出版社が舞台のドラマは編集部ばかりクローズアップされがちだが、当作は営業部、書店、漫画家、アシスタント、デザイナー、ライバル社、アマチュアなど、さまざまな立場で働く人々をくまなくピックアップ。「ビジネスは多くの人々によって成立している」ことを認識させるとともに、働くことの楽しさと難しさを感じさせた。
いわゆる“お仕事ドラマ”は登場人物のキャラクターをベースに協調や対立を見せてエンタメ性を高めるものが多いが、当作はキャラクターよりも「どのように働くか」という姿勢を重視。ネタバレを避けるべく詳細は控えるが、それぞれの仕事に向けた熱い思いがあふれ、毎話のように泣かせられる。
さらにその熱さは日曜劇場のような真っ赤に燃え盛る炎ではなく、心の奥からにじみ出るような青白い炎を感じさせた。「視聴者に“働く”ということを考えさせる」という意味ではこれぞ本物のお仕事ドラマと言っていいのかもしれない。
主演の黒木は「何でも柔道に置き換えて考え、ひたすらまっすぐに突き進む」というスポ根型のヒロインを好演。まっすぐな主人公だからこそ、彼女の視線が周囲で働く人々を映し出すテレビカメラのようになっていた。
『重版出来!』が放送された2016年の春ドラマには、朝ドラを終えたばかりの波瑠と土屋太鳳を筆頭に松下奈緒、中谷美紀、石田ゆり子、栗山千明、榮倉奈々ら、高い知名度と美ぼうを持つ主演級女優が集結。その中で黒木は明らかに演技力重視のキャスティングだったが、期待に応えて誰よりも生き生きとしたヒロインを演じ切った。
知名度や美ぼうに頼らないキャスティングだったからこそもたらされたのは、日常のリアルと親近感。視聴者が自分に置き換えて心に共感し、応援したくなるという心理状態が生み出されていた。
多くの著名漫画家に作画をオーダー
スタッフの仕事に目を向けると、野木亜希子の脚本、土井裕泰、福田亮介、塚原あゆ子の演出が光っていたのはもちろんだが、特筆すべきは劇中の漫画を著名な漫画家にオーダーしたこと。
『重版出来!』の原作者・松田奈緒子を筆頭に、『機動警察パトレイバー』などのゆうきまさみ、『帯をギュッとね!』などの河合克敏、『アフロ田中』シリーズなどののりつけ雅春、『ナマケモノが見てた』シリーズなどの村上たかし、『笑ゥせぇるすまん』などの藤子不二雄(A)、『あなたのことはそれほど』などのいくえみ綾ら著名漫画家が名を連ねた。
お仕事ドラマは多いが、『重版出来!』ほど“労働賛歌”というムードの作品は見当たらず、キャスト・スタッフの両方から「しっかり丁寧に」「とことん熱く」というプロフェッショナルの仕事を感じさせられる。
「一生懸命ってカッコイイ」「私も仕事、頑張ってみよう」と思わせるという意味で、ゴールデンウィークのような長期休暇中の視聴に最適なドラマと言っていいのではないか。
日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。
木村隆志
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