村上春樹「真っ平らな広い土地に驚いた」神戸から東京に来た18歳当時の衝撃を語る
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。

5月31日(日)の放送は「村上RADIO~霧の中のジョニー~」をオンエア。今回は村上さんのレコードコレクションの中から「ジョニー」という名前がタイトルについた曲を集めてお届けしました。

英米では、男性にいちばん多い名前と言われる「ジョニー」。今回の特集では、多彩で個性的な“ジョニー”くんたちが登場。ロックの象徴としてのジョニー、内気なジョニー、死者の声を聴くジョニー……さまざまな「ジョニー」にまつわる音楽と、それぞれの物語をお楽しみください。

この記事では、クロージング曲、今月の言葉について語ったパートを紹介します。

「村上RADIO」

<クロージング曲>

Jim Hall「Two Degrees East, Three Degrees West」

今夜のクロージング音楽はピアニスト、ジョン・ルイスの作ったクールなブルーズ「二度東、三度西」です。アルトサックスはポール・デズモンド、ギターはジム・ホール。

今月の言葉は小説家・色川武大(いろかわ・たけひろ)さん――色川ブダイさんのエッセイ集『怪しい来客簿』にあった文章です。

<私が関東平野で育ったせいであろうか、地面というのは平らなものだと思ってしまっているようなところがある。まず、地面は平らであって。人はその平らなところに両足で立っているのだと。したがって山というものが、怖い。どうしてああなのか、納得がいかない>

確かに人には、生まれ育った土地の地形によって性格が固定されちゃう傾向があるようですね。「山に納得がいかない」というのはいささか極端なような気もしますが。

僕は色川さんとは反対に、阪神間(はんしんかん)という海と山に挟まれた狭い帯状の土地で育ったもので、平らな土地がわりに怖いです。18歳のときに東京に出てきて、中央線で荻窪あたりを走っていて「へえ、世の中にはこんな真っ平らな広い土地があるんだ」と驚愕し、怯えさえ感じました。ひどいところにきちゃったなあ、とね。今は神奈川県の前が海、後ろが山という土地に暮らしています。おかげでほっと落ち着きます。あなたは如何でしょうか?

色川さんとは一度お目にかかったことがあります。僕が『風の歌を聴け』という処女作で作家デビューして、芥川賞の候補になったけどとれなかったとき、僕が経営していた千駄ヶ谷のジャズの店に見えたんです。ジャズがお好きだったんですね。そして僕に「君ねえ、大きな賞を取るには、僕くらい禿(は)げてこないとだめなんだよ」とおっしゃいました。慰めていただいたというか。僕は「はあ、そうですか」と返事したんだけど、なかなか心優しい方でした。僕も年齢を重ねて、いくぶん髪の量も減りましたが、幸か不幸か、色川さんの域にはまだまだ達しておりません。

それではまた来月。

<番組概要>

番組名:村上RADIO~霧の中のジョニー~

放送日時:5月31日(日)19:00~19:55

パーソナリティ:村上春樹

番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/