急速な社会変革が続く現在、大学や研究機関から生まれる技術シーズを起点としたスタートアップへの期待が高まっている。一方で、優れた技術やアイデアだけで事業化を実現し、持続的に運営するのは容易ではなく、起業家人材の育成から資金調達、事業化支援、ネットワーク形成まで、多面的な支援が求められている。

こうした中、北海道では地域全体でスタートアップ創出を後押しする取り組みが進められている。その中核を担うのが、「北海道未来創造スタートアップ育成相互支援ネットワーク(HSFC)」だ。北海道大学を主幹機関とし、道内の大学や高等専門学校を中心に、企業・自治体・金融機関などが参画する創業支援プラットフォームとして活動するHSFCは、研究成果や技術の発掘から起業、事業成長までを一貫して支援する仕組みの構築を目指している。

そして今回、その協力機関として総合ITソリューション企業のHBAが新たに参画した。北海道でのスタートアップ創出エコシステムにおいて、HBAに求められる役割は何なのか。HSFCのプログラム代表 兼 HSFC推進会議委員長であり、北海道大学産学・地域協働推進機構スタートアップ創出本部の本部長/特任教授でもある小野裕之氏に、HSFCが描くビジョンとともに話を聞いた。

「世界を変えるスタートアップ」を北海道から

HSFCが掲げる最大の目標について、小野氏は「ひとことで表すなら、『北海道から世界を変えるスタートアップが次々と生まれ、育ち続けるエコシステムを構築すること』」とする。

スタートアップ創出は、技術シーズを有する大学や研究者だけで完結できるものではなく、その成果を事業へと転換し、社会に価値を届けるまで、自治体、企業、金融機関など多くのプレイヤーによる支援が必要になる。HSFCが目指すのは、単なる起業支援ではなく、挑戦する人材が生まれ、その挑戦を地域全体が支え、さらに次の挑戦へとつながっていく循環型のエコシステムだ。

  • 大学や企業、自治体、金融機関など、多様な機関が参画するHSFC

    大学や企業、自治体、金融機関など、多様な機関が参画するHSFC

その実現に向けては、研究開発型スタートアップの創出支援に加え、学生や若手人材向けのアントレプレナーシップ教育にも積極的に取り組んでいるという。起業そのものだけでなく、課題発見力や価値創造力を持った人材を育てることが、将来のイノベーション創出につながるという考え方だ。

  • HSFCでは、学生や若手人材を対象としたアントレプレナーシップ教育にも取り組んでいる

    HSFCでは、学生や若手人材を対象としたアントレプレナーシップ教育にも取り組んでいる

大学連携の実績を有するHBAが参画する価値

そうした方向性を掲げるHSFCに、今回HBAが協力機関として参画した。HBAと北海道大学はこれまでも、アントレプレナーシップ教育の領域で継続的な連携を行っており、大学生・大学院生を対象にした教育プログラムや、地域課題解決プログラム、企業課題解決型プログラム「DEMOLA」など、さまざまな取り組みを行ってきたという。

またHBAは2025年12月、北海道大学と、北海道内の地域課題・社会課題を主体的に発見・解決できる「ソーシャルアントレプレナー」の育成を目的とした包括連携協定を締結している。

  • HBAと北海道大学は2025年12月、ソーシャルアントレプレナーの育成を目的とした包括連携協定を締結

    HBAと北海道大学は2025年12月、ソーシャルアントレプレナーの育成を目的とした包括連携協定を締結

「HSFCでは、スタートアップ創出は挑戦する人材を育てるアントレプレナーシップ教育から始まると考えています。その考え方に共感いただき、教育・人材育成からスタートアップ支援までを一体的に推進するパートナーとして、今回の参画につながりました」と小野氏。今回の参画は、スタートアップ創出の源泉ともいえる人材育成を最重要視するHSFCと、その考え方を共有するHBAとの連携をさらに深める動きとなるだろう。

またHSFCがHBAに期待する役割はITベンダーという枠にとどまらず、「北海道のスタートアップと地域産業をつなぐ共創パートナー」としての位置づけも重要とのこと。

AIなどのデジタル技術は、スタートアップの成長において不可欠な要素である一方で、優れた研究成果があっても、それを社会実装し事業化につなげるためには、IT技術や実証環境、事業ネットワークが欠かせない。ITソリューション企業として実績を有するHBAにとって、こうした領域は、これまで培ってきた知見を生かせる分野といえるだろう。

また小野氏によれば、北海道には農業、食品や環境分野など強みを持つ産業が多く存在するため、スタートアップと連携できる領域が広いのも大きな特徴とのこと。その連携促進においては、HBAが長年にわたり培ってきた技術力や顧客基盤、地域ネットワークが大きな価値を発揮する。HBAは今後、スタートアップとの協業や実証実験、技術的な助言などを通じて、北海道発イノベーションの創出加速に貢献していく見込みだ。

  • HBAと北海道大学が連携して実施した、商品開発・マーケティングを学ぶ実践型講義の参加者ら

    HBAと北海道大学が連携して実施した、商品開発・マーケティングを学ぶ実践型講義の参加者ら

北海道を“スタートアップの集積地”にするために

北海道では、食・農業、エネルギー、宇宙、バイオなど多様な分野に研究シーズが存在する。また、広大な土地を活用した実証実験を行いやすい環境も整っているという。人口減少や産業構造の変化が進み、全国各地で自ら新たな産業のエンジンを生み出すことが求められる昨今、個々の企業の取り組みだけに委ねるのではなく、地域に根差した産官学の各プレイヤーが連携しその土壌を整えることは、産業成長において不可欠な要素といえるだろう。

  • HSFCでは、人材育成から事業化、地域連携までを見据えたさまざまな取り組みを進めている

    HSFCでは、人材育成から事業化、地域連携までを見据えたさまざまな取り組みを進めている

HSFCが進める取り組みは、ただ起業を増やすことを目指すのではなく、人材育成から技術支援、そしてその先の事業化や地域連携を見据えたものだ。そこにHBAが加わったのは、IT力が求められただけでなく、北海道という地域に根差した“産業ハブ”として、北海道からスタートアップを世界に送り出すための一手だ。

HSFCが掲げる「北海道から世界を変えるスタートアップが次々と生まれ、育ち続けるエコシステム」の実現に向け、目的を共にし、そして後押しする一員が地元産業界から加わった。その歩みは、また新たな段階へと進み始めている。