丘陵地帯の地平線まで続く未舗装路、粘土質の泥が水に溶けて身体中にピーナッツバターを塗ったようなシチュエーション。どちらもグラベルロードバイクのシーンとして、よく見る景色。しかし、そんなシチュエーションが身近になくても、楽しめちゃうのもグラベルロードバイクの懐の深さだ。
都心から少し移動すれば、荒川や江戸川沿いにあるグラベルロードを楽しんでいるサイクリストたちもいる。お手軽なのは間違いないが、もう少しだけ足を伸ばすとグラベルロードをさらに堪能できるエリアがある。
向かうは房総半島の内房エリア。アクアラインを使えば、都心から90分とアクセスも抜群。房総半島には、山遊びで心配な熊がいない。標高の高い山はなく、身構えて突っ込むような道ばかりでもなく、比較的走りやすいダート林道が点在している。舗装されたシーサイドラインと組み合わせれば変化に富んだルートを組める。
今回は都心から日帰りで楽しめる千葉・房総半島でのグラベル体験記をお届けしよう。
シマノのGRXを搭載したKONA SUTRA LTDで疾走
連れ出したのはカナダの人気ブランドKONAのSUTRA LTD。強さと軽さを兼ね備えたクロモリ製フレームは、KONAらしくMTB色の強いジオメトリーを採用。勾配のきつい下り坂を安心して下れるドロッパーシートポスト、悪路をものともしない29×2.25インチの極太タイヤ、シマノのグラベルロードバイク用コンポのGRXを搭載した人気モデルだ。
早朝、クルマにバイクを積んで出発。渋滞エリアを混む前にクリアして7時には道の駅に駐める。グラベルエリアに入ると食べ物や飲料は入手できないので、コンビニなどで多めに買って本格的にスタートする。
ひとつ断っておくと、今回、詳細ルートは記さない。未舗装路のコースは自分で探すのが基本だ。また、オフロードゆえに台風や大雨で通行止めになっていることも多い。そんなときは無理をせず、別のルートを探そう。林道は沢山ある。どこかへ移動するのではなく、そのエリアのグラベルロードを楽しめばいい。というわけで、マップ機能を搭載したサイクルコンピュータがあると便利。
視界に現れた数々の素掘りのトンネル
林道を走りはじめると、程なく素掘りのトンネルが現れる。房総半島の内房エリアに素掘りのトンネルが多いのは、明治以降に荷車で物資を運ぶために平坦な道が必要になったため。砂岩や泥岩はトンネルが掘りやすく、崩れにくいという特徴もあり、その数は数百にのぼると言われている。それぞれに特徴があり、素掘りトンネルを巡るツーリングをする人も多い。当然、中に灯りはないので、明るめのライトは必須。ライトがないときは、歩いて通過しよう。
全般的にフラットと言っても、林道を繋いで走っていれば、急な上り坂もある。SUTRA LTDのようなグラベルロードバイクは大きなローギアがあるので、ロードバイクでは登れないような坂も心配がない。それでも登れないときは、無理に走ろうとせずに押して登ればいいのだ。私のようにロードバイクばかり乗っている人にとっては、押して坂をクリアするのは悔しいが、一度押してしまうと、気負いが抜けてコースを楽しめるようになる。
鹿や猿、イノシシ……大自然の中にいることを実感
坂を登り切ったところでスマホに目をやると、なんと圏外。最後の集落を抜けてから20分も走っていないが、人工的な音はなにも聞こえない。森の中、自然の懐に入ったのを実感する。現にこの日は鹿、キョン、イノシシ、キジ、猿をすぐそばで見た。
林道といっても、道幅は軽トラックがギリギリ通れる程度。場所によってコンクリート舗装されている急登区間もあるが、その上に苔があったりする。道幅が広くなったと思えば倒木があったり、林業の人たちが作業をしている。かと思えば、その先に廃墟になった家。こんな身近な場所に、人の生活が途絶えつつあるのを知る。こんなに短時間に、いろいろなシチュエーションがあるのもオンロードツーリングにはない面白さだ。
ダウンヒルを上手に下る「コツ」
いよいよ待望のダウンヒルだが、下りは飛ばさないこと。たくさん汗を掻いて登ったのは、下りのため……ではない。視界が開けている緩斜面なら、ライディングテクニックに応じたスピードを楽しむのもいい。ただし、自分のコントロールできるスピードを超えそうになったら
「ここに救急車が来るまでにどれくらい時間がかかる?」
と考える。すると、冷静に安全に走れる。
テクニカルな下りは、ドロッパーシートポストが活躍する。サドルを下げることで格段に荷重移動がしやすくなる。また、2.25インチの太いタイヤはエアサスとなり、木の根や路面の凹凸を吸収。ロードバイク寄りのグラベルロードとはひと味違う走破性を発揮する。
グラベル後のランチは格別
グラベルから舗装路になると、あっという間に下りは終わり。国道127号線にポンと出る。あとはツーリングに欠かせない美味しいランチ。富津は東京湾の穴子の漁場として有名なエリア。友人から「穴子を食べるなら……」と教えてもらった“鳥きん”へ。名物の穴子丼は器から大きくはみ出し、箸を入れると衣がサクリと鳴って、白い身が現れる。まさに絶品。
食べ終わったら、ペダルを踏んでクルマに戻り、風呂へ。ひとっ風呂浴びても、道が混む前に帰途につける。今回は舗装路を短くしたが、シーサイドの眺望をさらに楽しみたいならフラワーラインまで足を伸ばしてもいいし、外房へとルートをとることもできる。グラベルロードバイクを買ったら、一度は訪れてほしいエリアだ。






