コイト電工が開発中のシート、負担軽減と利便性向上に貢献できる?
ここからは車両メーカー・鉄道事業者以外の出展も見ていく。鉄道車両の座席や灯具・案内表示器など手がけるコイト電工は、開発中の新しい座席を展示し、来場者の注目を集めた。
1つ目は「座ぶとん濡れ検知機能」。座面の生地繊維で濡れを検知し、リアルタイムの管理画面に座面が濡れているかを表示する。傘の水滴や、服の蒸れでは濡れの表示はせず、おもに飲みこぼしなどに反応。濡れた座面は新しいものに交換する前提で開発を進めているとのこと。これにより、清掃前に座席の状態を把握できるため、清掃員の負担軽減が期待される。一般利用者の着席前に対処できることから、サービス性も向上する。
2つ目は、前回の鉄道技術展で展示していた着座検知機能を発展させた「不正着座防止シート」。発券情報と連携させることで、予約されていない座席の背もたれを変形させ、物理的に座れない状態にする。発券された座席は背もたれが元の形状に戻って着席可能となり、利用区間を過ぎると再び着座できなくなる。開発名の通り、発券情報と組み合わせて不正乗車防止をねらい、将来的には車掌・アテンダントレスへの対応も視野に入れているという。
3つ目は「レッグレスト自動制御シート」。ハイグレード座席で見かけるレッグレストは、身長または足・靴のサイズで前席に当たる場合がある。その対策として、リクライニング時、前席に当たらない角度でレッグレストを自動調整する。筆者もこの座席を体験したが、背もたれは従来通り後ろに倒れる一方、レッグレストは靴が前席に当たらない位置に戻ろうとしている動作が印象的だった。足を前に出しても、爪先がバックシェルに干渉しなかったので、そうした煩わしさが軽減されることを期待したい。
最後は「テーブル自動収納シート」。折返し作業時、回転クロスシートを自動転換する動作の一環として、背面テーブルも自動で収納される座席となっている。テーブルラッチは自動復帰付きの縦スライド型で、ラッチを上げることでテーブルを引き出すしくみ。閉じる際はテーブルを押し込むだけでロックできる。清掃のために引き出したテーブルも一度に収納可能と考えられ、実現すれば清掃員の作業負担を軽減することにもつながる。
ここまで紹介した座席はいずれも開発中であり、実用化までに時間を要すると思われるが、現場作業員の負担軽減と、一般利用者の快適性向上をぜひ両立させてほしい。コイト電工はその他にも、LED室内灯や前照灯などの灯具類、一体型LCDおよび無線・通信装置等の見本も多数出展していた。ロング・クロス転換シートや東武鉄道「スペーシアX」(N100系)の「プレミアムシート」も前回に続いてブース内で展示された。
音楽館のシミュレータ技術、司機工のマスコンユニットに注目
鉄道事業者向け・コンシューマー向けの鉄道運転シミュレータを手がける音楽館は、可搬式のワンマン運転対応型運転士訓練シミュレータの展示と実演を行った。このシミュレータは、実際の撮影風景をベースに、信号や人の流れなど変化のある部分にCGを使用。リアルな映像とともに、乗務中に起こりうるさまざまな状況に備えた訓練を行えるようにしている。
各日4回ずつ、南武線・鹿島線・鶴見線のデモ運転を実施しており、筆者の取材時には鶴見線のデモ運転が行われていた。JR東日本川崎統括センター・鶴見線オフィスの社員が、国道駅から海芝浦駅までの運転・指令を担当。国道駅から鶴見小野駅までトラブルなく進んだが、弁天橋駅へ走行中に車内非常通報ボタンが作動。同駅発車時に信号機の誤作動も発生し、そのつど利用者や指令と連絡を取り合いながら対処していった。
他にも、無理な踏切横断を確認して非常停止、降雪による減速運転、荷物挟まりや保護装置作動に対処しながら、海芝浦駅までのデモ運転を完了した。
このように、実際に起こりうる状況を想定した乗務員訓練として、音楽館のシミュレータが活用されている。このシミュレータは可搬式で、大がかりな工事を行うことなく人力で動かせるため、さまざまな場所で活用できるとのことだった。
その乗務員訓練用シミュレータ技術をコンシューマー向けに活用したのが「JR東日本トレインシミュレータ」。PCゲームプラットフォーム「STEAM」で配信され、NVIDIAが提供している「GeForce NOW」によるストリーミングプレイにも対応している(「STEAM」アカウントが必要)。JR東日本の路線を幅広く収録したほか、最近では東武東上線・東武スカイツリーラインも配信開始した。ブース内にマスコンユニットを使用した体験コーナーも設けられた。
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「JR東日本トレインシミュレータ」体験コーナー
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軽量型ホームドアで、ホームの補強を軽減し、導入コストを低減できるという
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展示の「賢い瞳」はホーム4線に設置し、列車が入線した優先監視対象に自動で切り替わる
その他、京急本線の汐入駅、西武多摩湖線の国分寺駅、JR筑肥線の下山門~筑前前原間で使用されている軽量型バータイプホームドアや、開発中の監視システム「賢い瞳」といった鉄道現場で役立つ設備も展示された。
音楽館のブースでも使用されたマスコンユニットは司機工が手がけており、同社も出展。前回の鉄道技術展以降、このマスコンユニットは「JR東日本トレインシミュレータ」公式マスコンユニットとして正式に商品化されたという。価格はマスコンユニット単体で250万円、マスコンユニット・計器セットで300万円、フルセットで380万円。受注生産と価格面から購入数は多くはないものの、取材時点で購入者はいたとのこと。同商品は、JR東日本が運営する総合ショッピングモール「JRE MALL」で販売されている。
マスコンユニットを使用した鉄道模型用ワンハンドルコントローラー(試作品)も、前回に引き続き出展。今回はE233系3000番代をカメラカーとし、カメラの映像も見ながらNゲージを運転できる体験コーナーとして展開された。鉄道模型コントローラーとしてのマスコンユニットはPWM制御で、内蔵PCに車両データを読み込ませることにより、その車両の加減速性能を再現可能。現在も試作段階につき、機器構成や販売形態、価格などは未定だが、このマスコンユニットに目を向ける来場者も多く見られた。
Nゲージレイアウトも前回から増設され、司機工が実車の整備・改造で携わった車両を展示していた。冷房や排気口周辺の汚れをウェザリングで再現しており、鉄道模型のグレードアップ術としてもクオリティの高さがうかがえた。鉄道事業者向けに実車の脱線復旧装置などの展示・実演も行った。
ヤマダ金属商会による5インチゲージ鉄道の阪神電動貨車
最後に、今回が初出展となるヤマダ金属商会を訪ねた。同社は群馬県伊勢崎市を拠点に、ミガキ棒鋼の専門卸と5インチゲージ鉄道関連設備を取り扱っている。ブースでは、阪神電気鉄道に在籍した電動貨車201・202形や、5インチゲージのレール・まくらぎなど展示していた。
201・202形の5インチゲージ車両は、阪神電気鉄道の許諾・協力を得て実現。大部分を鉄で製作しつつ、内装・床下機器など一部部品に3Dプリンターを使用した。外観は、阪神電気鉄道から5001形の車番プレートを借り、その色をもとに調色して再現。ボルスタ台車も実車同様の動きをする。24V(12V×2)のバッテリーによって駆動も可能とのこと。ヤマダ金属商会はSNSおよびYouTubeにも積極的に投稿しており、それを見て訪ねてくる来場者もいた様子だった。
一方、レールやまくらぎについても、実車用を製造しているメーカーにそれと同じ素材の5インチ用を依頼して実現。5インチゲージ鉄道といえば、人が乗れるアトラクションをイメージする人も多いと思われるが、精密に再現することで、鉄道事業者や教育・研究機関の実験・教材用として活用することも可能だという。屋内の限られたスペースに設置でき、実車と比べて低コストながら、実車に近い環境で利用できる。今後も5インチゲージでより本物に近づけたモデルを開発・提案していくとのことだった。
今回、筆者は3日間にわたり鉄道技術展を取材した。当記事で紹介できた企業はほんの一部のみだが、それでも各社の得意な分野で鉄道業界を支えていることがうかがえた。ビジネス向けイベントの都合上、一般利用者の目に触れるもの、利用できるものには限りがあるが、今回出展された新技術が近い将来、鉄道の現場を助ける、あるいは一般利用者の日常利用を支える日が来ることを期待したい。


















