幕張メッセで11月8~10日に開催された「第8回 鉄道技術展」では、鉄道を裏から支える技術を持ったさまざまな企業が出展していた。鉄道車両の整備・改造や関連機材を手がける司機工は、シミュレーターおよび鉄道模型のコントローラーとして使用可能な「マスコン型汎用コントローラー」を展示。SNSでも話題になった。

  • 鉄道技術展の会場に展示された司機工のワンハンドルコントローラーが話題に

東京都中野区に本社、埼玉県八潮市に工場を置く司機工は、東日本の各地に拠点を置き、鉄道車両の製造・整備・改造をはじめ、テーマパークのアトラクションの保守にも携わっている。鉄道整備関連機材の製造も行い、鉄道技術展でも脱線復旧機材の見本や車両改造実績のパネル展示を行っていた。同社公式サイトを見ると、秋田内陸縦貫鉄道の観光列車「笑」などの実績が紹介されている。

同社ブースの通路に面した位置に、ワンハンドル型のマスコンを模して開発中の「マスコン型汎用コントローラー」が展示され、展示用のシミュレーターやNゲージレイアウトで体験運転を行っていた。これがSNSで話題となり、歩いている途中で目を向けたり足を止めたりする来場者も多かった。コントローラーを握って実際に体験する人も後を絶たず、非常ににぎわっていた。

「マスコン型汎用コントローラー」の担当者によると、この製品は自身の鉄道模型好きが高じて企画に至ったという。前方の計器盤パネル筐体内に小型のPCを内蔵しており、画面に計器類を表示することができる。コントローラーと一緒に専用アプリも開発し、外部読込みデータとして車両設定を読み込むことで、音や加減速性能を再現できる。鉄道模型用として使用する場合、制御方式はPWM制御(パルス幅変調制御)となり、アプリ側の設定でデューティ比を変更できる。つまり、停車中にもライト点灯が可能になる。PCとコントローラーはUSB接続。試作機では、HOゲージを想定して15Vまで対応しているとのこと。

  • 司機工ブースの一角に、「マスコン型汎用コントローラー」が2台展示された

  • コントローラー部分

  • 速度計、ブレーキ段数、電圧などの計器類を表示

  • レバースハンドルを前に倒して前進

線路に給電するフィーダーコードとコントローラー側の配線をつなぐ際、線路側のフィーダーコードは無加工で済むように、コントローラー側の端子を調整しているという。ただし、今回使用した線路はユニトラック(KATO)のため、それに合わせたつくりになっている。

会期中、用意したレイアウトに「マスコン型汎用コントローラー」を接続し、展示走行と体験運転を実施。このレイアウトには、周回用の線路3線と、車両基地を兼ねた引込線が配線されており、「マスコン型汎用コントローラー」は外側と中央の線路に接続されていた。鉄道技術展の会場では、とくにこのコントローラーとレイアウトに目を向ける人が多く、運転体験をする人も多く見られた。中には親子で訪れた来場者もいて、本格的な模型運転を楽しんでいた様子だった。

  • Nゲージレイアウトの外側2線に「マスコン型汎用コントローラー」を接続し、展示運転を行った

筆者が訪問したとき、線路には上沼垂色の485系ボンネット車、秋田色の701系、秋田内陸縦貫鉄道AN8800形が走行しており、羽越本線や奥羽本線をほうふつとさせた。車両を見ても、乗降ドアに色差し、屋根に適度なウェザリングが見られた。おそらくKATO製と思われるキハ47形首都圏色の側面に、購入直後は印刷されていないJRマークが加えられていたこともあり、担当者の鉄道模型好きがうかがえる。

  • 上沼垂色の485系ボンネット車。先頭「クハ481-500番代」はフリーランス仕様

  • 485系と701系が駅ですれ違う。右奥から秋田内陸線の気動車も

  • 車両基地にE235系や気動車も並べられていた

筆者も実際に「マスコン型汎用コントローラー」で701系を運転してみた。ワンハンドルとはいえ、独特の重みに緊張を感じつつ、ハンドルを減速から加速へ。ハンドル操作に連動して、計器画面のブレーキ段数が下がっていくところも確認できた。ハンドルを動かした際にノッチを刻む音も、まさしく本物さながら。

加速を始めた車両は、実車のように少しずつ速度を上げ、それに合わせて速度計の針も動いていく。一般的なコントローラーと比べて加速はゆっくりだが、列車にカクつきはなく、なめらかに速度を上げた。本格的なマスコンを握りつつ、自分の運転で走る鉄道模型を眺められるのだから、鉄道ファンやこどもたちが楽しめることは間違いないだろう。惰性で何度か周回した後に減速に入った際、実車と同じく急には止まれないことを意識しつつ、無事に駅に停車した。

  • 筆者は「マスコン型汎用コントロ-ラー」で秋田色701系を運転

「マスコン型汎用コントローラー」は、おもに博物館、鉄道イベント、鉄道模型メーカーのショールーム向けを想定しているとのこと。一般ユーザーとしては、Nゲージをフル編成で走らせる場合やHOスケールユーザー向けになると思われる。計器盤はセット品ではなくオプションとなるので、マスコン単体とノートPCの組み合わせでも使用可能になる。ちなみに、鉄道会社社員と思われる来場者から「イベントにこういったものがほしい」という声を耳にしたほか、このコントローラーを見るためにブースを訪問する人も多かったようで、期待度は十分だと見受けられた。

なお、鉄道模型の大手メーカーの中では、KATOもワンハンドルコントローラーの開発を行っている。TOMIX(トミーテック)からは、「TCSパワーユニット N-DU101-CL」の製品名でワンハンドルのコントローラーが2015年12月に発売されている。司機工のワンハンドルコントローラーは、これら2社と比べても大型で、価格も高額になるかもしれないが、筆者の体感として、このコントローラーで鉄道模型を運転している間は非常に胸を熱くした。今後の展開に期待したい。