コンビニやチェーン店のラーメンは、今や"手軽"だけでは語れない。一方で、ご当地ラーメンの世界にも、その土地に根付き、長年愛され続ける店が存在する。

観光客向けの名店だけではなく、県民の日常に溶け込み続ける一杯には、その土地ならではの食文化が色濃く表れているようだ。今回、ラーメンライター・井手隊長が、鹿児島県民の胃袋を支え続ける「ざぼんの里」を訪れ、"混ぜて食べる"名物「ざぼんラーメン」を実食。鹿児島のラーメン文化を読み解く。

鹿児島の与次郎で圧倒的な存在感の"ざぼん帝国"へ、鹿児島県民に愛され続ける「ざぼんの里」

鹿児島市・与次郎エリアを走っていると、ひときわ異彩を放つ巨大な「ラーメン帝国」が目に飛び込んでくる。今回訪れたのは「ざぼんの里」だ。

  • 鹿児島市・与次郎エリアの道路沿いに、ひときわ異彩を放つ巨大な「ラーメン帝国」が見えてくる

    鹿児島市・与次郎エリアの道路沿いに、ひときわ異彩を放つ巨大な「ラーメン帝国」が見えてくる

ここには「ざぼんラーメン 与次郎店」「ざぼんの茶屋」「麺処ざぼん」という3店舗が並び立っている。ラーメン専門の「ざぼんラーメン」、和食や洋食も揃うファミリーレストラン的な「ざぼんの茶屋」、そしてラーメンに加えてうどんやちゃんぽんまで楽しめる「麺処ざぼん」。用途に応じて店を選べる構成になっているが、どの店でも名物のざぼんラーメンを食べられるというのが面白い。

  • 「ざぼんの里」「ざぼんラーメン 与次郎店」「ざぼんの茶屋」「麺処ざぼん」

    「ざぼんの里」「ざぼんラーメン 与次郎店」「ざぼんの茶屋」「麺処ざぼん」

平日昼にもかかわらず、広大な駐車場はほぼ満車。次々と車が吸い込まれていく光景を見ているだけで、この店が鹿児島県民の日常に深く根付いていることが分かる。観光客向けの名店というより、地元の人々の生活に完全に組み込まれたインフラのような存在だ。

ざぼんラーメングループの歴史は古い。昭和21年に「天文館食堂」を開店し、昭和27年には西鹿児島駅(現在の鹿児島中央駅)に「西鹿児島駅構内食堂」をオープン。その後、与次郎、溝辺、七ツ島へと展開し、現在は鹿児島県内で7店舗を営業している。長く受け継がれてきた味が、今も県民に愛され続けているのである。

  • 昭和21年に「天文館食堂」を開店

    昭和21年に「天文館食堂」を開店

豪快に混ぜて食べる!? 「ざぼんラーメン」(980円)

店内に入ると、まず圧倒されるのが厨房の活気だ。巨大な釜に湯がグラグラと沸き、その中で大量のモヤシとキャベツが次々に茹でられていく。強火力で一気に仕上げるオペレーションは、まさに繁盛店そのもの。厨房を眺めているだけでもワクワクする。

そして特徴的なのが、スープを最後に注ぐスタイルだ。まず丼に麺が入り、その上に大量の野菜や具材が乗る。そこへ最後にスープを流し込むことで、スープの旨味が麺や具材全体へじわっと広がっていく。この工程がざぼんラーメンの個性を形作っている。

運ばれてきたラーメンは、実に壮観だ。

キャベツ、モヤシ、ネギ、揚げネギ、メンマ、キクラゲ、チャーシュー。7種類の具材がどっさりと盛られ、麺が見えないほど。いわゆる鹿児島ラーメンらしい豪快な一杯である。

  • ざぼんラーメンのこだわり

    ざぼんラーメンのこだわり

  • 「ざぼんラーメン」(980円)

    「ざぼんラーメン」(980円)

スープをひと口飲む。

豚骨ベースながらまろやかで、雑味がない。火力の強い回転釜を使い、手間ひまかけて炊き上げているというが、その丁寧さがよく伝わってくる。濃厚なのに重たくなく、優しいコクがじんわり広がる味わい。鹿児島ラーメンは白濁豚骨でありながら、博多ラーメンのような熟成系とはまた違う文化を持っているが、ざぼんのスープはその魅力を象徴しているように思う。

そして、ここで重要なのが「混ぜる」ことだ。

ざぼんラーメンは「麺を底から混ぜて、スープと絡んだ時に味が完成する」という哲学を持っている。

  • カウンターには"底から混ぜる"よう促す掲示も

    カウンターには"底から混ぜる"よう促す掲示も

最初は少し躊躇するかもしれないが、思い切って天地を返すように豪快に混ぜてみてほしい。すると下に沈んでいたタレがスープと絡み、野菜の旨みや揚げネギの香ばしさが一体化していく。これが実に旨い。

  • 思い切って"底から"天地を返すよう、混ぜてみる

    思い切って"底から"天地を返すよう、混ぜてみる

モヤシとキャベツのシャキシャキ感、揚げネギの香ばしさ、まろやかな豚骨スープ、そしてモチモチ感のある麺。それぞれがバラバラではなく、混ぜることで完成する料理として成立しているのだ。

  • シャキシャキの野菜や揚げネギの香ばしさ、豚骨スープ、モチモチの麺の相性が抜群の一杯

    シャキシャキの野菜や揚げネギの香ばしさ、豚骨スープ、モチモチの麺の相性が抜群の一杯

特に印象的だったのは、野菜の存在感である。 大量のキャベツとモヤシが入っていることで、豚骨スープに自然な甘みと軽やかさが加わっている。食べ応えはあるのに不思議と重くなく、どんどん箸が進む。

卓上に置かれた大根の漬物もまた、鹿児島ラーメンらしい風景だ。

  • 卓上には鹿児島ラーメンらしい漬物が

    卓上には鹿児島ラーメンらしい漬物が

「ざぼんの里」は鹿児島の食文化そのもの

鹿児島ではラーメン店に漬物が置かれていることが多いが、これが豚骨スープによく合う。ポリポリとかじりながらラーメンをすする時間がなんとも心地いい。こうした文化込みで、鹿児島ラーメンなのだと感じる。

「ざぼんの里」を訪れて感じたのは、ここが単なるラーメン店ではなく、鹿児島の食文化そのものだということだ。長く続く歴史。地元客に愛され続ける日常性。大量の野菜を使った優しい豚骨。豪快に混ぜて完成する独特のスタイル。そして家族連れからサラリーマン、観光客までを受け止める懐の深さ。

  • 井手隊長、「ざぼんの里」で鹿児島の食文化を堪能

    井手隊長、「ざぼんの里」で鹿児島の食文化を堪能

与次郎の巨大なざぼん帝国は、長年にわたって鹿児島県民の胃袋を支え続けてきた文化圏そのものなのだ。

鹿児島ラーメンを語る上で、やはりざぼんは外せない。そんなことを改めて実感させてくれる一杯だった。