、累計レンタル回数は1億回を突破し、駅や商業施設・コンビニなど、さまざまな場所で利用できるサービスへと成長している。
モバイルバッテリーという製品には発火・破裂といったリスクもつきまとうが、INFORICHはサービス開始以来、「重大事故0件」を維持してきた。1億回を超えるレンタルの裏側で、いかにしてバッテリーの安全性を守っているのか、執行役員としてグループ全体のプロダクトを統括するCPO(最高プロダクト責任者)広瀬卓哉さんに、その管理体制の裏側を伺った。
「重大事故0件」の裏にある厳格な管理体制と危機意識
――まずは広瀬さんのこれまでのご経歴と、現在担われている役割について教えてください。
最初の就職先が中国のソフトウェア開発会社で、そこから「中国×ソフトウェア」の掛け合わせの領域で仕事をしてきました。昔は中国の大連に2年ほど住んでいたこともあります。
INFORICHには2019年からプロダクト担当者として入社しました。最初は中国の開発チームと、日本側のローカライズ担当とのコミュニケーションギャップを埋めるところから始まったのですが、その後は日本にも開発チームができて、現在は両国のプロダクト開発も担当するなど、だんだん責任範囲が広がってきている感じです。
――モバイルバッテリーの発火事故が社会問題になっていますが、CHARGESPOTが「重大事故0件」を維持できている理由をどう捉えていますか。
基本的には、貸出前のスタンドに刺さっているバッテリーのデータをすべて遠隔で監視していて、「状態がいいものを貸し出し、状態が悪いものは貸し出さない」を徹底しています。かなり高い精度で管理しているからこそ、2018年のサービス開始からここまで、重大事故を起こさずに来られたのだと思います。
――具体的に、どのようなデータを見てバッテリーの状態を判断しているのでしょう。
バッテリー1個1個に点数をつけていて、その点数で回収するか判断しています。この点数は複数の要素で計算していて、例えば、充電するときの“温度”ですね。妙に温度が上がるというのは、何らかの劣化が疑われる指標のひとつになります。
そのほか、ユーザーが実際にレンタルした際の“使用傾向”も見ています。例えば、充電残量が100%の状態から10分ほどしか使っていないのに0%になった場合は、異常の兆候とみて回収します。
ユーザーからアプリ経由でいただくフィードバックも点数に反映していますし、これら複数の項目で評価を行いながら管理を続けています。
――「1億回レンタルで重大事故0件」という実績について、率直にどう感じていらっしゃいますか。
まず、“ユーザーの皆さまが大切に扱ってくださっている”という事実が前提にあります。その上で、安全第一で、劣化が見られるものは危なくなる前に回収するということを続けてきた結果、1億回レンタルを無事故で迎えられたんだと考えています。
もちろん、そうでなければここまで来られなかったわけですし、同時に非常に責任も重たい部分だと感じています。私たちには「安全」に対する責任があるので、常に危機感を持っています。ここだけの話、発火事故を起こしてしまうという夢を毎週のように見ていますよ(笑)
高品質の部品を使い、世界基準の安全性を守る
――それほど強いプレッシャーを感じられているんですね……。バッテリーの部品選びにおいて重視している基準はありますか。
「実績のあるものを選ぶ」ことですね。バッテリーセルに関しては、サービス開始から2~3年目以降、変えていません。今後展開していく急速充電タイプのものも、同じメーカーかつ同じ評価基準のものを使用しています。品質の保証と供給も安定している、信頼の置けるバッテリーセルです。
――設計や製造の段階では、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。
CHARGESPOTはグローバルでの流通を想定しているので、日本の電気用品安全法に基づくPSE表示をはじめ、展開する国・地域で求められる3C、CEマーキング、UL規格などの要件に適合しています。
試験項目は本当に様々で、想定外の電流や電圧を流したときに中の基板が損傷しないかという試験や、1.2メートルの高さからの落下を想定した試験、あとは振動試験や、温度が高い環境・低い環境に置いたときにどうなるか……といった細かな試験を繰り返しています。
「安全にコストをかけること」が最もコスパがいい
――異常が検知された後のバッテリー回収はどのような仕組みで行われているんですか。
私たちは「SPOTJOBS(スポットジョブズ)」というギグワークのプラットフォームを運営しておりまして、そこから回収を行っています。
マップ上に「ここからバッテリーを取り出してください」という指示が出て、登録されているギグワーカーの皆さまに「私がやります」と名乗り出ていただき、回収してもらう仕組みです。フードデリバリーのようなイメージをしてもらうと分かりやすいかもしれません。
回収のスピードは場所によりますが、早ければ1時間以内の場合もありますし、1週間以上かかる場合もあります。ワーカーさんが動きにくそうな場所はまた別の手段を使いますし、優先度が高いものであれば私たち社員が行くこともありますね。
――1年以内に80%を回収し、最長でも3年で入れ替える運用を行っているそうですね。
1年以内に80%を回収している大きな理由は、実はバッテリーよりも先にケーブルのほうが傷んでしまうからです。1年間に何百回も貸し出しされるため、どうしてもセルの劣化より先にケーブルの接触が悪くなることが多いんですよね。
一方で、3年での回収というのは、安全のための保守的な判断です。3年経ってすぐに危険になるわけではありませんし、利益の追求だけを考えれば本当はもっと使いたいのですが、安全を最優先にするためにこのサイクルで回しています。
――安全性とコストのバランスについて、企業としてどう考えていますか。
利益だけを追求しようと思えば、もっとできることはいっぱいあります。が、それよりも無事故を維持するほうが、長い目で見れば私たちにとってはるかに重要なことです。安全第一であることは、社会的な責任であるのと同時に、私たち自身のためでもありますからね。
もっと広い世界でこのビジネスを続けていくことを考えると、安全に対してコストをかけることは、実は最もコスパがいいんですよ。
――今後の展望として、さらに安全性を高めるために取り組んでいることはありますか。
今はまだ言えないことのほうが多いのですが、例えば技術面では、次世代のより安全なバッテリーの研究開発も進めています。ただ、今の私たちの現行品と比べて本当に安全だと言えるかどうかは、まだ議論の余地があると思います。
コストが高すぎてビジネスが成り立たなければ本末転倒ですし、性質として安全でも、安定した製品をコンスタントに作れる能力を自分たちが持てるかどうかが重要。世に出していないだけで、実は常にいろんな検討は続けているんです。
――最後に、CHARGESPOT利用者やこれから利用を検討されている方へメッセージをお願いします。
巷では色々なことが言われるモバイルバッテリーですが、CHARGESPOTは私たちが責任を持って管理・監視を行っております。ご自身で所有されているものを管理するのに比べ、より手軽に利用できるサービスになっているかなと思うので、モバイルバッテリーは「借りる」というのもぜひ選択肢に入れていただきたいですね。





