古くから自転車産業が盛んで、全国有数の“自転車のまち”として知られる大阪府堺市。そんな同市では、建設局 サイクルシティ推進部 自転車企画推進課が中心となり、自転車の利用促進と安全利用の啓発に取り組んでいる。
その一環として、10月28日、堺市役所本館にて「自転車通勤管理セミナー」が開催された。“自転車のまち”堺では、通勤に自転車を利用する人が少なくない。今回は、社会保険労務士と、堺市と包括連携協定を結ぶ三井住友海上火災保険の社員が登壇し、会社が取り組むべき対策や堺市内における自転車交通事故の状況などが語られた。このセミナーの模様をレポートする。
自転車通勤がはらむリスクに対応する、会社が取り組むべき6つの対策
最初に登壇したのは、社会保険労務士の清水広明氏。自転車通勤には企業と従業員の双方にメリットがあるものの、万が一、従業員が通勤中に事故を起こしてしまった場合、会社にも影響を与えかねない。
従業員本人が死亡したり、重傷を負ったり、高額な損害賠償を求められたり、刑事責任を問われたりするリスクがあるのはもちろんだが、会社としても、通勤災害(労災)手続きに追われるだけでなく、従業員が長期休業となれば経営を直撃し、企業イメージが損なわれる恐れもある。従業員の自転車通勤実態を把握できていない会社は多く、清水氏は制度の整備を求めた。
ちなみに、通勤災害とは、通勤によって労働者が被った傷病などをいう。認められるには「就業に関し」「合理的な経路および方法」での移動が必要となる。移動の経路を逸脱・中断した場合は原則として「通勤」に当てはまらない。
ただし、自転車通勤中だからといって、会社が必ず責任を負うわけではない。清水氏は、従業員が通勤中に起こした事故をめぐり、民法第715条に基づく会社の使用者責任が認められた事例と、否定された事例を紹介した。会社に損害賠償責任が生じるかどうかは、業務との関連性と会社の関与が関係する。
従業員の自転車通勤がはらむリスクに対応するため、清水氏は「会社が取り組むべき6つの対策」を挙げた。
【1】自転車通勤規程・就業規則の整備
【2】申請書兼誓約書・通勤経路の確認と管理
【3】自転車保険加入の確認・指導
【4】ヘルメット着用の推奨・義務化
【5】定期的な交通安全教育の実施
【6】事故発生時の初動対応マニュアル整備
自転車通勤は「許可制」とし、許可基準と確認事項を明確にしたうえで、従業員の損害賠償責任保険への加入を義務付けることを清水氏は推奨した。なお、自宅から最寄り駅まで自転車を利用しているケースが盲点となりやすいそうだ。通勤時の自転車利用については、たとえ短い距離であっても申請を徹底することが望ましいと補足した。
「まずは自転車通勤者と現状を把握することから始め、1週間以内に保険加入状況を確認した後に、1か月以内を目途に就業規則と通勤規程を整備してほしい。従業員を守ることは、会社を守ることにつながる」と、清水氏はメッセージを送った。
堺市内の事例から見る、自転車事故が起きやすい交差点
続いて登壇したのは、三井住友海上火災保険 大阪第四保険金お支払センターの古賀良平氏。入社以来、一貫して自動車保険を中心とした保険金支払い業務に携わり、交通事故削減に向けた啓発活動にも取り組んでいる。
古賀氏は冒頭、日本国内におけるケガを伴う交通事故の一日の発生件数をクイズにして出題した。その数は、約2,000件。そのうち、約500件が自転車の交通事故だと明かした。そして、自転車事故が最も多い事故発生場所は、交差点だという(いずれも三井住友海上火災保険調べ)。
例として、堺市内の自転車事故多発地点が2か所紹介された。1つ目の交差点では、過去5年間で24件もの自転車事故が発生。
その原因について古賀氏は「路面には『止まれ』の標示はあるが、一時停止の標識が設置されていない。そのうえ、停止線が交差点のかなり手前に位置しているため、ドライバーが減速しただけで完全停止せずに進入したり、車頭を交差点内に出して停止したりすることで、交差する自転車と一気に接近し、接触しやすくなっているのではないか」と推察した。
さらに、向かい側の道路には一時停止標識も停止線もなく、建物によって大きな死角が生じている。自動車と自転車の双方が油断して進入しやすい条件が重なっていると警鐘を鳴らした。
2つ目の交差点では、過去5年間で11件もの自転車事故が発生。
路面と標識にそれぞれ「止まれ」が設置されているものの、建物によって右側の視界が遮られている。「右側の死角から直進してくる自転車と出会い頭に衝突しやすくなっている」と、古賀氏は解説した。
堺市内においても、対自転車事故の約6割が交差点付近で発生している。交差点の道路形状でいえば、事故が最も多いのは「信号・一時停止無し」および「直線道路」だ。見通しが悪い交差点の出会い頭の事故に注意が必要なのは間違いない。
これらは自転車が被害者になったものだが、その一方で、自転車が加害者となるケースもある。全国各地で高額賠償事例が見られ、その金額は1億円近くに上る。古賀氏は「個人賠償保険への加入で、“もしも”に備えることが大切」と力を込めた。
2026年4月1日から、16歳以上の自転車利用者による対象の交通違反にも「交通反則通告制度」(いわゆる青切符)が適用されている。堺市を含む大阪府内における自転車の青切符の告知件数は、4月から6月までの期間で1,153件と報告されている。また、ヘルメットの着用率は全国平均が24.4%のところ、大阪府はワーストの9.5%に留まっている。堺市内で起きた高額賠償事例の事故では、自転車を運転する被害者がヘルメットを着用していれば、重度後遺障害を免れたかもしれないといわれている。
古賀氏は「自分に全く過失がない事故であっても被害に遭う可能性があることを認識し、日頃からヘルメットの着用を習慣化してほしい。一人ひとりが『自分は大丈夫』という油断を捨てて安全運転を実践することが、将来の『交通事故ゼロ社会』を作る原動力になる」と呼びかけた。
自転車通勤のメリットは企業・従業員の双方に大きい
最後に、建設局 サイクルシティ推進部 自転車企画推進課の担当者から「さかい自転車リーダー養成講座」が案内された。さかい自転車リーダーとは、正式名称を「堺市自転車利用推進委員」といい、事業所内において、自転車の安全利用や利用促進を推し進めるリーダーのことを指す。同養成講座は、そんなさかい自転車リーダーを募集・認定する制度だ。電子テキストで自己学習できるため、年間を通じて、いつでもどこでも受講可能。簡単なWebテストに合格すれば認定を受けられる。
さかい自転車リーダーに認定されると、堺市から交通安全に関する講習会やトピックスに関する情報を提供されたり、堺市ホームページに事業所名などを掲載してもらえたりする。“自転車のまち”堺らしい取り組みといえるだろう。
安全利用を実践すれば、自転車通勤のメリットは、企業・従業員の双方に大きい。企業と従業員の双方が、自転車通勤中の事故にどう備えるかを考えるセミナーとなった。







