まとまった時間を自宅で過ごすとき、自然と手が伸びるのが配信ドラマだろう。せっかく観るなら、「続きが気になって止まらない」だけでなく、「人の感情にじわじわ引き込まれていく」作品を選びたい。
Prime Videoのオリジナルドラマ『私の夫と結婚して』(全10話)は、まさにそんな魅力を持った一本だ。インパクトのある展開に加えて、佐藤健をはじめとする俳優たちの演技に魅入っていると、気づけば次のエピソードへと手が伸びている。
「やり直せるなら、どう生きるか」という問い
『私の夫と結婚して』は2025年に公開された当時、配信開始から30日間で、Prime Videoのオリジナルドラマとして国内歴代視聴者数1位を記録した。いまもランキング入りするほどの人気がある。満足度の高さは星4.4(5点満点)と、Amazonレビューにも表れている。
どこか引っかかりがあるタイトルは不倫ドラマのようにも思わせるが、実際にはそれ以上にドロドロした感情が渦巻く復讐劇だ。冒頭からヒロインの不幸っぷりで印象づける。
小芝風花が演じる主人公・神戸美紗は周囲を優先し、“いい人”として生きてきた女性。夫の裏切りをきっかけに、10年前の過去にタイムリープして自分の人生をやり直すストーリーが展開される。設定自体は劇的だが、小芝の演技は終始抑えられている。そのぶん、内面の揺れがじわじわと伝わってくる。怒りや悲しみを爆発させるのではなく、気づけば価値観が少しずつ変わっていく。その流れに、自然と彼女の選択に寄り添いたくなる。
その対極にあるのが、夫・平野友也だ。俳優としても評価を重ねてきたSUPER EIGHTの横山裕がマザコンでナルシスト、借金まみれという、いわば“嫌な男”を体現したようなキャラクターを演じている。どこか現実にいそうな温度感で、口元の歪みや、ふとした表情の変化から、不満や自己中心的な性格がにじみ出る。物語にじわりと緊張感まで生んでいる。
さらに、親友・麗奈を演じる白石聖にも目がいく。放送中のNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』で主人公(仲野太賀)の幼なじみで初恋の相手役に抜てきされるなど、いま注目を集める俳優だ。無邪気で親しみやすい表情の裏に、別の顔がのぞく。その切り替えが、思いのほか鮮やかだ。単純に善悪で割り切れない人物なのかどうか、惑わす。だからこそ、復讐の行方にもどこか余韻が残る。
そして、佐藤健が演じる部長・鈴木亘は、この物語に別の温度を持ち込む存在だ。復讐に向かう美紗に対して、静かに寄り添いながらも、もう一つの選択肢を示していく。強く引っ張るわけでもなく、ただそこにいる。その温かみが画面から伝わってくる。和菓子の最中(もなか)が2人のシーンで印象的に使われているのも、記憶に残るはず。
俳優たちの名演が繰り広げられることで、単なる復讐劇に収まらない広がりが生まれている。物語の芯にあるのは、「やり直せるなら、どう生きるか」という問いだ。過去に戻り、同じ過ちを避けるだけでなく、自分自身の価値観を見つめ直していく。そのなかで、復讐はいつしか目的ではなく手段へと変わる。誰かを破滅させることよりも、自分の人生をどう選び直すか。そんな視点が、観終わったあとに残る。
韓国ドラマの推進力と日本ドラマの細やかさが融合
この作品には、制作背景の面白さもある。原作は韓国の人気ウェブ小説で、韓国版のヒットからすべてが始まった。韓国版を手がけたヒットメーカーのスタジオドラゴンが日本版も仕掛け、松竹撮影所が制作を担い、Prime Videoオリジナル作品として生まれた日韓共同プロジェクトだ。韓国の一流制作陣と日本の俳優・スタッフが組むことで、韓国ドラマ的な推進力と日本ドラマらしい細やかさが絶妙に重なっている。
もちろん韓国版も見逃せない。『キム秘書はいったい、なぜ?』などで知られるパク・ミニョンがヒロインを演じ、日本版で佐藤健が担う役どころは『初恋DOGs』(TBS)で日本ドラマデビューを果たしたナ・イヌが好演している。夫役はコメディが得意なイ・イギョンが演じているだけに、どこか憎めない一面もある。そして親友役のソン・ハユンは、狂気を見せまくる。日本版の白石聖と並ぶ存在感だ。
実は日本版と韓国版では、エンディングが異なる。同じ物語でありながら、受ける印象は変わるだろう。その違いにも、思わず驚かされる。比較するというより、それぞれの良さを別の角度から味わう作品と捉えたほうがしっくりくる。
まずは日本版から入り、俳優たちの演技に引き込まれながら物語を追う。そのうえで、余裕があれば韓国版に触れてみる。そんな順番で観ることで、この作品の奥行きはより鮮明になる。気づけば日本版も韓国版も制覇してしまうような、没入感のある物語だと実感するはずだ。
長谷川朋子
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