日本テレビが、ドラマとARG(Alternate Reality Game=代替現実ゲーム)を掛け合わせた新たな挑戦に乗り出した。日テレ発のARGブランド「Minibreak.」を立ち上げ、その第1弾として、きょう29日(25:35~)に30枠の完結ドラマを放送。“流出したドラマ台本”を起点に現実世界へと拡張し、視聴者を「見る人」から「介入する人」へと変えていく仕掛けだ。

ドラマ『AIに話しすぎた男』の企画・プロデュース、ARG『流出したドラマ台本』の監督・脚本を務めた日本テレビの岩崎林太郎氏に、この取り組みに込めた思いや制作の舞台裏、そして今後の展望などを聞いた――。

(※)…「崎」は正しくは「立つ崎」

  • ドラマ『AIに話しすぎた男』、ARG『流出したドラマ台本』

    ドラマ『AIに話しすぎた男』、ARG『流出したドラマ台本』

「記憶に粘っこく残るコンテンツ」を求めて

2017年に日テレに入社し、バラエティのADからキャリアをスタートした岩崎氏。番組制作に従事しながら、動画配信サービスの台頭を象徴としてデジタルの存在感が急速に増していく時代の変化を体感していく中で、そうしたツールを活用したコンテンツ制作に興味を抱き、ICT関連の部署に異動を志願する。新規事業として、従来の枠組みにとらわれないZ世代向けのドラマ制作を目指す「Zドラマ」の立ち上げにも関わった。

念願のドラマ制作に放送後は達成感も大きかったが、同時に襲ってきたのは「こんなに大変な思いをして作っても、1カ月後には誰も覚えていないのでは」という虚しさ。そこで、「どうすればコンテンツを人の記憶に粘っこく残せるのか」と考え、たどり着いた仮説が、参加性と体験性の重要さだった。

この一つの解としてゲーム事業を提案したが、そこでぶつかったのは、テレビ局がゲームに本格参入することの構造的な難しさ。大きなタイトルを作ろうとすれば数十億円規模の予算が必要になり、社内にゲームの専門家もいない。知見のない領域に対して大きな投資をする判断を引き出すのは、容易ではなかった。

そこで岩崎氏が選んだのが、当時日テレにあった「チャレンジ休職」という制度。最大2年間、外部で経験を積むことができるというもので、実写ゲームの制作経験も持つイザナギゲームズへと身を移す。テレビ局とは違う文化の中で様々な経験をしたが、ここで決定的な出会いとなったのが、ARGだった。

「ゲーム機や特定のフォーマットに縛られず、日常の中のあらゆるものが媒体になるので、ここにテレビ局が持つ“地上波”という誰もが知るメディア特性をかけ合わせたら、かなり優位性があるのではないかと思ったんです」(岩崎氏、以下同)

日常に浸透している地上波だからこそ、その延長で現実と虚構の境界というARGの特性を、より生かすことができるのではないか、と考えた岩崎氏。24年6月に日テレに帰任すると、同期入社の吉田健人氏とともに、すぐに事業企画の提案に着手した。

まずは、『人の財布』『かがみの特殊少年更生施設』といったARGで注目を集めるクリエイター集団・第四境界とタッグを組み、購入した実物の郵便物と、ウェブ上の情報を手がかりに、ある事件の真相を調査するミステリーゲーム『503号室の郵便物』を昨年8月にリリース。ここで一定の手応えを得て、いよいよ本格的に地上波を使った展開へ動き出した。

  • 『503号室の郵便物』

    『503号室の郵便物』

日常と非日常を接続させる「信仰心」の感情

様々な番組ジャンルの中から選んだのは、ドラマ。今回はAIへの依存と思考の放棄が破滅へ向かうストーリーを描き、ARG側でそのドラマ制作の舞台裏で起きたアシスタントプロデューサーの失踪を追うという二重構造を組んだ。プレイヤーは台本や放送映像、裏アカウント、映像アーカイブなどの手がかりをたどりながら、ドラマの主演俳優(砂田将宏)らと協力して彼女の行方を追っていく。

ここで描こうとしているのは、単なるAI批判ではない。岩崎氏はかねてから「信じてしまう気持ち」や「信仰心」に近い感情に興味を持っており、それは日常と非日常を接続させる仕組みであるARGとも相性が良かった。“信仰”の対象をAIとすることで、「AI依存が進む現代に対し、人間同士の対話の重要性を説く物語」を目指した。

ARGのコアとなるのが、日テレの古い「映像アーカイブシステム」を模した画面。本来は日テレ内部の人間しか使えないはずのシステムへログインし、ドラマの密着スタッフが保存していた制作現場の素材映像にアクセスする、という設定で事件解決のヒントを追う。

ドラマ本編の撮影と同時に、ARG側のカメラも回し、砂田がドラマの演技をしている横で、モニターを見ている制作陣の反応や、その演技に対してプロデューサーがやり取りする場面まで、そのまま素材として押さえた。ドラマ本編は「パキッとした良い映像」で仕上げる一方、ARG側の素材は徹底して生々しくするなど、質感の落差をつけて裏側のリアリティを際立たせている。

その動画の数は100本近く、計200分程度に。映像を生かす構造は、テレビ局が取り組むARGとしても意義があると言えるだろう。

  • 日テレの古い「映像アーカイブシステム」を模した画面

    日テレの古い「映像アーカイブシステム」を模した画面