前・後編をまたぐ大きな場面の一つが、常連客・まあちゃんの安否確認だ。毎日のように店に通っていたまあちゃんが、ある日を境に姿を見せなくなり、何度電話をかけてもつながらなくなった。不整脈があるといい、日立市内の病院をいくつも捜しても見つからない。
そんな中、まあちゃんの自宅に向かう「めぐみ」ママに同行することになった山本氏。この場面には強い緊張感があったという。
過去には、塙山キャバレーに関わる人物が孤独死し、かなり時間が経って見つかったこともあった。だからこそ、まあちゃんの家へ向かう時間は、「もしそうなっていたら…」と嫌な予感がしたのだ。
このように、塙山キャバレーでは飲み屋街の日常が、生死に触れる出来事へつながっていく場面が多々ある。山本氏は「きっとみんなが持っている、どこでもある話だと思うんです」と捉えるが、それが自然と出てくることを不思議に感じている。
「どの人にも身内にいろんな人がいるし、いろんな経験をされてきていると思うのですが、そういうことはよっぽど関係が深くないと話せないことだと思うんです。それが、塙山キャバレーでは普通に聞けるんですよね」
若い女性に面識のない年配男性が話しかけるというシチュエーションは、普通なら拒まれてもおかしくないが、塙山キャバレーでは会話として受け入れられる。山本氏は「何年通っても不思議。なぜか、みんなが受け入れ合うことができる空間」だと感じており、それが心の奥に閉まった話を打ち明けてしまう土壌になっているのかもしれない。
番組の視聴者が多数来店も「ママたちの力」
今回で第4弾を迎えた『ザ・ノンフィクション』の塙山キャバレーの物語は、現地に大きな変化をもたらしていた。
放送や配信で番組を視聴し、北海道や奈良から訪れた人、さらにはニューヨークから帰省した際に「塙山に行きたい」と足を運んだ人にも遭遇。山本氏は「『ザ・ノンフィクション』を見て来たという人が本当にいっぱいいて、週に1回は会いました」と驚きを隠せない。
さらに、東京の有名飲み屋街「新宿ゴールデン街」で店を営む人たちが、勉強のために6人ほどでやって来たこともあったという。
この変化を、山本氏は単純に「番組の力」とは捉えていない。
「きっかけは番組を見たことだと思うのですが、ママさんたちが面白いんですよね。遠方から一度来るだけじゃなくて、何度も通う人がいるのが、その証拠だと思います」
それをママたちも喜んでいるそうで、「“もう疲れた”とか“体がきつい”とか、みんないろんなものを抱えながらも店をやり続けているのは、やっぱり新しい人が来て、若い人たちが来てくれるから、それが活力になって喜んで店に立っているように見えます」と、バイタリティにつながっている。
