フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)で、2日に放送された『酒と涙と女たちの歌3 前編 ~塙山キャバレー物語 名物ママの卒業~』。茨城県日立市の国道沿いに12軒の小さな飲み屋が並ぶ「塙山キャバレー」の人々を追った作品で、40年の歴史を持つママの引退を中心に描かれた。
9日に放送される『後編~塙山キャバレー物語 突然の別れ~』では、あるママの突然の死が訪れる。取材ディレクターの映像作家・山本草介氏が、そこで感じた塙山キャバレー特有のママと客の関係性とは――。
仲間の墓を1年かけて探し出す
『ザ・ノンフィクション』で塙山キャバレーのドキュメンタリーを放送するのは、23年1月以来、約2年ぶり。今回の取材は、2024年の夏の終わりに、コロナ禍で中止されていた「はなやま祭り」が5年ぶりに行われるのを聞いてスタートしたが、現地で目の当たりにしたのは、未曾有の危機だった。
かつて日立製作所の企業城下町として栄えた日立市だが、事業売却や構造改革などに伴って事業所数が減少し、仕事終わりの一杯を楽しみにやって来る客も減少。そこに物価高が直撃するというピンチを迎えていたのだ。
それでも、「ママたちは皆さん、下を向いていませんでした。何十年もやってきた人にとっては、“前にもこんなことはあった”、“今を耐えれば”という気持ちを感じました」という山本氏。そのパワーの源泉は、ママたちの結束だ。
「自分の店の営業が終わると、どこかのママの店に集まって、愚痴をこぼしながら夜を過ごして別れていくというのを、毎晩繰り返しているんです。どこかでポツンとやっているお店とは違うつながりというのを感じます」(山本氏、以下同)
一般的な商店街と違い、同じ業種で並ぶ店同士は、客を取り合うライバルでもあるはずだが、「いろんな情報を交換しながら、何とか盛り上げようと皆さんで頑張っているんです」と、強い絆で結ばれている。
それを象徴するのは、前編で紹介された「のぼるちゃん」とのエピソード。かつて塙山キャバレーにラーメン店を出していたのぼるちゃんは、漏電による失火で隣接する店も巻き込む火事を起こしてしまったが、何もかも失ってしまった彼を、ママたちは仲間として受け入れていた。
のぼるちゃんが22年冬に孤独死すると、遺体の身元引受人になる親族がいないことから、お墓の場所も知ることができなかったママたち。だが、「関係者を渡り歩いて、1年くらい必死に探してお墓の場所を見つけたんです。その話を聞いて、本当にびっくりしました」と、執念の行動力に驚かされた。
悩みを抱える人が集まってくる場所
これまでの『ザ・ノンフィクション』での放送の反響は大きく、「僕が実際に会った人で、奈良から塙山キャバレーを目的に車で来たというご夫婦がいました。ほかにも、他県から相談したいことがあるとやって来た人にお会いしましたね」とのこと。元々出稼ぎで来る人が多かった街ということもあり、“よそ者”を受け入れてくれる土壌があるのだという。
「だから、僕がカメラを回しても許してくれたところがあると思います。初めて来たのに常連さんと仲良く話せるのも、塙山キャバレーの特徴だと思います」
もう一つの特徴は、様々な思いや悩みを抱える人が集まってくる傾向があるということ。「そういう人たちの寂しさやつらさを少しでも和らげるのは、やっぱり笑いであったりどうでもいい話であって、ママたちも自分がそのための存在であるということに、すごく自覚的なんです」と感じた。
ママたちが様々な悩みを受け止めることができるのは、彼女たちも離婚、身売り、蒸発、暴力団組長との結婚など、波瀾万丈の人生を歩んできたからこそ。
「“私もこういうことがあってさ…”と打ち明けてくれると、お客さんも話しやすいですよね。だから、ママたちはどんな苦労もどんな悲しみも、商売道具という“武器”に変えているんです。“ただ泣いてるだけじゃ負けだ”という印象がありました」
取材ではなくプライベートで塙山キャバレーを訪れることもある山本氏。「ちょっと家庭でいろんなことがあって、そのことを言おうと思ったら、僕の顔を見た瞬間に言い当てられました(笑)。“そういう男を何百人見てきたと思ってんだ”って言われて」と、お見通しだったそうだ。