政治家の不正を告発する文書をきっかけにすべてを失った与党幹事長の娘で秘書・星野茉莉(黒木華)が、政治素人のスナックママ・月岡あかり(野呂佳代)と出会い、東京都知事を目指して選挙に挑む“選挙エンターテインメント”の今作。
主演の黒木とは今回が初めての仕事で、佐野氏はオファーにあたって手紙を書いた。そこには、このドラマをなぜ作りたいのか、黒木が役者としてどう素晴らしいか、さらに「この業界、テレビドラマというものに対して、今自分がどう感じていて、それをどう抗っていきたいと思ってるか」をしたためたという。
佐野氏は「初めてのオファーは、会ったこともないのに“あなたのことが好きです”と言うようなものなので、思いを伝えるのが難しくて」とのことから、手紙という形を選ぶという。
TBS在籍時代、『20年後の君へ』(12年)というスペシャルドラマに主演した中井貴一に、番宣出演をお願いするため、時候の挨拶から始まる手紙を書いたところ、「なんだよ『拝啓~』って(笑)」と爆笑されたという佐野氏。それでも結果的には出演を引き受けてもらえたことを大切な思い出として、その後も折りに触れて手紙を書いているそうだが、「勝率は半分ぐらい(笑)」とのことだ。
共演の野呂は、「彼女の人生を借りようと思いました」とキャスティングした。演じるスナックのママは、過去に「全てを失った」出来事を抱える人物。AKB時代の総選挙でも決して順風満帆ではなく、バラエティやドラマで引っ張りだこの今の位置へすぐにたどり着いたわけではない野呂の歩みが、そのまま役の説得力につながると直感した。
さらに、「野呂さんみたいな、ちょっと乱暴にいうと生っぽい魅力のある人が選挙カーの上に乗っていたら、自分だったら投票したくなるかもと思って」といい、演技の上手さだけでは出せないリアル感に期待を寄せている。
出産を経て「家族のシーン」に向き合えるように
佐野氏にとって『エルピス』から3年半ぶりの連ドラ。その間に出産を経て、物語を見る目に変化があったという。これまでは母と子の場面で“娘”側に感情移入していたのが、今は「さすがに母が半分ぐらいになりました」といい、今作でも「母親の目線で、“娘にこんなことを言わなければならなかった理由は何だろう”と考えるようになったことは、自分の中で結構大きいです」と感じている。
「自分自身がわりと家族といろいろ不和や葛藤を抱えていた人間なので」という背景もあり、これまでは自然と家族のシーンを避けがちだったという佐野氏。今作は比較的そうした場面が多いというが、それは蛭田氏の持ち味に加え、自身が新しい家族を持ったことで「ちょっと乗り越えられたところがあるなと思います」と明かした。
『大豆田とわ子と三人の元夫』ではTBSの藤井健太郎氏(『水曜日のダウンタウン』など)がプロデュースする楽曲が彩り、『エルピス』では元テレビ東京の上出遼平氏(『ハイパーハードボイルドグルメリポート』など)が企画として参加するなど、佐野プロデュース作品ではエンディング映像にもこだわりを見せてきたが、「今回、そういうのはないんです」とのこと。ただし、「今までとは違いますが、ちょっと面白い試みはしています」と、何かしらの仕掛けがあることを示唆している。
●佐野亜裕美
1982年生まれ、静岡県富士市出身。東京大学卒業後、06年にTBSテレビ入社。『王様のブランチ』を経て09年にドラマ制作に異動し、『渡る世間は鬼ばかり』のADに。『潜入探偵トカゲ』『刑事のまなざし』『ウロボロス~この愛こそ、正義。』『おかしの家』『99.9~刑事専門弁護士~』『カルテット』『この世界の片隅に』などをプロデュース。20年6月にカンテレへ移籍し、『大豆田とわ子と三人の元夫』『エルピス―希望、あるいは災い―』、さらにNHKで『17才の帝国』をプロデュース。23年1月に映像コンテンツのプロデュースや脚本作り、キャスティングなどの支援を行う「CANSOKSHA」を設立。『カルテット』でエランドール賞・プロデューサー賞、『大豆田とわ子と三人の元夫』で大山勝美賞を受賞、『エルピス』で芸術選奨・新人賞(放送部門)を受賞している。


