フリーになってまず掲げたのは、「フジテレビにいたらできなかった仕事をやってみたい」というシンプルな方針だった。
地上波だけでなく、配信を含めて「何でもやってみよう」と考える中、最も早く声をかけてきたのがABEMA。「これは相当なご縁だと思ったので、自分にできることがあるなら挑戦しようと決めました」と振り返る。
もっとも、手ぶらで独立したわけではない。退社を決めてから会社を離れるまで、放送作家2人と週1~2回の企画会議を続け、「企画を20個持った状態で辞めよう」と準備。その企画をABEMA側に持ち込み、4月には『30時間限界突破フェス』内の番組企画『完徹』で総合演出を担当、そして今回の『裏垢ウララカ』がスタートする。
さらに、一つの番組を演出するだけではなく、「ABEMAゼネラルプロデューサー」にも就任。制作スタッフと一緒に番組を考える仕事も始まっており、「フットワークの軽さも含めて面白い会社だと思っています」とABEMAの印象を語った。
ABEMAというサービスは基本無料を基盤としている。東京で仕事をしていると有料の動画配信サービスの存在感を大きく感じるが、地方に暮らす親戚の若者と話すと、現在も地上波の強さを実感するといい、だからこそ、無料で見られるABEMAには独自の可能性があると感じている。
さらに、オリジナル恋愛リアリティーショーの『今日、好きになりました。』など若年層に支持されるコンテンツが育っていることにも注目する。
自身が子どもの頃からフジテレビを見て、そのまま成長してフジテレビを見続けたように、現在ABEMAの番組を見ている若者が成長しても別のABEMA作品を見続ける――「ABEMAが好きで、ABEMAを見たいという土壌がちょっとずつ出来上がっている」と感じており、近い未来には「コンテンツの中心にあるプラットフォームになり得る」と期待する。
データ、キャスティング、スピード感…ABEMAで受ける刺激
同じく今年フジテレビを退社し、ABEMAで『エイジレスボーイズ』などの番組制作を始めた玉野鼓太郎氏は、クリエイターの「やりたいこと」を尊重する姿勢と、データや分析で企画を磨いていくことの両輪に刺激を受けたと語っていた。
日置氏も同様で「めちゃめちゃ刺激を受けています」といい、その上、キャスティングの感覚にも新鮮さを感じている。地上波であればすぐには候補に入らないような人物を積極的に起用しており、「今ネットを見ている人にとても敏感」という強みを感じている。
制作の意思決定にも違いがある。地上波のタイムテーブルには既存の枠組みもあり、慎重な調整が求められる場面も多い。一方、ABEMAは配信ならではの編成の自由度やスピード感があり、「面白そうだから、まずやってみよう」と新しい企画やフォーマットに果敢にチャレンジできる柔軟さがあるという。
「ABEMAは、視聴者が番組にたどり着くまでの“リモコン”は、スマホの中のXにもTikTokにもYouTubeにもある」と言う。面白い番組を作るだけではなく、番組へ遷移する導線までを意識しなければならない。
その感覚を意識して書いた企画の一つが、出演者が番組専用の“裏垢”へ表では言いにくい不満・疑問を匿名で投稿し、スタジオでは誰が書いたのか分からないままトークを展開する『裏垢ウララカ』だった。

